夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第2章

第19話 人時々蓑虫

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「お前に言ってるんだよ!!聞いてるのか!?おい!!」

テッテリードは、さらに距離を詰めて来ると、俺の服、襟首の辺りを掴んで声を上げる。

…え?いやいや、この状況でこの態度、何様なんだ?
こいつの思考が理解出来ないし、したいとも思っていないが、もしかして…これは喧嘩を売られているのか?

…とりあえず、いきなり怒鳴る奴とまともに会話できるとは思えないし、これ以上何かされる前に、動けないように毒蔦を展開してしまおう。

「…毒蔦縛ポイズンアイビー。」

突然地面から伸びて足に絡みついてくる毒蔦に、テッテリードは俺から手を離して慌てふためいていた。

「な!いた!なん!ぐへ!!」

毒蔦の棘が足に刺さったんだろうか?
既に足首までガッチリ固定された状態でいきなり動こうとしたから、そのまま体勢を崩して地面に倒れ込んでしまった。

テッテリードの足を拘束した毒蔦は、そのまま成長し続けていき、首から下の動きを完全に抑え込むことに成功する。

そんなテッテリード、いやテッテリードイモムシを見下ろしながら、掴まれた服を直していると、これが結構強めに持ってくれたようで、胸元のボタンが1つ取れて無くなっているのが分かってしまった。

…この草むらから探さないといけないとか…本当に何してくれてんだ、このゴミは…

「うぎ!!お、お前!!俺にこんなことしてタダで済むと思うなよ!!
テルテット商会は、身内の受けた屈辱は商会を上げて晴らすんだからな!!
クソ!いだ!おい!これをさっさと外せ!!」

うん、商売をしていたら、強気に出ることも必要な時もあるのかもしれないが…相手と状況を見ていないのは致命的でしかない。

テッテリードイモムシは自分の置かれた立場が分かっていないんだろう。

今までは商会の看板を出して高圧的に出れば、どうにかなってきてしまったんだろうな…

「クソ!!お前ら、覚悟しろよ!!」

既に脅威でもなんでもないテッテリードイモムシに、ほんの少しだけ哀れみを覚えた気もするが、俺の中ではこいつをどうするかは殆ど決まっている。

ま、一応優子マメと相談してからにするけどね。

「ちっ…うるさいから、もう喋るな。」

「ひっ!な!やめ…」

俺が毒蔦の根元に手をかざし、テッテリードイモムシの全身に達するように力を込めると、ザワザワと音を立てながら毒蔦は一気に成長していく。

ほんの数秒で、テッテリードイモムシの体を覆い隠してしまい、本当のイモムシ、いや、ミノムシみたいにしてしまった。

「なぁ、一応確認なんだが、テルテット商会ってのはこんな奴ばかりなのか?」

「あ…私ですよね。えっと、流石に全員が全員じゃないと思います。村に来ているシャクルさんは良い人でしたし…」

シーホはそう言っているが、村で会った奴も少ししか話していないが、俺に言わせればこのゴミと大差なかった印象だ…

「良い人…ねぇ…」

よし、テルテット商会の店は、今後どこかの街にあっても極力使わない事にしよう。
こんな奴らに、わざわざ金を落としてやる必要はないからな。

とりあえず動けないテッテリードミノムシを蹴り飛ばし、少しだけ憂さ晴らしをしてみるが、あまり気は晴れなかった。

助けられたのに礼も言わない奴に、おれが敬意を払う必要性は皆無だからな。

それに、自分を守る為に死んだ者に文句を言う奴なんか、同じ人間だと思いたくもないし、そんな奴に生きている価値はないさ。

テッテリードミノムシを見下ろして何度も蹴りながら、俺はそんなことを思っていた。

「ぼ…ねぇ、あんまり蹴ると靴に穴が開くよ?」

優子マメに言われて確かに、毒蔦の棘で穴が開くかもしれないなと思い、蹴るのをやめた。
テッテリードミノムシ相手に靴までダメにしたくないからね。

「ふう…少し気が晴れた…かな。」

蹴る度にくぐもったような悲鳴をあげていたテッテリードミノムシだったが、まだ微妙に動いているし死んではいないだろう。

少しやり過ぎた感はあるが、どうにもこの手の奴には苛立って仕方ない…

テッテリードミノムシの上に、踏みつけるように足を乗せて、後ろを振り向く。

「さて、それでだ…こいつはこれからどうする?話ぶりだと、生かしておくと商会巻き込んで襲って来るみたいだし、俺は殺すべきだと思っているんだが?」

こいつを生かしておくメリットは、まったくと言っていいほど無い。
デメリットはいくらでも思いつくけどね。

「別にいいけど、わざわざ殺さなくても、ここに放置しておけばいいんじゃないかな?」

優子マメが言うように放置することも考えた、でも…

「街までは結構な距離があるみたいだけど…生き残られたらどうするんだ?
多分さっきみたいに訳のわからんことを言って、俺らを貶めようとすると思うぞ?」

「そうか…なら任せるよ。」

あまり興味が無くなったのか、優子マメはそれ以上何も言ってこなかった。
こんな奴に頭を使いたくないんだろうね。

「他には?何かあるか?」

「え、あ、特にないですけど…あの、本当に殺すんですか?」

シーホは、さっきよりも少し顔色が悪くなったように見える。
人の生き死にが目の前で決まろうとしてるんだから、この反応が正しいんだと思う。

ただ…俺にとって、そんな倫理観なんてのは、もうどうでもいいものになっているんだと思うんだよね。

「もちろん、必要があるなら俺は殺すよ。」

俺が言い切ると、シーホの顔色がさらに悪くなった気がした。
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