夫婦で異世界放浪記

片桐 零

文字の大きさ
上 下
76 / 100
第2章

第14話 上から来た

しおりを挟む
ゴツゴツした多頭鰐スクナダイルの皮膚に触れたと思ったら、その巨体が一瞬で消えてしまった。

「……は?」

『特殊実行。ストレージリングを操作します。多頭鰐スクナダイルの魔石分離を完了しました。
展開魔法の解呪を実施。展開中の毒液の檻ベノムケージ及び毒蔦縛ポイズンアイビーの解呪を完了しました。』

「は?ちょ、え?」

展開が急すぎて、まるでついていけない…
終わった…でいいのか?

『権限解放。緊急脅威体の無力化を確認。緊急状態の解除により、権限を解放します。
合わせて、高負荷によるエラーを解消するため、再起動を実行します。』

「…じ!がぎ!!!」

戦闘終了と共に、ナビさんが俺の体を動かすことをやめ、それによって体の機能が戻されたのだが、足の痛みも戻ってきてしまい、激痛に悶えることになった。

「な…!!ぐ…!!麻痺毒枷パラライバンド!!」

魔法によって、なんとか痛みを抑えることが出来た。

「ナビ!少し説明しろよ!?」

…あれ?
いつもならすぐに回答が来るのに、一向に回答が来ない。

「おい、え?ナビ?聞いてるか?おーい…」

ダメだ…
再起動するって言ってたから、それが原因だと思うけど、ナビさんと意思疎通が出来なくなってしまった。
呼びかけても、なんの反応も返ってこなくなってしまった…

「どうなってんだよ…くそ…この足じゃ歩けないよな…」

魔樹まで戻れば、優子マメに治してもらえるのだが、潰された右足は痛々しい状態になっているので、見ているだけで抑えた痛みが戻って来る様な気までして来る…
早くなんとかしないと、このままじゃまずい状態なのは分かっているが、歩くことができる状態ではない。

「…よし…毒蔦縛ポイズンアイビー。」

傷口がこれ以上広がらない様に注意しながら、毒蔦を右足に巻きつける様に展開して固定する。
足が動かない様に固定できたら、そのまま体全体を少し地面から浮かせる様に毒蔦を操って持ち上げる。

「おっと…バランスが難しいな…」

毒蔦の成長に指向性を持たせることで、地面を這うように魔樹に向かって伸ばしていく。
歩くくらいの速度しか出ないが、上に乗っていればきっちり進んでくれるので、これはこれで何かに使えるかもしれない…

ウネウネと進む毒蔦が、2分くらいかけて魔樹の下まで伸びてくれたのだが、優子マメはまだ回復していなかったようで、魔樹の下で座ったままだった。

優子マメ。終わったぞ。とりあえず、これ…治してもらっていいか?」

「え?あ、うん…」

優子マメに足を治すためのヒールと、麻痺を治すためのキュアをしてもらう。
痛みがなくなり、問題なく動かせることを確認すると、俺は立ち上がって優子マメの前に立った。

「…それで、怪我はないか?」

「多分…うん、無いよ。」

「そうか。それなら良かった…とでも言うと思ったか!?」

「にゃ!」

優子マメの頭を、いつもより少し強めにチョップする。
変な声を出しているが、そんなことはどうでもいい。

「なんで降りてきた!しかも降りてきて速攻で動けなくなるし!怪我したらどうするつもりだったんだ!!」

降りて来るなって言ったのに、なんで優子マメが降りてきたのか。

俺が怪我する分には、後で優子マメに治してもらうことだって出来るだろう。
生命線である回復役が、軽々しく前に出るなんて、あってはならないことなのが分かっていないとしか思えない。

「叩かなくてもいいじゃん…」

「何かあってからじゃ遅いんだよ!少しは考えて行動し…」

「…さー…」

何か聞こえた気がして、魔物モンスターが残っていたのかと辺りを見渡す。
何も…いない?

ガサ

上から音がして見上げると、白い塊が降ってきていた。
後ろに倒れながらそれをなんとかキャッチする。

「おわ!…え?でっかちゃん?」

「ぼんさーん…うぅ…」

なんで降ってきたのかは分からないが、腕の中には大きい方のぬいぐるみが小さく震えていた。

「どうしたよ…ん?」

「ぼんさん怪我してた…危ないことしないって言ったのに~…」

泣いている?のか?
元がぬいぐるみなので、涙は流していないが泣いているらしい…

優子マメを怒っていたのに、完全に毒気を抜かれてしまった…

「えっと…ほら、怪我は治ったし。大丈夫だから、な?」

まるで聞いてくれない…
今回は俺、悪く無いと思うんだけどな…
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon
ファンタジー
色男で女性関係にだらしのない政略結婚なら最悪パターンといわれる上官が電撃結婚。それも十六歳の少女と。下士官ジャックはふとしたことからその少女と知り合い、思いもかけない顔を見る。そして徐々にトラブルの深みにはまっていくが気がついた時には遅かった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

処理中です...