夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第2章

第11話 魔樹の実

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「足りない…?ナビ、足りないってことは、なんとかできるんだろ?どうしたらいいんだ?」

生体魔素転換路エーテルリアクターの活性が足りない…
これはかなりマズイ状況だ…前にも魔法が使えなくなって酷い目にあいかけたが、あの時は、随分待たされたのを覚えている。
でも、今はそんなに待っている余裕は無い…

『回答提示。旅する魔樹大老トラベルトレンダーの果実を摂取して下さい。
摂取することで、完全ではありませんが生体魔素転換路エーテルリアクターの活性を回復することができます。』

「なに?魔樹の実で回復できるのか?どういうことだ?」

『回答提示。生体魔素転換路エーテルリアクターの活性は、魔法を使用する際に蓄積される、少量の不活性残留魔素により徐々に阻害されていきます。
これが生体魔素転換路エーテルリアクターの不活性の要因であり、許容値を超えると魔法が使用できなくなります。
通常は、時間経過により徐々に体外に排出されるため、問題になることはありません。
今回は、旅する魔樹大老トラベルトレンダーの果実を摂取することで、果実に含まれる成分…』

「ちょ、待ってくれ。今説明を聞いている余裕は無いだろ。」

ナビさんの説明を止め、ストレージリングにいくつか入れていた魔樹の実を取り出して口にする。

いつも食べている果実の味だけで、食べても特に変わった様な気はしない…

「なにも変わらない気がするが…ナビさん、これで良いのか?」

『回答提示。不十分です。現在のマスターの生体魔素転換路エーテルリアクターは、活性値が低い状態にあります。
現在想定される必要活性値を得るには、旅する魔樹大老トラベルトレンダーの果実9個を摂取する必要があります。』

…9個…一度に食べるには多いな…

「いや、今は食うしか無いか…」

ストレージリングの中を確認すると、魔樹の実が12個入っていた。
数はなんとか足りそうだが、問題はそんなに食えるかだな…

「よし!考えていても仕方ない!ナビ、食いながら作業するぞ。指示は頼んだ。」

「要請受諾。毒液の檻ベノムケージの展開範囲を確定させます。移動を開始してください。』

ナビさんの指示通りに動きながら、魔樹の実をドンドン食べていく…が、5個目くらいを食べ終えたくらいから、果物特有の甘い味に飽きて来た…


「…後1個…もう、これを食べたらしばらくは食べないからな…」

ナビさんの指示で草原をウロウロしながら、やっと最後の1つまでたどり着いた…
今すぐにでも、塩っけのあるものが食べたい…

『行動提案。この場で留まって下さい。』

ナビさんに言われるままに立ち止まり、最後の1つに齧り付く。
なんとかそれを飲みくだし、一息ついていると、ナビさんから声がかかる。

『行動提案。毒液の檻ベノムケージの範囲指定が完了しました。魔法を使用して下さい。』

「やっとか…よし。毒液の檻ベノムケージ!!ぬへ!?」

大量の果実を食べたことによる気持ち悪さを吹き飛ばそうと、少しだけいつもより力を込める感じで魔法を展開したのだが、凄まじい勢いで何かが吸われて行くような感覚に襲われた。
今まで何度も魔法を使ってきたが、初めて感じる感覚に、思わず膝をついてしまう。

「なん…あ、治った…」

ほんの数秒で、その気色の悪い感覚もなくなり、周りを見渡して見るが、毒液の檻ベノムケージを展開したら出てくる筈の薄黄色の毒液が、どこにも見えない…

まさか…失敗したんじゃ…

そんな不安を感じ、ナビさんに問いかける。

「ナビさん?これは…どうなってるんだ?」

『回答提示。広範囲且つ変形した形で展開するため、地面から3cmの高さで毒液の檻ベノムケージの展開範囲を設定しています。
これは、現在接近中の敵性体に知覚されにくくするための措置でもあります。』

ナビさんに言われ、地面に伏せるようにして見てみると、確かに草の間に薄黄色の毒液が見える。
確かに、これならまず気づかれることは無いだろう。

そして、地面に伏せると、こちらに近づく複数の足音が振動になって伝わって来た。

どんな形で展開しているのか、全貌が分からないのは不安だが、もうこうなったら信じるしかない。

「ナビさん。後は何をしたら良い?」

『行動提案。この場で待機して下さい。可能であれば、旅する魔樹大老トラベルトレンダーの果実を追加で摂取し、生体魔素転換路エーテルリアクターの活性を回復して下さい。』

…また…食わなきゃいけないのか…
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