夫婦で異世界放浪記

片桐 零

文字の大きさ
上 下
71 / 100
第2章

第10話 足りない…

しおりを挟む
「ナビ!毒液の檻ベノムケージの範囲指定を奴の前方!向きを揃えて展開する!範囲指定を!」

『要請受諾。範囲指定を行います。』

ドスンドスンと、地面を揺らすように俺を追ってくる陸草鰐グラスゲーターだが、警戒は続いているようで、唸り声をあげながらも足元を確認しながら慎重に追ってきていた…

GRRRRRR…

「くそ!爬虫類のくせに頭使ってんじゃ…ねえ!」

走りながらストレージリングの画面を操作し、黒い液体の入ったボトルを取り出し、蓋を外して陸草鰐グラスゲーターの顔に向かってぶん投げる。

GAAAAAAAA!!

陸草鰐グラスゲーターは、飛んできたそれを弾き飛ばしたが、蓋を開けていたため中身を盛大に撒き散らすことになった。

投げたのは木酢液のボトル。薄めていない原液の木酢液は、辺りに強烈な臭いを漂わせ、同時に陸草鰐グラスゲーターに攻撃を始める。

GA…GAGYAAAAAA!GUGAAAA!!

ボトルの中身を、全身に浴びた陸草鰐グラスゲーターは、叫び声をあげて暴れだし、腕の傷を押さえて転げまわりだす。

「ナビ!範囲変更!あいつを閉じ込めるように囲め!」

『要請受諾。魔法展開範囲を変更します。
…変更完了しました。』

毒液の檻ベノムケージ毒液の檻ベノムケージ毒液の檻ベノムケージ!!」

毒蔦縛ポイズンアイビーの時のように、単独使用で抜け出されたらいけないので、勢いで魔法を連続で使用する。

すぐに魔法は発動し、陸草鰐グラスゲーターの体は毒液の檻ベノムケージの中に閉じ込められた。
これならもう動けな…

GUGUGU…KUOOOOOOOOOO!!!

「な…!!」

閉じ込められた陸草鰐グラスゲーターは、今までの咆哮とは違う超音波のような声を上げ、俺は耳を塞いでうずくまってしまう。

『行動提案。早急に麻痺毒枷パラライバンドを使用しこの場を離れる事を提案します。』

キーンと、耳鳴りのような音は鳴り止まないが、ナビさんの声は聞こえる。

「なんて声だ…耳が…あれ?」

頭を振って立ち上がると、辺りには凄まじい木酢液の臭いが広がっているが、陸草鰐グラスゲーターはすでに鳴き止み、その巨体を小さく丸めて地面に伏せていた。

戦意を失ったのか?と、少し拍子抜けしていると、ナビさんが声を上げる。

『接近警告。残存の多頭鰐スクナダイルと、陸草鰐グラスゲーターが急接近してきます。早急に退避して下さい。』

「は?なんで…まさか、こいつが呼んだのか?」

地面に伏せている陸草鰐グラスゲーターに目をやると、こちらを向いているのが分かった。
さっきの声は、仲間を呼ぶためのものだったんだろう。

「くそ!麻痺毒枷パラライバンド!」

俺は伏せた状態の陸草鰐グラスゲーターに駆け寄り、体の自由を奪ってからストレージリングに収納する。

かなりの体重だったようで、1体だけなのに、リングがズシリと重くなる。
だが、入れ替えている余裕はないだろうし、その辺に置いておくのも、今からやってくる他のワニに警戒されるだけだと思い、魔石の分離だけしてそのまま収納しておいた。

「重!いや、それどころ…優子マメ!」

魔樹の方に目を向けると、優子マメがへたり込んでいるのが見えた。
まだ収納していないようで、先に拘束した陸草鰐グラスゲーターも簀巻き状態で転がっている。

「なにしてんだ!次が来るぞ!!」

「や、あの…声…」

さっきの陸草鰐グラスゲーターの声に、優子マメは腰を抜かしていた。
腕を掴んで立たせようとするが、完全に腰が抜けているようで立つことができなくなっている…

「だから降りて来るなって言ったんだ!」

優子マメを無理やり引き起こし、肩に担ぐように持ち上げ、魔樹の側まで連れて行く。
幸い、他のやつは降りて来ていない。

「いいか!?これ以上邪魔するなら、全員死ぬことになるんだ!ここから絶対動くんじゃないぞ!」

優子マメを魔樹の根元に置き、そこから少し離れる。

毒蔦縛ポイズンアイビー!」

優子マメの周り、魔樹の根元を覆う様に毒蔦縛ポイズンアイビーを展開して、目隠しの壁を作り出しておく。
ワニにとって、動けない人間は餌にしか見えないだろうってのと、これ以上動き回られないようにするための処置だ。

「ナビ!指示をくれ!」

簀巻き状態の陸草鰐グラスゲーターを収納するために走り寄りながら、ナビさんに次の指示を聞く。

『情報提示。現時点で準備に必要な生体魔素転換路エーテルリアクターの活性が足りません。』

簀巻きの陸草鰐グラスゲーターを収納したところで、ナビさんから嫌な情報が聞かされ、俺は動きを止める…

「なんだって…?」

思っていた以上に状況は悪い様だ…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...