66 / 100
第2章
第5話 狼煙が見えた
しおりを挟む
…
…
…
「…やべ…寝てた…」
どれくらいの時間寝ていたのかわからないが、いつのまにか寝ていたらしい。
まだ辺りは暗く、ランタンの小さな明かりだけが、本棚で覆った狭い部屋を照らしている。
シーホが妹になるだの…あれも夢だったんだろうか…?
「…それはないか…」
優子達が、夢かどうか分からないが、最後に見た光景と同じように、ソファに並んで寝息を立てているし、夢オチなんてことはないだろう…
シーホとはあくまでも期間限定、仮の兄妹なら、そこまで気にすることはないだろう…と思う。
俺も優子も、弟しかいなかったから、はしゃいだのも分からないではないしな…
あんな変な求婚のされ方してなかったら、普通に可愛いと思うもんな…
「…うさん…」
外気で少し温くなっていたペットボトルのお茶を飲みながら、優子とシーホの寝顔を横目で見ていると、シーホが何か寝言を言った…
そして頬を涙が伝っていくのが見えてしまう。
「グリムさんの事…夢に見てんのかね…」
突然の親の死を、まだ14の子供がそんなすぐに割り切れるものじゃない…
起きている間は、明るく振舞っているように見えても、どこかで無理をしているんだろうな…
グリムさんをどうにか助けられていたら、シーホの人生は今とは間違いなく違うものになっていただろう…
「ダメだな…たらればを考えても意味はないってのに…」
寝ている優子達を起こさないように、静かにソファから離れ、囲いの外に出ると、月が雲に隠れたのか寝る前より随分と暗く感じた。
(ナビさん、俺はどのくらい眠っていた?)
『回答提示。5時間25分です。』
思った以上にガッツリ寝ていたな…
昼間もほとんど寝て過ごして居たのに、不思議なものだ…
(反応のあった相手の様子は?)
『情報提示。小さく移動は繰り返していますが、こちらに向かってくる様子はありません。』
5時間経っても同じような場所をウロついているだけ?
もしかすると、魔物の巣でもあるのだろうか…?
何か変だとは思うが、相手が何者かも分からない状況だと、出来ることはないと言っていい…
(ナビさん、今日の日の出は?)
『回答提示。12分後です。』
「は?もうすぐじゃないか…」
思った以上に日の出まで時間がなかったことに驚いて、思わず声が出てしまった。
朝まで何もないなら、普通に訓練していればよかったよ…
囲いの中に一度戻り、優子の肩を揺すって起こす。
「優子、そろそろ起きろ。朝が来るぞ。」
「ん…あれ?…寝てた?」
俺の声で優子が目を覚ました。
相変わらず寝起きがいい。
シーホ達は全然起きる感じがしない…
まだ暗いが、あと10分位すると世界を青に染め上げる太陽が顔を出すだろう。
「おはよう。もうすぐ朝日が昇るみたいだから、シーホ達を起こしておいてくれるかな?
俺は周りを片付けてくるからさ。」
まだ寝息を立てているシーホとぬいぐるみを優子に任せて、囲いの外に置いていたままのランニングマシンや、毒蔦縛で作った的を収納し、周りに落としたものがないかを確認して歩いた。
「ぼんさーん…起きたよー…」
「ん?おはようでっかちゃん。」
確認を終えて、囲いの方に歩いていると、トテトテとでっかちゃんが四つ足で歩いてきた。
でっかちゃんは、俺の足にもたれかかって眠そうに目を擦る。
「まだ暗いよ?もう起きるの?」
「もうすぐ明るくなるよ。明るくなったら木の上に戻って朝ごはんにしようね。」
まだ眠そうなでっかちゃんは、少しぐずっているのか、俺の足に頭を擦り付けてくる。
「むー…」
そのままもう一度寝そうになっているため、仕方なく抱き上げて囲いの中に戻った。
既に全員起きていたので、でっかちゃんを優子に渡し、ナビさんに念のための安全確認をしてもらうが、相変わらず遠くの反応は近づいてきていなかった。
「なんなのかね…」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない。片付けるから外に出てくれ。」
優子達を外に出し、さっさと囲いを片付けてしまう。
毒液の檻を解呪し、旅する魔樹大老の所に向かっていると、視界が青に染まっていくのが分かった。
ほんの数秒の蒼の世界。
俺は意外と嫌いじゃなかったりする。
旅する魔樹大老の下に着く頃には、残りの太陽も顔を出し、視界の色も元に戻っていた。
魔樹も活動開始したようで、根元に着いた俺たちを、次々持ち上げて枝の上に乗せてくれた。
朝ごはんに、魔樹の実を食べていると、見えなくてもいいのに、視界に黒い煙が見えてしまった…
(ナビさん、なんか煙が見える気がするんだけど、あれが何か分かる?)
『回答提示。人工物が燃えて発生した煙です。』
人工物?
(人工物ってことは人が居るのか?街まではまだ遠いんじゃなかったっけ?)
『回答提示。最寄りの人口密集地は、旅する魔樹大老の進行速度で2日の距離にあります。』
そんなに遠い場所の煙が、ここから見えるとは思えない…しかし、こんな何もない草原に住んでいる人が居るとも思えないんだ…まさか、昨日の反応があった場所か?
(ナビさん、ここから見える煙の発生場所と、昨日の反応の場所は?もしかして近い?)
『回答提示。同一地点です。距離は徒歩で1時間程度、旅する魔樹大老で20分程度かかります。』
少し気にはなるけど、歩いて行くには遠いよね…
途中で何があるか分からないし…
(ナビさん、進行方向は?)
『情報提示。進行方向を可視化します。』
ナビさんの言葉に続いて、目の前に半透明な矢印が出現する。
矢印は、煙が出ている場所の少し右を向いている。
…そんな気はしていたよ…
(ナビさん…視認距離になったら教えて…)
『要請受諾。畏まりました。』
…
…
「…やべ…寝てた…」
どれくらいの時間寝ていたのかわからないが、いつのまにか寝ていたらしい。
まだ辺りは暗く、ランタンの小さな明かりだけが、本棚で覆った狭い部屋を照らしている。
シーホが妹になるだの…あれも夢だったんだろうか…?
「…それはないか…」
優子達が、夢かどうか分からないが、最後に見た光景と同じように、ソファに並んで寝息を立てているし、夢オチなんてことはないだろう…
シーホとはあくまでも期間限定、仮の兄妹なら、そこまで気にすることはないだろう…と思う。
俺も優子も、弟しかいなかったから、はしゃいだのも分からないではないしな…
あんな変な求婚のされ方してなかったら、普通に可愛いと思うもんな…
「…うさん…」
外気で少し温くなっていたペットボトルのお茶を飲みながら、優子とシーホの寝顔を横目で見ていると、シーホが何か寝言を言った…
そして頬を涙が伝っていくのが見えてしまう。
「グリムさんの事…夢に見てんのかね…」
突然の親の死を、まだ14の子供がそんなすぐに割り切れるものじゃない…
起きている間は、明るく振舞っているように見えても、どこかで無理をしているんだろうな…
グリムさんをどうにか助けられていたら、シーホの人生は今とは間違いなく違うものになっていただろう…
「ダメだな…たらればを考えても意味はないってのに…」
寝ている優子達を起こさないように、静かにソファから離れ、囲いの外に出ると、月が雲に隠れたのか寝る前より随分と暗く感じた。
(ナビさん、俺はどのくらい眠っていた?)
『回答提示。5時間25分です。』
思った以上にガッツリ寝ていたな…
昼間もほとんど寝て過ごして居たのに、不思議なものだ…
(反応のあった相手の様子は?)
『情報提示。小さく移動は繰り返していますが、こちらに向かってくる様子はありません。』
5時間経っても同じような場所をウロついているだけ?
もしかすると、魔物の巣でもあるのだろうか…?
何か変だとは思うが、相手が何者かも分からない状況だと、出来ることはないと言っていい…
(ナビさん、今日の日の出は?)
『回答提示。12分後です。』
「は?もうすぐじゃないか…」
思った以上に日の出まで時間がなかったことに驚いて、思わず声が出てしまった。
朝まで何もないなら、普通に訓練していればよかったよ…
囲いの中に一度戻り、優子の肩を揺すって起こす。
「優子、そろそろ起きろ。朝が来るぞ。」
「ん…あれ?…寝てた?」
俺の声で優子が目を覚ました。
相変わらず寝起きがいい。
シーホ達は全然起きる感じがしない…
まだ暗いが、あと10分位すると世界を青に染め上げる太陽が顔を出すだろう。
「おはよう。もうすぐ朝日が昇るみたいだから、シーホ達を起こしておいてくれるかな?
俺は周りを片付けてくるからさ。」
まだ寝息を立てているシーホとぬいぐるみを優子に任せて、囲いの外に置いていたままのランニングマシンや、毒蔦縛で作った的を収納し、周りに落としたものがないかを確認して歩いた。
「ぼんさーん…起きたよー…」
「ん?おはようでっかちゃん。」
確認を終えて、囲いの方に歩いていると、トテトテとでっかちゃんが四つ足で歩いてきた。
でっかちゃんは、俺の足にもたれかかって眠そうに目を擦る。
「まだ暗いよ?もう起きるの?」
「もうすぐ明るくなるよ。明るくなったら木の上に戻って朝ごはんにしようね。」
まだ眠そうなでっかちゃんは、少しぐずっているのか、俺の足に頭を擦り付けてくる。
「むー…」
そのままもう一度寝そうになっているため、仕方なく抱き上げて囲いの中に戻った。
既に全員起きていたので、でっかちゃんを優子に渡し、ナビさんに念のための安全確認をしてもらうが、相変わらず遠くの反応は近づいてきていなかった。
「なんなのかね…」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない。片付けるから外に出てくれ。」
優子達を外に出し、さっさと囲いを片付けてしまう。
毒液の檻を解呪し、旅する魔樹大老の所に向かっていると、視界が青に染まっていくのが分かった。
ほんの数秒の蒼の世界。
俺は意外と嫌いじゃなかったりする。
旅する魔樹大老の下に着く頃には、残りの太陽も顔を出し、視界の色も元に戻っていた。
魔樹も活動開始したようで、根元に着いた俺たちを、次々持ち上げて枝の上に乗せてくれた。
朝ごはんに、魔樹の実を食べていると、見えなくてもいいのに、視界に黒い煙が見えてしまった…
(ナビさん、なんか煙が見える気がするんだけど、あれが何か分かる?)
『回答提示。人工物が燃えて発生した煙です。』
人工物?
(人工物ってことは人が居るのか?街まではまだ遠いんじゃなかったっけ?)
『回答提示。最寄りの人口密集地は、旅する魔樹大老の進行速度で2日の距離にあります。』
そんなに遠い場所の煙が、ここから見えるとは思えない…しかし、こんな何もない草原に住んでいる人が居るとも思えないんだ…まさか、昨日の反応があった場所か?
(ナビさん、ここから見える煙の発生場所と、昨日の反応の場所は?もしかして近い?)
『回答提示。同一地点です。距離は徒歩で1時間程度、旅する魔樹大老で20分程度かかります。』
少し気にはなるけど、歩いて行くには遠いよね…
途中で何があるか分からないし…
(ナビさん、進行方向は?)
『情報提示。進行方向を可視化します。』
ナビさんの言葉に続いて、目の前に半透明な矢印が出現する。
矢印は、煙が出ている場所の少し右を向いている。
…そんな気はしていたよ…
(ナビさん…視認距離になったら教えて…)
『要請受諾。畏まりました。』
0
お気に入りに追加
437
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記
karon
ファンタジー
色男で女性関係にだらしのない政略結婚なら最悪パターンといわれる上官が電撃結婚。それも十六歳の少女と。下士官ジャックはふとしたことからその少女と知り合い、思いもかけない顔を見る。そして徐々にトラブルの深みにはまっていくが気がついた時には遅かった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる