夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第57話 旅立ち

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(ナビさん。これの原因はやっぱり優子マメのヒール?)

『回答提示。魔法の効果により、成長促進が行われたため、旅する魔樹大老トラベルトレンダーに存在進化を果たしています。』

やっぱり…あの、去り際に使った優子マメのヒールが原因らしい。
こんなにデカくなるとは、想像もしていなかった…

(ナビさん、これ登れるのか?)

『回答提示。登る必要はありません。根元に近寄れば持ち上げてくれます。』

…ん?持ち上げて?どういうことだ?

「どうかした?」

「あ、いや、なんか近寄ると持ち上げてくれるらしいんだが…どうしようかと思ってな…」

「ふーん。」

流石に危険か?とも思ったが、考えてるうちに優子マメはスタスタと行ってしまう。

「ちょ、優子マメ!」

「ここまで運んできてくれた子だよ?大丈夫だよ。お?おぉー!」

「だいじょ…うぶそうだな…」

俺が少しだけ警戒しながら魔樹に近づいていると、先に根元にたどり着いた優子マメが魔樹に持ち上げられて行った。
…枝じゃなくて根で持ち上げるのかよ…

根元に着くと、いきなり足元が動き、地面から出てきた根が絡みついてくる。

…これ、知らなかったら攻撃を受けたのかと勘違いするな…
ナビさんが先に教えてくれたのと、優子マメが先に持ち上げられていたので、抵抗することなく俺も持ち上げられていく。

ずんずん上へと持ち上げられ、枝の上に降ろされた。
降ろされた場所は、数本の枝が足場の様に編み込まれていて、寝泊まりするのにも問題なさそうな場所だった。
高さは村の壁よりも高いようで、なんとか男爵とかって奴の家も、屋根だけだが小さく見えている。

「凄い高いねー。」

「前の頂上くらいはあるかもね。」

「それで、どうするの?なんかここまで来ちゃったけど…え?ねぇ、動いてない?」

「…動いて…いるみたいだな…」

突然移動を開始した魔樹に、少しだけ驚かされる。
移動速度はそこまで早くはないと思うが、視点が高いからなのか、あまり速さは感じない。
どうしようかと考えているうちも、魔樹はズンズンと進んでいき、もう村の門が見え始めてきた。

「…てー…」

「ん?優子マメか?何か言った?」

「んーん、なにも言ってないよ。」

何か聞こえた気もしたが…気のせいだろうか?

「…まってー!止まって下さーい!」

…あ、下か?
枝から落ちない様に下を覗くと、シーホが魔樹と少し遅れながらも並走しながら叫んでいるのが見えた。

「マメさーん!置いていくなんて酷いですー!止まって下さーい!」

優子マメ…何か約束したの?」

「あ、シーちゃん?そうそう、私達が村を出るとき、他の街まで一緒に連れて行ってあげるって約束したんだった。
ちょっとー、止まってあげてー。」

なんか約束していたらしい…
次の街までなら、別に1人位増えても問題はないけど、もう少し早く…いや、今の状況の方が急だから、なにも言えないな。

優子マメが、旅する魔樹大老トラベルトレンダーにお願いすると、魔樹はゆっくり速度を落として止まってくれた。

そして、やがて追いついたシーホは、進路を塞ぐ様に両手を広げて立ちふさがる。

「置いていかないで!約束したじゃないですか!?」

なんだろうね…その行動力があるなら、俺らについて来なくても、問題なく村を出られそうなものなんだけど…
よく分からん…

「ね、シーちゃんも持ち上げてあげて。」

優子マメがそう言うと、さっき俺たちを持ち上げた時と同じ様に、魔樹の根がシーホのことを絡め取り、枝の上まで持ち上げてくれる。

「きゃー…あ?え?マメさん?…これは?」

「やっほー。ごめんね、突然だったから驚いたよね?」

優子マメがシーホに、これが魔樹トレントと呼ばれる魔物モンスターの一種だが危険はないことを説明している。
何きっかけなのか、しろま達も目覚めたようで、木の上からの景色を見て、驚いたり怖がったり喜んだりと、なかなか混沌としてきてしまった…

「…そうなんですか…なら、これで村を離れるんですか?」

「んー、ぼん?このまま行っちゃう?」

話が終わったらしく、優子マメ達が聞いてくる。
今から戻ってもややこしくなるのは目に見えているし、別に何かを残してきたわけじゃ…

「俺たちは何も残してないから行こうと思ってたんだけど、シーホは準備とかしなくていいのか?」

出来れば取りに戻って貰って、そのまま置いていければいいなと思って、一応聞いてみる。
流石に旅の準備くらいあ…

「大丈夫です。昨日の事があったので、ここに必要なものは纏めてありましたから。」

そう言って、シーホは自分の鞄をこちらに見せてくる。
今まで気がつかなかったが、何が入っているのか結構な大きさをしている…

「そう…準備のいい事で…」

「はい!」

「ね?何持ってきたの?」

「あ、はい、これが…」

シーホの持ってきた荷物の鑑賞会が行われている頃、村の方では、豚男ピッグマン魔物モンスターの大群に襲われた、昨日以上の混乱が起きていた。

それはそうだ、いきなり村の壁を超える大きさの大木が動いてきたんだからね。

門の外に居た村人達は、我先にと村の中へと戻っていくが、魔樹の上からだとその様子は殆ど見えない。

『情報提示。冒険者ガジャノ、冒険者ルルヘットの反応がこちらに向かってきます。』

「うわ…」

「え?何かありましたか?」

シーホが、俺の声に反応して聞いてきた。

「あ、いや…キャナタさんのところに来ていた冒険者達が、なんかこっちに向かってきている気がしたんだよ。」

「むー、私あの女嫌い。」

露骨に嫌そうな顔をする優子マメ、シーホは良くて、あーいうのはダメなのか…よく分からん…

村の方を見ると、動いている人影らしきものは、こちらに向かってきている3つだけになってい…
3つ?

(ナビさん?なんかさっき聞いたのより多いんですけど?)

『情報提示。もう1つの反応は村人レクレットです。』

レクレットさんも来てるのか…

「あの人、いきなりキャナタおじさんを殴ったり、随分乱暴な人でしたもんね。」

「そう、それになんかネバっとしてて気持ち悪かった。」

女性陣からの評価はすごく低い…ま、俺も知り合いになりたいとは思わなかったからいいんだけど、結構辛辣だな。
近づかれる前に逃げれればいいんだけど…今の速さだと追いつかれるか?

(ナビさん、こいつの速度を上げることは出来る?)

『回答提示。ヒールの使用により、一時的に活動を活発化することで、速度を上げる事ができます。』

「ボンさん、どうかしたんですか?」

「いや、優子マメ、こいつにヒールをかけてやってくれないか?」

「ん?なんで?」

「このままだと、あの変な奴らに追いつかれる。ヒールで速度が上がるみたいだから、お願いしたいんだよ。」

「ん。ならやろう。ヒール!」

優子マメが魔法を唱えると、木の幹が淡く光を放ち、グンっと速度が上がる。

「もひとつおまけにヒール!」

「ちょ!やり過ぎ…は!ぬべ!」

2回目のヒールで、旅する魔樹大老トラベルトレンダーの速度が異常な程早くなってしまい、危うく下に落ちかけてしまったが、それを察知した魔樹が、複数の枝を動かして俺たちを支えてくれたので、なんとか樹上に留まることができていた。

ドドドド…

今まで殆ど音を立てずに静かに移動していたのに、今は凄まじい地ひびきを残して爆走している魔樹。

まるで追いつけなくなってしまったルルヘット達は、地平の彼方へ走り去る様子を、ただただ見守るのだった…



ーーーー
作者です。
やっとハボック村から離れることが出来ました。
感想その他、お時間あれば是非。
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