夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第56話 外の景色

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朝ごはんの後、酒場の朝営業が始まる前に、俺と優子マメはキャナタさんから貰ったフード付きの外套マントを身につけて、村の中を歩いていた。
ぬいぐるみ達は、ご飯を食べたら寝始めてしまったから優子マメが抱えている。

最近ゆっくりできなかったし、気晴らしに散歩するのもいいもんだ。

…と、最初は思っていたのだが、目的なくウロウロするのは性に合わないらしい。

「ちょっと気になるところがあるんだけど…行ってみてもいいか?」

「ん?なに?」

「…村の外なんだ。片付けをお願いしたけど、どうなったのか気になってね。」

優子マメは、少しだけ考えるそぶりを見せるが、特に反対はしなかった。

「ん。いいよ。村の中は朝の散歩で歩いてるからね、外に行くのも楽しそうだし。」

「そうか、なら、少しだけ外を歩こう。」

俺達は、村の外に向けて足を向ける。

…が、早速会いたくもないノノーキルに会ってしまった…

「昨日は助けられた…いや、さっきは悪かった!」

会うなり、道の真ん中で頭を下げるノノーキル。
本当に迷惑だからやめてほしい。

「いらん、やめろ。他の人に注目されちまうだろうが。」

「しかし…いや、すまん…」

本当に気の利かない中年だ…
頼むから構わないで欲しい…

「用がない…いや、用があろうがもう俺たちに構わないでくれ。面倒ごとはたくさんなんだよ。」

「あ…」

何かいいかけたような気もするが、ノノーキルに関わって良かったことがないから無視だ無視。

「ぼん、いいの?」

「いいのいいの、あいつに関わるとろくなことがないからね。
さっきの騒ぎだって、結局おっさんが絡んでたみたいだし、静かに暮らすには関わらないほうがいい人だよ。」

少し早足になりながら村の外に向けて歩いていくのだが、すれ違う村人の数が随分少ないことに気がついた。

昨日は、もっといたはずだよな…

村の門へと近づいても、閑散とした感じなのは変わらない。

内側から門を開けると、昨日よりも強い血の匂いを感じた。
昨日で全てを片付ける事は出来なかったらしい。
優子マメを待たせておいて、1人でそっと外を覗く。

「これは…」

「どうしたの?何かあった…うわー…」

優子マメも、外を見て言葉をなくしていた。
そこには、大勢の村人が、細切れになった魔物モンスターの肉片をナイフで更に切り分けていたり、血まみれの地面に這いつくばって何かを探していたからだ。

レクレットに事情を聞こうと門の外に出て探してみるが、どこにも見当たらない。
昨日で全部片付かなかったのは分かるが、村人総出でやるような事なんだろうか?

「あ、ボンだー」
「ボンだー」
「ボンー」

どこかで見たことある子供達が、俺が出て来たことに気がついて近寄ってくる。
子供達の服も、もちろん血塗れ…怪我してるんじゃないかと心配になる…

「これ、貰ってもいいのー?」
「いいのー?」
「のー?」

子供達は、手に紫色の小さな魔石を持って見せてくる。
魔物の残骸から取り出したのだろうか、まだ湿っているように感じる…
服どころか全身血塗れの状態で、ニコニコしている子供達に、少し顔が引きつってしまったのは、仕方がないと思う。

「俺は…うん、いらないから好きにしていいよ。」

「本当?もっと貰っていい?」
「貰っていいー?」
「いいー?」

「あ、あぁ…怪我しないようにね…」

「「「はーい」」」

好きにして良いと伝えると、満面の笑みで魔石取りに戻って行った。
強い子達だ…日本の子供なら、こんな状態ではしゃげはしないだろ…

「子供に懐かれるなんて、ぼんなのに珍しいね。」

「まぁな…しかし…ここの子供は逞しいな。あれ、魔物モンスターの死体だぞ?」

子供達に限らず、外に出ている村人達は、誰一人汚れることを気にしていないようだ。
俺なら絶対嫌だね…

「環境の違いかもね。ほら、アフリカとかアマゾンだと野生動物を狩って食べるから平気、みたいな?」

「そんなもんかね…」

あまり動く気にならず、ぼんやりと村人達が魔物モンスターの死骸を漁る様を見守っていると、戻ってきたレクレットさんに声をかけられた。

「ボン!何しに…いや、すまんな…しかし、今村の周りを見てきたんだが…短時間で壁を覆った棘のある蔦と、この惨状を見るとだな…」

レクレットさんは、疲れているのか、少し顔色が悪い。
流石に夜は交代するのだろうけど、彼以外の門番を見ていないから、あまり休めていないのかも知れない…
この光景を長時間見続けるのは大変だったろうしね…

「なんかすみません…」

「いや、ボンを責めるつもりはないんだ。むしろ感謝している…ただ、少し恐ろしさは感じてしまっているがな…」

レクレットさんは門の側に立つと、空を見上げてそう言った。
しばらく誰も話すでもなく空を見上げていたが、レクレットさんが思い出したように話し出した。

「そういえば、村の北にだな…今までなかった大きな木が生えていたんだが、もしかしてあれもお前が出したのか?」

大きな木?
まさか…

「レクレットさん、その木はこっちの方向にありましたか?」

「そうだ、やはりボンだったか…あれ程大きな木は、この辺じゃ見かけないからな…」

予想通りなら、村を出るための移動手段を手にできたかも知れない。
すぐにでも確かめに行かないと…

「すみません、ちょっとその木を見てきます。」

「ん?あぁ…気をつけて…ってのもお前には不要かも知れないが、気をつけてな。」

「はい。行こう優子マメ。」

レクレットさんに見送られ、優子マメ達と一緒に村から離れるように歩き出す。
昨日はそれどころじゃなかったから気がつかなかったが、壁沿いを少し歩くと、目当ての木がすぐに見えてきた。

「ぼん?どこいくの?」

「え?いや、あれを見たら…あ、そう言えば目悪いんだったな。忘れてた…ま、まぁ、ついたら分かるから行こう。」

半ば強引に優子マメを連れて歩いていく。

5分くらい歩くと、優子マメにも目的地が見えるようになってきたようだ。
しかし…

「前はこんなにデカく無かったような…」

「そうだね。もう少し登りやすい大きさだったよ?」

「そうだよな…」

そこには、記憶の中の大きさから、2倍にはなっている旅する魔樹トラベルトレントが立っていた。



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作者です。
次回、一応の区切りになります。
感想その他、お時間あれば是非。
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