夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第36話 ハボック男爵の屋敷

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村の中と違い、芝生の様な硬い下生えに覆われた敷地内に入ると、石積みの壁に囲われていることもあり、なんだか緊張感が増した気がする。

前を歩くバスさんに着いて、屋敷の前に到着する。
バスさんは、無言で玄関の大扉を開くと、中に入る様に促す。
中には、さっき会ったロンって人の他にも何人もの人が並んでいた。

「いらっしゃいませ。当家の家宰、ハーグと申します。」

丁寧な挨拶をしてくれたハーグさんに続き、左右に並んでいた女の人たちがお辞儀をする。

「さ、こちらへどうぞ。」

ハーグさんに案内されて、屋敷の中を進んでいくと、立派な扉の部屋へと通される。
部屋の中は、大きな木の机と木の椅子、床に敷かれた大型動物の毛皮、それくらいしか物のない殺風景な部屋だった。

「こちらでお待ち下さい。間も無く主人あるじが参ります。」

そう言ってハーグさんは部屋を出て行ってしまい、殺風景な部屋に取り残されてしまった。

(ナビさん、この辺の土地で、礼儀作法的なものがあるなら、俺がそこの椅子に座って待っていてもいいものなの?)

『回答提示。今回、マスターは招かれた側になるため、椅子に座ることに問題はありません。』

ナビさんに確認を取り、座っていいのを確認してから椅子に座る。
貴族相手に、下手な事して怒らせたら厄介だからな…

椅子に座ってしばらく待っていると、さっき玄関で見た女の人が、飲み物を持ってきてくれた。
飲み物の中身は、この村に来て初めて飲む柑橘系の果実水だったよ。

出された飲み物のほとんどを飲みきってしまうくらい、部屋で待っていると。

ガチャっと扉を開けて、見覚えのある相手が入ってきた。
豚男ピッグマンが現れた時、村の入り口で演説していた男の人だ。

「待たせたな、ボン。」

入ってきた男は、俺の向かいに座る。
おそらく彼がテンセリットさんだろう。

「ボン様。我が主人あるじ、テンセリット・ハボック男爵で御座います。この度は村のために尽力いただきました事、主人あるじに代わりまして、感謝申し上げます。
今回、お通ししたこの部屋、足下の毛皮は、先代が森で狩った…」

ハーグさんが俺を呼んだ理由を説明してくれた。
長々と御礼の言葉を述べながら、ハボック家の素晴らしさ讃える様な事を、話の間に巧妙に挟んでくる。
まるで興味のない話が、延々と続く…

「…で御座いますれば…」

「ハーグ。その位でいいだろう?」

「は。これは失礼致しました。」

ハーグさんの低音ボイスを、もう少し聞いていたら眠ってしまっていたと思う。
そろそろ限界だったから、止めてくれて助かった…

「そろそろ本題に入ろうか。此度の豚男ピッグマン討伐の件、褒美をまだ渡してなかったからな。ハーグ。」

「用意して御座います。」

ハーグさんは、机の上にズシリと音を立てて布袋を置いた。
随分入ってそう…それより、今どこから出した?

「これは…」

「討伐報酬だと思ってくれれば良い、さ、遠慮せずに受け取るが良い。」

これは何か裏があるのか?
受け取って良いものかも分からない…

(ナビさん、これは受け取って大丈夫なのか?何か裏があったりしないのか?)

『情報提示。心理状態は不明。』

…人の考えはナビさんでも分からないんだった…

「どうした?遠慮することはないぞ?」

「いや…そうではなく…」

「足りんか?ハーグ。」

「は。ではこちらを。」

机の上に布袋が追加される。
そうではない…

「ちょ…あの…」

「まだ足りんか?」

「では、これとこれ…」

更に布袋がどんどん追加され、机の上に積み上がっていく。
これはなんなんだ?

「ま、待ってください!なんですかこれは!?」

正直、訳がわからない。
全部金なのか?これ、なんなんだ?
何が目的…

「単刀直入に言おう。儂のものになれ。」

…え?

主人あるじ様、それは少し説明が足りないかと。
ボン様、この周囲は、魔物モンスターによる被害も度々ごさいます。
主人あるじ様は、豚男ピッグマンを単独で倒せる実力を持つ貴方様を、当家で囲い込み、その力を村のために使って頂きたいと考えております。
このお金は、その支度金も含まれております。」

「それは、俺を雇う…と?」

「うむ、ハーグの言った通りだ、必要なものがあればこちらで用意する。儂に仕え、村のために働くが良い。」

…そっちの人なのかと思って少し焦ったが、そっちの方が断りやすくて良かったかも知れない…

(ナビさん。どう思う?)

『回答提示。契約は強制されるものではありません。』

そりゃそうなんだが…

「因みにそれをこ…」

「ボン様…」

ハーグさんが、懐からキラリと光る物を少しだけ覗かせる。

これは脅されているのだろうか…?


ーーーー
その頃のヤドリギ亭…
ーーーー

「マメさん、今朝話した事なんだけど…」

ロールは、ボンたちの泊まっている部屋にやってくると、そう切り出した。

「えっと…ごめんなさい。」

「え?どういう…」

「ぼんに聞いたら、教えたらダメだって言われちゃったから…」

申し訳なさそうに、優子マメはロールに謝罪した。

「そう…残念だけど仕方ないわね…新しい調味料の事を、簡単に教えてくれるはずがないものね…」

ロールは、少し気を落としたのか、ベッドに腰掛けて溜息を吐く。

しばらくの間沈黙が続き、その沈黙を破ったのはロールだった。

「マメさん、遠くから来たんでしょう?マメさん達が住んでいたところの料理も気になるけど、良かったら私が作るところを見てみない?」

ロールは、良い事を思いついたとばかりに、優子マメの手を取り立ち上がる。

「そうよ、部屋の中に篭っているより、何かしていた方が楽しいしね。
ね?どうかしら?」

「マメ何か作るのか?」

「肉!最近肉食べて無い!肉焼いてー!」

「そうね、豚男ピッグマンの肉も手に入ったし、焼いて食べましょう。」

優子マメ達は、調理場に向かう。

そして…

「マメさん!これ凄い!食べた事ない味だけど、本当に美味しいわ!」

何かあったらしい…


ーーーー
作者です。
感想その他、お時間あれば是非。
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