夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第33話 朝ご飯と言いながらパンを食べる

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誰かに話すことで、精神的な負荷を下げることが出来たようで、ぐっすり眠ることが出来た…
それこそ、朝まで一度も起きることもなくね。

「あ、おはよう。今日は早いね。」

「おはようぼん!」

すでに起きていた優子マメとしろまは、布団から出て体を動かしている。
朝から元気なことだ…

「おはよう。相変わらず早いな…」

もう朝の営業は始まっているようで、僅かに人の話し声が聞こえてくる。

昨夜キャナタさんに渡された紐を、ドアにかけようとベッドを立つと、しろまに声をかけられた。

「ぼん。なんかするのか?」

「ん?コレをドアに引っ掛けておこうと思ってね。そうしておくと、朝ご飯を持って来てもらえるんだよ。」

そう言って、しろまに赤い紐を見せると、自分がやると言ってくる。

「オレがやりたい!ねーかしてー」

「別にいいけど…届くのか?」

しろまの大きさだと、ジャンプしたとしても、ドアの取っ手まで届くとは思えないのだが…

「大丈夫!任せて!」

俺から紐を受け取ったしろまは、走ってドアに駆け寄る。

「マメ、ドア開けて!」

そこは優子マメを使うのね…
優子マメがドアを開けて上げると、しろまはドアの縁に掴まって登って行く。
スルスルと登り、外の取っ手に紐を結ぶと、そこから飛び降りて戻ってきた。

「ね?出来たでしょ?」

「そうだな…よく登れたな…」

「えらい?オレえらい?」

多分、しろまは手伝いをした気になっているのだろう。

「そうだな。しろまはえらいな。」

「えへへー、マメ!褒められたぞ!」

しろまは褒められたことで気を良くしたのか、優子マメに報告している。
すぐそこで見てたんだけどな…

そんなたわいない会話をしていると、俺たちが借りている宿の主人、キャナタさんが部屋に入ってきた。

「キャナタだ。飯を持って来た。入るぞ?」

手には手焼きのパンを乗せた皿と、果実水の入ったボトルを持っている。

「どうだボン、顔色は良くなったみたいだが、食欲が戻ったか?」

「おかげさまで…ただ…食欲はどうでしょう?昨日よりは多分あると思いますけど…」

「ま、少しでも回復したなら結構な事だ。今日の朝焼いたパンと、果実水だ。
適当な数を持ってきたが、足りなかったら言ってくれ。
その時は残り物でも良ければ、何か作って持って来てやるからよ。」

「ありがとうございます。」

「おう」

キャナタさんは、そう言って部屋を出て行った。
昨夜のことと言い、この村に来てからキャナタさんには迷惑をかけっぱなしだ…
最初の印象は少し胡散臭かったけどね…

焼きたてのパンは、塩味がついていてそれだけでも美味いが、同じ味だけだとどうしても飽きてしまう。
優子マメ達にも言われたので、中に挟める具材として、ハムやチーズを。
味変ように、バターやマヨネーズなんかをストレージリングから取り出して使うことにした。

他の人がいる前じゃ、出せないものばかりだから、久し振りに地球っぽい食事を食べた気がして、なんだか懐かしい気分になってしまう。
調味料は、やっぱり重要だな…

食事が終わり、部屋の外に食器を置きに出ると、丁度上に上がって来ていたキャナタさんに出会った。

「お?全部食えたか…どうだ?足りたか?もう少し食うか?」

「いえ、十分です。ご馳走さまでした。」

「そうか。もう少ししたら、朝の営業が終わる。そうしたら、マメと下に降りてくると良い。部屋にいるだけじゃ、息がつまるだろうからな。」

そう言って、空いた食器を持って下に戻っていく。
正直、部屋の中で十分なんだが…まぁいいか…好意からだろうし、無下にするのも気がひける。

優子マメ、キャナタさんから、もうすぐ営業終わるから、そしたら降りてきなってさ。どうする?」

優子マメが行かないなら、俺だけ降りて行ってもあれなので、断りに行こうと思って言ってみたんだが…

「ん?そか、なら準備しないとね。」

「は?準備?なんのだ?」

何かするつもりなのか?聞いてないぞ?

「今朝早く起きたからさ、少し村の中を散歩してきたの。その時にロールさんと偶然出会って話をしたんだけど…」

勝手に出歩くのはやめてほしいが、話の腰を折ってしまうとややこしくなる…
一旦最後まで聞いてから判断するべきだな…女同士、なにか通じるものでもあったのかもしれないしね。

「その時、料理の話になったんだけどね?こっちの料理って、焼くか煮るかくらいしか無いんだって。
味付けも基本塩だけらしくてさ、他にないの?って聞いたんだけど…」

「ちょい待ち…」

「ん?」

「嫌な予感しかしないんだけど…もしかしてこれのこととか言ってないよな?」

俺はさっき使ったマヨネーズのボトルを持ち上げて聞く。
頼むから違うと言って…

「そう、え?ダメなの?」

はい、やってくれたよ。
テンプレの無自覚踏み抜き…
布団の上で首をかしげる優子マメは、なにがダメなのか分かっていない…

優子マメ…この星だと、まだマヨネーズは作られてないと思うんだよ…多分だけど…」

地球でマヨネーズが最初に作られたのが、300年くらい前に作られたはずだから、1000年前の文明には、マヨネーズは無い…はずだ…
異世界モノの定番だから、来る前に一応調べておいたんだよね…

「そうなの?それじゃ作れないのかな?」

「…いや、マヨネーズの材料は、卵と塩、油と酢だけだから…必要なモノ自体は多分あると思うよ…」

こちらの世界に同じ様な物があれば…だけど…

「なら教えてあげられるね。」

「いや、厄介なことになる気がするから、作りかたを教えるのはちょっと…」

マヨネーズ無双や、他の調味料無双は、やろうと思えば多分出来る。
だけど、商会作ったり、製造ライン作ったり、どこかの商会に利権を狙われたり、貴族に囲われたりする気がして、面倒ごとの方が多い気がするから、俺はやりたく無い。

「そっか…ダメなのか…?」

そんな事を話していると、部屋の扉がノックされた。

慌てて調味料を収納し、優子マメに釘を刺しておく。

「俺が出る。ロールさんだとしても、優子マメは余計なことは言わないで、俺に任せて。いいね?」

「んー…分かった。」

一度深呼吸し、気持ちを落ち着けてから扉を開ける。

「よう、昨日は…」

バタン。

想定していない相手が居たので、思わず扉を閉めてしまった。
なんでノノーキルが?昨日の今日だぞ?

コンコン…

昨日、一応許したとは言っても、翌日朝から部屋まで来るか?
ノノーキルが部屋の扉をノックする音は、まだ続いているが、少しずつ小さくなって行ってるように感じる。

キャナタさんもキャナタさんだ、なんでノノーキルを上に上げてしまうのか…

「ノノーキル、あんたを部屋に入れることは出来ない。話があるなら下で聞くから、降りていてくれ。」

ドアを少しだけ開けて、外のノノーキルにそう伝える。
ここのドア、分厚いわけでもないのに、閉めていると殆ど音が聞こえないようになっているから、こうしないと外に声は届かない。

ノノーキルの返事を待たずにドアを閉め、どうしようか考える。

(ナビさん、ノノーキルの目的は?)

『回答提示。村人ノノーキルの思考に関する事項は、閲覧が許可されていません。』

ナビさんでもダメか…
また面倒ごとになる気がするし、そうでなくてもマヨネーズやらの件がある。

「はぁ…次から次へと…」

「朝から疲れてる?」

「疲れてるよ。もうふて寝したいくらいにはね。」

あー、面倒くさい…


ーーーー
作者です。
まだ主人公の心労は続きます。
感想その他、お時間あれば是非。
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