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提案なんだけど
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「山根君、ごめんなさい。」
平井さんが食堂で頭を下げる。
何に対して謝っているのかさっぱり分からない。
「何の話ですか?」
「私の昼食に山根君の大切な時間を犠牲にさせていること。本当はあまり食堂好きじゃないんだよね。」
俺、そんな事平井さんに言ったかな?まあ、言ったのかもしれないな。
食堂は好きじゃないが、平井さんと一緒であれば役得だと思っている。
でも、こんな暗くて見栄えの悪い不気味な俺と食事をとる平井さんからすれば罰ゲームなのかもしれない。
「いや…別に大丈夫ですよ。」
こういう時、上手く会話で表現できない。
言葉で人や自分の気持ちを推し量るとか難しい。
いや、出来ない。絵の表現なら好きなのにな。
俺から平井さんに昼食を一緒にとるのやめませんかって言った方が良いのかもしれないな。
「あのね…私、山根君に提案があるの。」
ああ、平井さんから言ってくれるのか。
そうだ、平井さん。嫌なことはちゃんと嫌と言った方が良いですよ。
あなたなら一緒にご飯を食べたいという人が大勢いるんだからそもそも俺なんかと一緒じゃなくてよかったんだ。
俺もこれで明日からデスクで一人カップラーメンをすする昼休憩に戻るな。
それはそれで俺らしい時間に戻れるな。
「はい、遠慮なく言ってください。」
「あのね、明日から山根君のお弁当私が作ってきても良いかな?」
「…は?」
「ずっと気になってたんだ。山根君いつも私と一緒に昼ごはん食べる時コンビニのおにぎりとかサンドイッチだけだなって。もしよかったらお弁当作らせてほしい…です。おせっかいおばさんみたいだし、ありがた迷惑にしかならないから言い出せなかったんだけどもしよかったらどうでしょうか。」
「いや、でも平井さんの負担になるんじゃないですか?」
「それは絶対ない。」平井さんは言い切った。
「むしろ、今料理が作りたくって仕方がないの。めぐちゃんに色々レシピを教えてもらってるんだけど一人暮らしだと、どうしても多めになっちゃうの。だめかな?」
俺はどこまでラッキーなんだ。
いや、でも平井さんに必要以上に親しくなるのはあまり良くないだろう。断るべきだ俺。
…でも目の前の平井さんがすごく懇願した目をしている。
「じゃ、じゃあ…お願いして良いですか。」
「良かった~。口に合わなかったらすぐ言ってね。好き嫌いも教えてもらって良い?あ…すごい前のめりになっちゃった。ごめんね、鬱陶しいよね。だから嫌われちゃうんだよね。もう、私馬鹿だ。」
珍しく平井さんが勢いよく話してくれたと思ったら一人で反省会を始めてしまった。
綺麗で美人で仕事が出来てみんなに優しくて漫画に出てきそうな高嶺の花だと思っていた平井さんだったけど、今目の前に居るのは可愛くて、些細なことに悩んでいる女の子だ。
やばい、ちゃんと距離を空けようとしているのにこんな姿見せられたら平井さんを想う気持ちが深まってしまう。
いや、もうすでに深まってしまっている気がする。
確実に、絶対に好きになっても失恋決定な相手だ。
俺なんかが恋をするなんておこがましい人だ。
けど、少しだけ。少しだけ人を好きになる経験をさせてもらおう。
何もしない。ただ、平井さんが必要な時に傍にいさせてもらうだけだ。
必要がなくなったすぐ離れる。それだけでいい。
「山根君、大丈夫?ごめんね、私一気に一方的に喋っちゃったよね。私と居たら疲れちゃうんじゃない?」
「それは絶対ありません。平井さん、もっと自分に自信持ってください。」
自信を持てるだけの素晴らしさを説明した方が良いかと思ったが、物凄く気持ち悪いと思われそうなのでやめておこう。
「…、あ、ありがとう。」ああ、平井さんが照れてる。
一つ一つの感情の変化が全部絵になる。わざとらしくない、自然で、でも品があるんだよな。
顔の造形だけじゃなくて動きや表情、所作すべてに綺麗な彩りがにじみ出るんだよな。
いつか、描いてみたいな。
「じゃ、じゃあ明日から持ってきても良いかな?」
いけない、ジロジロ見すぎだ。
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
平井さんの笑顔はやっぱり綺麗で、いつか離れたとき思い出せるように目に焼き付けた。
平井さんが食堂で頭を下げる。
何に対して謝っているのかさっぱり分からない。
「何の話ですか?」
「私の昼食に山根君の大切な時間を犠牲にさせていること。本当はあまり食堂好きじゃないんだよね。」
俺、そんな事平井さんに言ったかな?まあ、言ったのかもしれないな。
食堂は好きじゃないが、平井さんと一緒であれば役得だと思っている。
でも、こんな暗くて見栄えの悪い不気味な俺と食事をとる平井さんからすれば罰ゲームなのかもしれない。
「いや…別に大丈夫ですよ。」
こういう時、上手く会話で表現できない。
言葉で人や自分の気持ちを推し量るとか難しい。
いや、出来ない。絵の表現なら好きなのにな。
俺から平井さんに昼食を一緒にとるのやめませんかって言った方が良いのかもしれないな。
「あのね…私、山根君に提案があるの。」
ああ、平井さんから言ってくれるのか。
そうだ、平井さん。嫌なことはちゃんと嫌と言った方が良いですよ。
あなたなら一緒にご飯を食べたいという人が大勢いるんだからそもそも俺なんかと一緒じゃなくてよかったんだ。
俺もこれで明日からデスクで一人カップラーメンをすする昼休憩に戻るな。
それはそれで俺らしい時間に戻れるな。
「はい、遠慮なく言ってください。」
「あのね、明日から山根君のお弁当私が作ってきても良いかな?」
「…は?」
「ずっと気になってたんだ。山根君いつも私と一緒に昼ごはん食べる時コンビニのおにぎりとかサンドイッチだけだなって。もしよかったらお弁当作らせてほしい…です。おせっかいおばさんみたいだし、ありがた迷惑にしかならないから言い出せなかったんだけどもしよかったらどうでしょうか。」
「いや、でも平井さんの負担になるんじゃないですか?」
「それは絶対ない。」平井さんは言い切った。
「むしろ、今料理が作りたくって仕方がないの。めぐちゃんに色々レシピを教えてもらってるんだけど一人暮らしだと、どうしても多めになっちゃうの。だめかな?」
俺はどこまでラッキーなんだ。
いや、でも平井さんに必要以上に親しくなるのはあまり良くないだろう。断るべきだ俺。
…でも目の前の平井さんがすごく懇願した目をしている。
「じゃ、じゃあ…お願いして良いですか。」
「良かった~。口に合わなかったらすぐ言ってね。好き嫌いも教えてもらって良い?あ…すごい前のめりになっちゃった。ごめんね、鬱陶しいよね。だから嫌われちゃうんだよね。もう、私馬鹿だ。」
珍しく平井さんが勢いよく話してくれたと思ったら一人で反省会を始めてしまった。
綺麗で美人で仕事が出来てみんなに優しくて漫画に出てきそうな高嶺の花だと思っていた平井さんだったけど、今目の前に居るのは可愛くて、些細なことに悩んでいる女の子だ。
やばい、ちゃんと距離を空けようとしているのにこんな姿見せられたら平井さんを想う気持ちが深まってしまう。
いや、もうすでに深まってしまっている気がする。
確実に、絶対に好きになっても失恋決定な相手だ。
俺なんかが恋をするなんておこがましい人だ。
けど、少しだけ。少しだけ人を好きになる経験をさせてもらおう。
何もしない。ただ、平井さんが必要な時に傍にいさせてもらうだけだ。
必要がなくなったすぐ離れる。それだけでいい。
「山根君、大丈夫?ごめんね、私一気に一方的に喋っちゃったよね。私と居たら疲れちゃうんじゃない?」
「それは絶対ありません。平井さん、もっと自分に自信持ってください。」
自信を持てるだけの素晴らしさを説明した方が良いかと思ったが、物凄く気持ち悪いと思われそうなのでやめておこう。
「…、あ、ありがとう。」ああ、平井さんが照れてる。
一つ一つの感情の変化が全部絵になる。わざとらしくない、自然で、でも品があるんだよな。
顔の造形だけじゃなくて動きや表情、所作すべてに綺麗な彩りがにじみ出るんだよな。
いつか、描いてみたいな。
「じゃ、じゃあ明日から持ってきても良いかな?」
いけない、ジロジロ見すぎだ。
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
平井さんの笑顔はやっぱり綺麗で、いつか離れたとき思い出せるように目に焼き付けた。
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