前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな？

視察へ出発

屋敷に戻ると、ディランが不機嫌そうに私を睨みつけてきた。



何だろう？

今日はなにか地雷を踏んだかしら？

ああ、一緒に買い物に行けなかったこと？

いやいや、事前に行けないって伝えたしそれはないか…。


「ただいま戻りました。
ディラン様、気に入ったベルトは見つかりましたか？」

ちょっと聞いてみた。


「…。お前に言いたくない。」

目も合わさず荒い言葉で返された。


「そう、ですか…。」


イリスやクロエの方を見るけど二人も何があったか分からないようだ。



相当虫の居所が悪いらしい。

あまり刺激しないでおこう。


その後も、ディランからの視線は以前のような、憎しみの交じった鋭いものだった。


まあ、これが本来のディランだったと思えばいいか。


そうだ、今までがおかしかったんだわ。

謎の病原菌から回復したって事ね。


ちょうど、皆が集まっているタイミングがあったので来週、私は事業の偵察に行くので家を空けることを伝えた。



このタイミングで行かないとそろそろ手続きも限界だからとも伝えた。


出発までの期間も相変わらずディランは不機嫌だった。

まあ、良いけどさ。

空気悪いなあ…。



そして、出発の当日、手配しておいた馬車に乗り込むと、何故かディランも一緒に乗り込んできた。

な、何で？


「俺も一緒に行く。お前の監視だ。」


ええええええ？なんじゃそらあ？

聞いてないし…。勝手に決めないでよ～。

すごく嫌な顔をしていたけど、ディランは譲る気はないようだ。


「楽しい事何にもありませんよ？良いんですか？」


「旅行じゃないんだ、そんなものなくて良い！」


「…分かりました。
お構いできませんがそれでも良いならどうぞ、同行してください。」


あああ～やだな～。

でも仕方がない。

一応この人領主候補だもんな。

見てもらう分には何ら問題はないか。



「そうさせてもらう、一切の計らいは必要ない。」



「…承知しました。」


という事で、超絶不機嫌なディランと一緒に馬車に揺られる事数時間。



私は新聞を読み込んだり、ため込んでいた帳簿の確認をしている。


向かいの席ではディランがやや酔ったみたいだ。


「大丈夫ですか？」


「き、気にするな…。
それにしても、何故お前は酔わないんだ？
そんなに体が頑丈なのか？」



「別に、普通ですよ。並みじゃないですかね。」


「お前は苦痛を感じたことがあるのか？」


失礼な質問だな。

あるに決まってるでしょ。

私を何やと思ってるの。

病原菌じゃないんだから。



「もちろん、ありますよ。
命を削られるほどの空腹はさすがに苦痛ですよね。
あと、寒い雪の日の夜肺炎になりかけながら外で過ごすのは結構辛いものがあります。
それに比べればある程度の不快感は耐えうることが出来ますよ。」


まあ、これは幼少期のルキアだったころの話だけどね。



「そんな事、あったのか？」


「さあ、どうでしょう。
今の私の話をディラン様が信じるか信じないかはお任せします。」


「ふんっ。開き直ったな。何とも信じがたい話だな。」



「でしょうね。」


そう言ってまた新聞を開いた。

まだ数時間もこの馬車に乗らなくてはならない。

ああ、確かにこれは結構辛いものがあるな。



この不毛な時間の過ごし方…いったい何の修行なんだろう。