21 / 123
ぬくもりを覚えておこう
しおりを挟む
部屋に着いて、ベッドにデイビット様をゆっくり寝かせる。
デイビット様は痩せているけど、思ったより重くてバランスを崩してしまった。
私も一緒にベッドに転がり入ってしまった。
「ご、ごめんなさい。すぐどきますから。」
「いや、いいよ。君も疲れただろう?君が嫌でなければしばらくこうやっていよう。」
「い、良いんですか?」
「ああ、女性に触れるのはずっと違和感があってね。結婚して何とか息子が生まれたから世継ぎの義務から解放されたと思ったんだ。
だから、息子が生まれてからは妻とは一切触れあう事はなかった。
それで愛想を尽かされてしまったよ。
息子が家督を継ぐ年齢まで離縁は出来ないから別居していたんだが、やっと家督を譲って好きに生きようと思ったんだ。そのすぐ後に病が発覚してしまったがな。」デイビット様が心なく苦笑している。
「でも、じゃあこの領地は?」私はデイビット様の傍で横に寝転んだ状態で質問してみた。
「政略結婚だったからね。領地は妻だけでも治められる範囲も多かったから手放したよ。けど、この領地だけは妻の管轄外だった。戦場にもなる地形だったし所有者をあいまいにしておくとすぐ誰かに乱されて奪われやすい土地だから、ここだけは僕が継続して領主になっているんだよ。」
「そうだったんですね。」
「すごく思い入れのある土地だから息子には任せるのは心配だったんだ。エレノアが継いでくれたらどれだけ心強いか…。」
「デイビット様、私…デイビット様みたいに土地を治めるなんて出来ません。買いかぶりすぎです。」
そう、ちょっとそろばんがはじけて、おもてなし上手なだけの女だもの。
「ははは。当の本人がそう言うか…。エレノア、君は自分が思う以上に人を惹きつけて導くことが出来る素晴らしい人間だ。」
デイビット様が横で添い寝している私の頬を優しくなでる。
「すまない…。僕は最後に欲が出てしまったようだ。エレノア、僕の最後のわがままを聞いてくれるかい?」
「?わがままですか?デイビット様のわがままなら何でもどうぞ。」
私の頬を撫でているデイビット様の手にそっと触れる。大きくて暖かい手…。
「本当かい?ああ、良かった。これで安心して眠れるよ…。ありがとう、エレノア…。」
そう言ってデイビット様は目を閉じて寝てしまった。
かなり疲れてたみたい。
わがままって何なんだろう?屋敷に戻ったら教えてくれるかな?
しばらく私はデイビット様の寝顔を眺めてデイビット様の体温を感じた。
この優しいぬくもりをちゃんと覚えておこう。
次の日の朝は雨だった。
ちょうど休みだと言っていたので私たちは同じ室内でまったりと過ごした。
暇があれば手話の記録をつけておこうとせっせと紙に書きこんでいた。
それをデイビット様が見て不思議そうに見ている。
「エレノア、これは何だい?手の動きや意味が書いてあるけど、魔法の術式を考えているのかな?」
「いえいえ、これは手話と言って前世で耳が聞こえない人と会話をする方法です。使わないと忘れちゃいそうだからこうやって時間があるときに書き出してるんです。」
「ほう、この世界でも耳が聞こえない人間はいるが、このような方法は確立されていないな。
いつかこの手話と言うものが広まれば救われる人がいるのではないか?」
「どうでしょうか?まだ分かりませんが、出来ることはしておこうと思います。」
「…今までちゃんと聞いたことがなかったが、エレノアが良ければ君の前世を聞いても良いかい?」
「え?そんな面白い内容はないですよ?」
「良いんだ。せっかく今日エレノアとゆっくりすごせる時間が出来たんだ。ぜひ聞かせてほしいな。」
「そ、そうですか?ちょっと恥ずかしいけど…じゃあ、お伝えしますね。」
私はペンを置いて少し姿勢を正した。
デイビット様は痩せているけど、思ったより重くてバランスを崩してしまった。
私も一緒にベッドに転がり入ってしまった。
「ご、ごめんなさい。すぐどきますから。」
「いや、いいよ。君も疲れただろう?君が嫌でなければしばらくこうやっていよう。」
「い、良いんですか?」
「ああ、女性に触れるのはずっと違和感があってね。結婚して何とか息子が生まれたから世継ぎの義務から解放されたと思ったんだ。
だから、息子が生まれてからは妻とは一切触れあう事はなかった。
それで愛想を尽かされてしまったよ。
息子が家督を継ぐ年齢まで離縁は出来ないから別居していたんだが、やっと家督を譲って好きに生きようと思ったんだ。そのすぐ後に病が発覚してしまったがな。」デイビット様が心なく苦笑している。
「でも、じゃあこの領地は?」私はデイビット様の傍で横に寝転んだ状態で質問してみた。
「政略結婚だったからね。領地は妻だけでも治められる範囲も多かったから手放したよ。けど、この領地だけは妻の管轄外だった。戦場にもなる地形だったし所有者をあいまいにしておくとすぐ誰かに乱されて奪われやすい土地だから、ここだけは僕が継続して領主になっているんだよ。」
「そうだったんですね。」
「すごく思い入れのある土地だから息子には任せるのは心配だったんだ。エレノアが継いでくれたらどれだけ心強いか…。」
「デイビット様、私…デイビット様みたいに土地を治めるなんて出来ません。買いかぶりすぎです。」
そう、ちょっとそろばんがはじけて、おもてなし上手なだけの女だもの。
「ははは。当の本人がそう言うか…。エレノア、君は自分が思う以上に人を惹きつけて導くことが出来る素晴らしい人間だ。」
デイビット様が横で添い寝している私の頬を優しくなでる。
「すまない…。僕は最後に欲が出てしまったようだ。エレノア、僕の最後のわがままを聞いてくれるかい?」
「?わがままですか?デイビット様のわがままなら何でもどうぞ。」
私の頬を撫でているデイビット様の手にそっと触れる。大きくて暖かい手…。
「本当かい?ああ、良かった。これで安心して眠れるよ…。ありがとう、エレノア…。」
そう言ってデイビット様は目を閉じて寝てしまった。
かなり疲れてたみたい。
わがままって何なんだろう?屋敷に戻ったら教えてくれるかな?
しばらく私はデイビット様の寝顔を眺めてデイビット様の体温を感じた。
この優しいぬくもりをちゃんと覚えておこう。
次の日の朝は雨だった。
ちょうど休みだと言っていたので私たちは同じ室内でまったりと過ごした。
暇があれば手話の記録をつけておこうとせっせと紙に書きこんでいた。
それをデイビット様が見て不思議そうに見ている。
「エレノア、これは何だい?手の動きや意味が書いてあるけど、魔法の術式を考えているのかな?」
「いえいえ、これは手話と言って前世で耳が聞こえない人と会話をする方法です。使わないと忘れちゃいそうだからこうやって時間があるときに書き出してるんです。」
「ほう、この世界でも耳が聞こえない人間はいるが、このような方法は確立されていないな。
いつかこの手話と言うものが広まれば救われる人がいるのではないか?」
「どうでしょうか?まだ分かりませんが、出来ることはしておこうと思います。」
「…今までちゃんと聞いたことがなかったが、エレノアが良ければ君の前世を聞いても良いかい?」
「え?そんな面白い内容はないですよ?」
「良いんだ。せっかく今日エレノアとゆっくりすごせる時間が出来たんだ。ぜひ聞かせてほしいな。」
「そ、そうですか?ちょっと恥ずかしいけど…じゃあ、お伝えしますね。」
私はペンを置いて少し姿勢を正した。
11
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる