上 下
25 / 29

同じ空気を吸う

しおりを挟む
そして、涼君は晴れて入社し俺の直属の部下になった。


長年あこがれ続けていた初恋の君が俺と毎日仕事をしてくれる…。ああ、どうしても気持ちが空回りしてしまう。



今日は涼君が企画書案を持ってきてくれた。

主任である俺が必ず目を通すと伝えていたからだ。

涼君を目の前に座らせて同じ空気を吸う。


企画書はほぼ完ぺきだ。流石だな。

ちらちらと思い人を見るために視線が勝手に涼君に動いてしまう。

冴えないスーツと髪型で一瞬の見た目では分からないかもしれないが、実は涼君の顔は整っている。

長いまつげに綺麗な鼻筋。

笑うと形の良い大きめの瞳が三日月形に変わりドキリとしてしまう。

よく見ると手足もすらりと長くてスタイルが良い。

安物のスーツのおかげで上手くこの素材を隠してくれている。

露出している首筋はため息が出るほどなまめかしくて吸い付きたくなってしまう。


いかんいかん。

仕事中にそんなことを考えてはいけない。

ふうと何度も呼吸を整えて頭から邪念を取り払う。


涼君がぼんやりしていたので女の事でも考えていたのかと聞くと、否定しない回答だった。

じゃあ、彼女の事でも考えていたのかとカマをかけてみたら、それは違う、彼女はいないって話だった。よ、よし!

今無性に嬉しい…。感動のあまり呼吸が乱れる。

これじゃ企画書を読んで息を乱す変質者だ。気持ち悪がれてしまう。


深呼吸をしながら冷静を装って企画書を眺めていると、涼君が斎藤さんに資料を見てもらう事を提案してきた。

そんなこと絶対駄目だ。

この時間は俺が涼君をゆっくりと観察し、交流する機会なのだから。


斎藤さんは典型的なくたびれたマイホームパパだ。
社歴が長い分俺もよく頼る人で、悪い人ではないのは理解している。
だが、涼君との距離がいささか近いのが気になっていた。

しかし、涼君の教育係を別の人にとなると独身が多いこの部署、他に安全な適任者がいない。

今、涼君のビジュアルを含めたハイスペックさを認識されると厄介だ。

俺は斎藤さんに頼るなと説明し、この役得だけは死守した。






ある日、涼君がデスクでお弁当を食べている姿があった。

こっそり近づくと、見るのが悲しくなるような、夕飯の残り物を寄せ集めたような茶色い弁当だった。

申し訳なさ程度にブロッコリーが一つお米ゾーンに転がっていた。


彼のスーツと言い、この弁当と言い金銭に困っているのだろうか?

前職も割と名の通った企業だったはずだ。役職がつかなければ給料が低かったのだろうか?


物凄く心配になる。


本当は仕事帰りに一杯やってかないか?と誘いたいところだが、ちょうど管理者会議でそのフレーズはパワハラになりかねないので死語認定されたところだ。

涼君から誘ってもらうには良いんだろうが、そんな気配はない。


俺の自宅に誘うのは以ての外だ。

友人や恋人であればこのハードルは低いんだろうけど、今は上司と部下だからな。

俺にできることと言えば、出張土産と言う名のプレゼントしかできない。

少しでも涼君の生活が潤うように、けどもらう相手の負担にならないぎりぎりの値段設定で毎回涼君にお土産を渡してきた。

何回目かのお土産のお礼の際、すごく気に入った味があったと言ってもらえた。


それを説明してくれる彼の笑顔が何よりの礼だ。ああ、こんなに近くで彼の笑顔が見れるなんて、幸せだ。


しかも、涼君に俺の事をカッコいいとか素敵だとか言ってもらえた。

今まで数えきれないほどお世辞は言われてきたが、涼君に言われると破壊力がすごい。

嬉しさが脳内を充満していた。

それだけで舞い上がっていたのに、予想外にも涼君が俺の肩をぽんぽんと触ってきた。。


自分から触りたくて仕方がなかった人から予告なく優しく触られ、脳内が嬉しさの充満を通り越し、ヒューズしてしまった。



だ、だめだ…。予想外の状況にパニック気味になってしまい、そそくさと立ち去ってしまった。


俺って…馬鹿で間抜けで意気地なしだ…。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...