俺の事嫌いなんですよね?

ミミリン

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オタク魂

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スーツ姿で製造現場を見学させてもらう。ヘルメットを装着し安全靴に履き替える。


ああ、何か懐かしいな。
って転職してそんなに時間たってないけど。

「うわあ…。すごい…。」想像していた以上に素晴らしい環境だった。設備は新しく衛生面も言うことなしだ。いいなあ…。

「ああ、これが先ほど伝えた別の分野で受注を受けているものだ。もう公式に公表しているから見せても大丈夫。これの生産が結構時間と手間がかかってしまってな。それでそちらの受注が難しい状態なんだよ。」

生産ラインをたどると最新の機器が目に入る。

「うわ!これ、最新の機器じゃないですか?すごいですね!」何だかテンションが上がって近づいたとき


「ちょっと!勝手に触らないでよ!」と声がした。

声の主は小柄な男の子、いや、女の子?素朴な顔だけど化粧をすれば化けそうな綺麗にパーツが配置された子だった。作業着を着て髪は短い。顔に製造した時に出た汚れが付いている。


「ああ、久美子か。この子が娘の久美子です。こんな感じで男か女か分からないような子で。久美子、失礼だぞ。大事な取引先の営業の方だ。」

「…。だって大切なマシーンに遠慮なく近づくんだもん。素人のくせに入ってこないでよ!」

「す、すみません。あまりにも素晴らしいマシーンでつい感動してしまい軽率でした。あの、久美子さん。お願いですこれ、どんなプログラム打ち込んでいるか教えて欲しいです。こんな機会二度とないかもしれないんです。どうか、お願いです。」

「はあ?そんなちゃらい服の人にお願いされても困るんだけど。」

「ああ、このスーツですか?じゃ、じゃあちょっと着替えてきます。」

俺は部長さんにお願いして一度応接室に戻り着替えて急ぎ足でもう一度、久美子さんの元に戻った。

荷物になると分かっていたけど、つい前職の癖で作業着を持参していたんだ。

その作業着は前職で支給してもらっていたものだから俺の所属と名前が刺繍してあった。
本当は退職するときに返却しなくちゃいけないんだけど着心地が好きすぎて何とか返さずにもらえた大切な作業着だ。


「松川製作所技術部…田上…。え?お兄さん松川製作所の人?」

久美子さんは俺の胸元の刺繡を見て興味を示してくれた。

「ああ、これ前職の作業着で…。この作業着の着心地が良すぎてもらってきちゃった。」

「ふ~ん。松川さんに勤めていた人なら特別に見せてあげる。どうぞ、付いてきて。」

「やった!ありがとう。」

と言う流れで俺は久美子さんのプログラミングの方法を見せてもらった。

「なるほど。これ、数式入れるとき優先順位つけるの難しいよね。久美子さんすごいなあ。これだけプログラム組むって事は相当勉強したんでしょ?」

「高専出身なんで嫌いじゃないんです。」

「うわ。女の子の高専。むちゃくちゃかっこいいね。うん。この数式すごくそそる。」

「もう、恥ずかしいからやめてください。」

「あ!ちょっと閃いちゃったんだけど、僕もプログラム入れてみていい?出来上がりは変わらないと思うんだけどスピードにちょっと変化があるかも。」

「え?これ以上まだタイムパフォーマンス上げること出来るの?」久美子さんは社長の方を見る。

「やってもらってもいいんじゃないか。久美子に任せる。最新機器はどうも疎くてな。一旦私は部屋に戻るよ。腰が痛くなってきた。草野君も戻るかい?」

「いえ、私は部下がお世話になっておりますし、ここで見学続けます。」

「ああ、ならどうぞ。君、椅子を出してあげなさい。」部長に声をかける。

「はい。社長、私も田上さんと久美子さんの所に行っていいですか?」部長が生き生きした顔でお願いしている。

「好きにしなさい。何だ、すごく鼻息が荒いな。」

「いえいえ、松川製作所と聞いたらテンションが上がってしまって。」

「ああ、あそこは関東では中規模だが時々物凄い発想をもってくる面白い企業だからな。まあ、良い刺激になりそうなら時間を気にせず田上君と話あったらいい。久美子も珍しく楽しそうじゃないか。」

「ありがとうございます。」部長はそう言って草野主任の椅子を設置すると小走りでマシーンの前で議論する二人の中に入っていった。

「う~ん。この数式を次に入れたらカーブが甘くなるな。と言うことは…。」

「側面の計算はこれでいけるはず。表面も打ち込めば…。」

「マシンのパーツ、こっちの刃物に替えるのはどうでしょう?このメーカーさんと相性いいのはこっちの形だと思います。」

「よし、やってみよう。」


なんやかんやで3人とも汗やオイル、粉塵にまみれながら理想の形と時間配分を作り上げることが出来た。

「で、で、出来た~~!流石最前線のマシン!完全にものにしてやった!田上さんありがとう!部長と二人でこれが限界って思ってたんです!ああ、嬉しすぎる!」


「いや~、流石松川製作所さんで鍛えられた方は違いますね。すごく勉強になりました。」

「いえいえ、こちらこそ大切なマシン使わせてもらって感動しました。技術の進歩ってすごいですね。久々に頭が理系に切り替わって新鮮でした。」


「おっと、もうこんな時間でした。私社長を呼んできます。これからどうするか話し合いましょう。これから商談でもよろしいですか?」部長が時計を見て提案してくれた。

「ありがとうございます。本日中に話を詰めるところまで詰めることが出来ればこちらも非常にありがたいです。」草野主任が部長に頭を下げる。

「私はこのままマシンいじっとく。このプログラム再現できるように整理しておきたいし。」久美子さんはまだ続行するらしい。

「田上さんが着替えてから話し合いにしましょうか。こちらも準備が必要ですし。開いている応接室お貸ししますね。」部長がありがたいことを言ってくれた。

そう、自分でも分かる。熱中しすぎてほこりや粉塵、汗できっと俺はひどい有り様だ。



ありがたく応接室をお借りして着替えていると、草野主任が入ってきた。

「田上君、あ、ごめん着替えている所だったね。」

「男同士ですし、全然いいですよ。もう終わりますね。」

「ああ、あの、この肌着使ってくれ。もちろん未使用だから。」そう言って草野主任はコンビニで買ったであろう男もののインナーを渡してくれた。ああ、助かる~。


「ええ?良いんですか?助かります。あとで金額教えてくださいね。」

「これくらい差し入れさせてくれ。君のおかげで商談がまとまりそうだし、無理でも今後にとても好印象を与えてくれただろ?」

「ははは。オタク心がうずいただけですよ。けど、ありがたくいただきます。」

「そうしてくれ。」

「あの、草野主任。」

「何だ?」

「今汗拭きシートでとりあえず上半身拭いてるんですけど、背中に手が回らなくて…。体固いんでしょうね。今から商談だったら匂いまずいんで、さっと拭いてもらうこと出来ますか?」


「うえ?わ、私がか?」


「あ、嫌だったらごめんなさい。大丈夫です。そうですよね、男性と言えど非常識でした。あの、忘れてください。さっき事務員のおばちゃんがお茶届けてくれた時『兄ちゃんええ体してるなあ。おばちゃんが背中拭いたろか?』って言ってきてすごく怖かったんです。ははは、僕も上司に似たような事させるところでした。あの、すぐ着替えるので先行ってて…。」


「全く嫌ではない。このシートで君の背中を拭いたらいいんだな?」


「え?無理しないでください。」

「無理ではない。さあ、時間がない。拭くぞ。」

「ああ、すみません。」

草野主任は優しく俺の背中を拭いてくれた。すみません、上司に背中拭かせるっておかしかったよな。

「ふう、これで大体拭けた。先に行っておくから。」草野主任はこちらの顔を見ずに部屋を出た。ああ、また地雷踏んだのかもしれないな。


「あ、ありがとうございます!じゃあ、インナー頂きますね。」そう言って俺はさっさとスーツに着替えて会議室に向かった。

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