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初出張2
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ああ、転職後初の出張が草野主任同伴かあ。
斎藤さんとなら真面目な仕事中と砕けた休憩中のメリハリがあって良かったんだけどなあ。
仕方ないか…。仕事だもんな。先方も草野主任が足を運んだってなると喜ぶだろうし上司命令だもんな。
よし、気分を切り替えよう!
出発の朝新幹線の駅で草野主任と落ち合う。
泊りがけだからそれなりに荷物は多い。はずなんだが、草野主任俺より荷物少なくない?
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。あれ?田上君今日もそのスーツ?」
「あ、はい。ほとんどスーツ持ってなくて…。一応訪問先で失礼のないように持ってる中でも一番高いスーツ着てきたんですけど。草野主任は今日もばっちり決まってますね。」
俺は一張羅を着てみてもこんなドラマに出てくるリアルハイスペックな人が横に居たら余計にみすぼらしく見えるよな。
いや、草野主任は悪くないけど。いかんいかん、これが斎藤さんなら結果が違ったとか思うのは斎藤さんに失礼だろ俺。
大企業の営業に就職した時点でスーツ新しく買い足すべきだった。
収入も上がったし、奨学金も全額返済できたから財布に余裕は今までより十分ある、次買いに行こう。
そう決心した。
「まあ、これから買いそろえると良い。さあ、もうチケットは手配してるから行こうか。」
「は、はい。何から何まですみません。」
「いいよ。今日は田上君の記念すべき初出張だ。同席させてもらえて光栄だ。」
「あ、はあ。それは…どうも。」
草野主任って、この前映画見た後すこし注意を受けたから、仕事中は事務的に接していたけどまたこうやって意味不明な距離感で近づいてくる。
向こうは俺を振り回す気はないんだろうけど、意図が分からない分どう接して良いか困るし緊張するんだよなあ。
背が高く手足が長い上司の後姿を追いながらモヤモヤする。
横並びに席をとっていたようで、二人並んで座席に着く。
特に会話もせず、俺は大阪に着くまで資料を読み込んでいた。
これが斎藤さんならちょっとお馬鹿な話をかましながら打合せしてたんだろうけどな。
今頃あのクマみたいな体で家族サービス中だろう。結婚も大変だ。
取引先へ到着し、先方へしっかり挨拶をさせていただく。
名刺は違えど、今まで会社同士のつなぎ役を担う業務は任されてきた。技術と兼務だったけどそれなりに営業でも成果は上げている部類だとは思う。
にこやかに先方の社長と部長に名刺を差し出す。
「この4月から当社に入職した田上と申します。斎藤も引き続き担当させていただきますが、これからわたくしもこちらにお世話になるかと存じます。今後もどうぞ、よろしくお願いいたします。」
「ああ、丁寧にありがとうございます。お若いですが、こちらが初めてではなさそうですな?」
先方の社長が笑顔ながらも目の奥が笑っていない瞳で俺を観察する。
この規模の会社を存続させるだけあって、物腰は柔らかいがびりびりと圧を感じるなあ。
「はい。実はどうしても当社で仕事がしたくて転職と言う形で入社しました。なので多少の経験はあると言えど、まだまだ勉強の身です。御社にご迷惑をかけることはありませんが、自身の成長のため思うところがあれば遠慮なくおっしゃって頂きたいです。」
言っている内容は媚びるような内容かもしれないが、話し方は堂々と。あくまでビジネスパートナーとして信頼していただけるように。
「ふうむ。なるほどな。いやいや、突然ぶしつけな質問をすまないね。田上君だったね。まだまだ若い。こちらこそ、よろしく頼むよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「そして、隣に居るのは草野君じゃないか。えらく早い出世をしていると耳にしたよ。まあ、私もそうなるかと思っていたよ。驚くことはなかったな。今日はわざわざ君が来てくれるとは嬉しい限りだ。」
「ご無沙汰しております。日ごろから弊社の商品を利用していただき感謝しております。」
「ははは。相変わらず非の打ち所がないくらいいい男だ。うちの娘にも君のような男性が身近にいたらあそこまで仕事にのめり込まずに結婚に希望を持つのになあ。」
「あ、娘さんがおられるのですか?」何の気なしに俺が聞く。
「そうなんだ。仕事が好きすぎてずっと機械の操作に明け暮れていてね。化粧一つしやしないんだよ。だれか良い人が居たらいいんだが…。ああ、すまない。仕事とは関係ない話を長々と。さて、新しい商品開発の話だったかな?」
「あ、はい。これから資料を使って説明させていただきます。よろしくお願いします。」
俺は何度も予習した内容を社長や部長に説明した。感触は悪くはないが、物凄く良いわけでもない。
「う~ん。いや、まあ内容は十分良いんだが…。」
「そうですね。私も社長と同じく非常に良い商品だとは思うのですが…。」と二人とも歯切れが悪い。
横に座っている草野主任を見ると、草野主任も不思議そうな顔をしている。説明が悪かったわけではなさそうだ。
「何か、難しい点がありますか?どうぞ、気兼ねなくおっしゃってください。」
俺はその歯切れの悪さが気になり聞いてみる。
「いやね、この不景気なんだけどありがたいことに別の会社から受注を大量に受けていて今その部品の生産に手が取られているんだ。そちらさんの商品を作るとなると…。う~ん難しいなあ…。」
「そうですね…。」社長も部長もモヤモヤした感じだ。
「あ、あの。僕こちらの現場に来させて頂いたのが初めてなのですが、もし良かったら見学させていただくことは可能でしょうか?もちろん、企業機密情報がある場所は除外で他の場所をぜひ見てみたいです。」
「え?現場を?」
「はい。あの、僕前職で技術関連も請け負っていたのでものすごく興味があるんです。どうか、お願いします!」
机におでこが打ち付けられるくらい深々と頭を下げる。
「…いいんじゃないですか。これからお世話になるんだし現場の雰囲気も見てもらって損はないと思いますよ。」と部長さんが一押ししてくれると社長も許可を出してくれた。
「ありがとうございます!早速お願いします。あ、草野主任はどうされますか?」
「私ももちろん見学させていただくよ。」
「ですよね。ああ、楽しみだ!」
「ははは。面白い子が入ってきてくれたね。草野主任も指導のし甲斐があるだろう?」
「はい。彼を見ていると伸びしろが多すぎて指導が楽しくなります。」
え~?そんなこと言っちゃってさ。いっつも草野主任不機嫌モードじゃん。
斎藤さんとなら真面目な仕事中と砕けた休憩中のメリハリがあって良かったんだけどなあ。
仕方ないか…。仕事だもんな。先方も草野主任が足を運んだってなると喜ぶだろうし上司命令だもんな。
よし、気分を切り替えよう!
出発の朝新幹線の駅で草野主任と落ち合う。
泊りがけだからそれなりに荷物は多い。はずなんだが、草野主任俺より荷物少なくない?
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。あれ?田上君今日もそのスーツ?」
「あ、はい。ほとんどスーツ持ってなくて…。一応訪問先で失礼のないように持ってる中でも一番高いスーツ着てきたんですけど。草野主任は今日もばっちり決まってますね。」
俺は一張羅を着てみてもこんなドラマに出てくるリアルハイスペックな人が横に居たら余計にみすぼらしく見えるよな。
いや、草野主任は悪くないけど。いかんいかん、これが斎藤さんなら結果が違ったとか思うのは斎藤さんに失礼だろ俺。
大企業の営業に就職した時点でスーツ新しく買い足すべきだった。
収入も上がったし、奨学金も全額返済できたから財布に余裕は今までより十分ある、次買いに行こう。
そう決心した。
「まあ、これから買いそろえると良い。さあ、もうチケットは手配してるから行こうか。」
「は、はい。何から何まですみません。」
「いいよ。今日は田上君の記念すべき初出張だ。同席させてもらえて光栄だ。」
「あ、はあ。それは…どうも。」
草野主任って、この前映画見た後すこし注意を受けたから、仕事中は事務的に接していたけどまたこうやって意味不明な距離感で近づいてくる。
向こうは俺を振り回す気はないんだろうけど、意図が分からない分どう接して良いか困るし緊張するんだよなあ。
背が高く手足が長い上司の後姿を追いながらモヤモヤする。
横並びに席をとっていたようで、二人並んで座席に着く。
特に会話もせず、俺は大阪に着くまで資料を読み込んでいた。
これが斎藤さんならちょっとお馬鹿な話をかましながら打合せしてたんだろうけどな。
今頃あのクマみたいな体で家族サービス中だろう。結婚も大変だ。
取引先へ到着し、先方へしっかり挨拶をさせていただく。
名刺は違えど、今まで会社同士のつなぎ役を担う業務は任されてきた。技術と兼務だったけどそれなりに営業でも成果は上げている部類だとは思う。
にこやかに先方の社長と部長に名刺を差し出す。
「この4月から当社に入職した田上と申します。斎藤も引き続き担当させていただきますが、これからわたくしもこちらにお世話になるかと存じます。今後もどうぞ、よろしくお願いいたします。」
「ああ、丁寧にありがとうございます。お若いですが、こちらが初めてではなさそうですな?」
先方の社長が笑顔ながらも目の奥が笑っていない瞳で俺を観察する。
この規模の会社を存続させるだけあって、物腰は柔らかいがびりびりと圧を感じるなあ。
「はい。実はどうしても当社で仕事がしたくて転職と言う形で入社しました。なので多少の経験はあると言えど、まだまだ勉強の身です。御社にご迷惑をかけることはありませんが、自身の成長のため思うところがあれば遠慮なくおっしゃって頂きたいです。」
言っている内容は媚びるような内容かもしれないが、話し方は堂々と。あくまでビジネスパートナーとして信頼していただけるように。
「ふうむ。なるほどな。いやいや、突然ぶしつけな質問をすまないね。田上君だったね。まだまだ若い。こちらこそ、よろしく頼むよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「そして、隣に居るのは草野君じゃないか。えらく早い出世をしていると耳にしたよ。まあ、私もそうなるかと思っていたよ。驚くことはなかったな。今日はわざわざ君が来てくれるとは嬉しい限りだ。」
「ご無沙汰しております。日ごろから弊社の商品を利用していただき感謝しております。」
「ははは。相変わらず非の打ち所がないくらいいい男だ。うちの娘にも君のような男性が身近にいたらあそこまで仕事にのめり込まずに結婚に希望を持つのになあ。」
「あ、娘さんがおられるのですか?」何の気なしに俺が聞く。
「そうなんだ。仕事が好きすぎてずっと機械の操作に明け暮れていてね。化粧一つしやしないんだよ。だれか良い人が居たらいいんだが…。ああ、すまない。仕事とは関係ない話を長々と。さて、新しい商品開発の話だったかな?」
「あ、はい。これから資料を使って説明させていただきます。よろしくお願いします。」
俺は何度も予習した内容を社長や部長に説明した。感触は悪くはないが、物凄く良いわけでもない。
「う~ん。いや、まあ内容は十分良いんだが…。」
「そうですね。私も社長と同じく非常に良い商品だとは思うのですが…。」と二人とも歯切れが悪い。
横に座っている草野主任を見ると、草野主任も不思議そうな顔をしている。説明が悪かったわけではなさそうだ。
「何か、難しい点がありますか?どうぞ、気兼ねなくおっしゃってください。」
俺はその歯切れの悪さが気になり聞いてみる。
「いやね、この不景気なんだけどありがたいことに別の会社から受注を大量に受けていて今その部品の生産に手が取られているんだ。そちらさんの商品を作るとなると…。う~ん難しいなあ…。」
「そうですね…。」社長も部長もモヤモヤした感じだ。
「あ、あの。僕こちらの現場に来させて頂いたのが初めてなのですが、もし良かったら見学させていただくことは可能でしょうか?もちろん、企業機密情報がある場所は除外で他の場所をぜひ見てみたいです。」
「え?現場を?」
「はい。あの、僕前職で技術関連も請け負っていたのでものすごく興味があるんです。どうか、お願いします!」
机におでこが打ち付けられるくらい深々と頭を下げる。
「…いいんじゃないですか。これからお世話になるんだし現場の雰囲気も見てもらって損はないと思いますよ。」と部長さんが一押ししてくれると社長も許可を出してくれた。
「ありがとうございます!早速お願いします。あ、草野主任はどうされますか?」
「私ももちろん見学させていただくよ。」
「ですよね。ああ、楽しみだ!」
「ははは。面白い子が入ってきてくれたね。草野主任も指導のし甲斐があるだろう?」
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