俺の事嫌いなんですよね?

ミミリン

文字の大きさ
上 下
14 / 29

お揃い

しおりを挟む
研修がやっと終わって自宅に帰りひと眠りした。


これが新卒だったらこのまま仲良くなった子たちと飲み明かすんだろうけど俺は明日の業務に備えて休む方を選んだ。

市川君に誘われたけど連絡先交換だけして帰宅した。


結局残念なことに、無村かすみちゃん似の女の子とは連絡先交換は出来なかった。

いやいや彼女を作るために研修に行ったわけではないんだから。と一人突っ込みを入れる。


そういえば草野主任は成美ちゃんといい感じになったのかな?意外だよなあの人がギャル系好きっていうの。
色々人は見かけによらないな~。


次の日の朝、いつも通り業務を遂行する。

草野主任には馴れ馴れしくならないように、淡々と業務の質問をしてデスクに戻ろうとした。

けど、ぐっと腕を掴まれた。

おいおい、またこの人距離感バグってるじゃん。

人が近づくと怖がるのに自分から突然触ってくるとか。何か何考えてるか読めない人だよな。


「あ、す、すまない。田上君、ちょっと話があるんだけど良いかな?」


「あ、はい。大丈夫です。」俺は誰もいない会議室に連れていかれた。

「あの、先日は研修会で色々と助かったよ。ありがとう。」


「いえいえ。僕は何もしてませんよ。気にしないでください。それに草野主任が怖がりだって誰にも言わないですから安心してください。」


「あ、ああ。」


「…話はそれだけですか?」


「いや、その…。」


何かいっつも圧のある指示を出すけど、今日は柄にもなく歯切れが悪いな。体調良くないのかな?


「その、肝試しのお礼の件だが次の日曜日とか予定を空けてくれないか?」

え?あの話本気だったんだ。別にお礼とか良いのに。気を使いすぎだよ。

「いや、良いですよ。休日なんだから僕なんかと一緒に居てもつまらないだろうし気を使わないでください。」
休みの日まで部下と過ごすんだったら一人で映画でも見に行く方が有意義だろう。


「田上君は何か予定とかあるのか?」


「いや、ないですけど。一緒にデートに行く相手もいないですしちょっと映画見て本屋でも寄って吉野家いって一日終わりです。僕と一緒だとつまらないですよ。」

自分で言っていて情けなくなるな。こんな人生勝ち組の人からしたらちっぽけな休日だろう。


「つまらないなんて絶対思わない。田上君と一緒に行きたいんだ。頼む。田上君にしか頼めないお願いなんだ。」

草野主任は俺に向かってガッツリ頭を下げた。


え?お礼から頼みごとに変わってる?それだけアフタヌーンティー行きたいのか?

まあ女の子とそんなところ行ったら後々付き合ってる設定にされたりするのかな?
俺と成美ちゃんの関係とはわけが違うんだろう。


「わ、分かりました。頭を上げてください。僕で良かったら一緒に行きます。」


「そ、そうか!ありがとう!すごく嬉しいよ!」頭を上げた草野主任は俺の両手を握って感謝を述べてきた。


また体が近い。いや、別に良いんだけど。


「ああ、すまない。嬉しさのあまり、どうしても我慢できなくて。」


嬉しくて男の手を握る姿なんて想像できないけどなあ。本当にギャップが激しくて変わった人だ。


「では、待ち合わせの事を後で伝えたいから田上君の連絡先を交換しても良い?」


ポケットからプライベート用であろう携帯電話をすっと出してきた。


ああ、この人のプライベートの連絡先なんて女性社員からしたら喉から手が出るほど欲しいものなんじゃないか?


「あ、はい。えっと僕はこれです。この肝試しの時にもらったハチ割れ猫の写真です。」

「ああ、これ?昨日アイコン変えたの?」

「へへへ。そうなんです。何か愛着が産まれてしまって。今このマスコット僕のベッドに転がってるんです。」


「へ、へえ。田上君のベッドに…。」

「あ、ちょっと引きました?」

「い、いや。引かないよ。その、羨ましいと思ってしまって。」


「あ、草野主任にも渡しますよ。アリクイとかコアラもありますよ。何だ言ってくださいよ、草野主任がファンシー好きでも大歓迎ですよ。今度持ってきますね。どっちが良いですか?あ、ハチ割れが良いならお譲りしましょうか?」


「い、いや。大丈夫だ。ああ、でもやっぱり一つもらおうかな。アリクイをお願いしよう。」

「分かりました。アリクイですね。あれも像みたいで可愛いですよ。」

「ああ、ありがとう。楽しみにしているよ。」

「はい。あ、草野主任のアイコンは…あ、初期設定の人型ですね。」

「ああ。あまりそういうものに関心がなくて。でも私もアリクイに変えてみようかな。」

「あははは。是非そうしてください。草野主任なら意外性があって可愛いですよ。俺とお揃いにしましょうよ。」


「あ、ああ…。」


草野主任が押し黙ってしまった。斜め下を向いて視線が合わなくなってしまった。あ、怒ってる?

ああ、またこのパターン。俺は何回この人の地雷を踏んだら気が済むんだよ。だから馴れ馴れしくするなってあれほど反省したのに…。自分の学習能力の低さに悲しくなってくる。


「す、す、すみません。お揃いとか…馴れ馴れしかったです。立場をわきまえます。じゃ、じゃあ僕はこれで失礼します!」これ以上俺の顔を見たら不快感マックスにさせてしまうだろうからダッシュで会議室を出た。





会議室に残された草野主任は…。
「何だよお揃いって…。困ったな、不意打ちが多すぎるんだよ…。」

と言いながらハチ割れ猫のアイコンを見てため息をついていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

処理中です...