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戦いの後 4
しおりを挟むラジオの執事が剣を振り下ろした時、ケントは白と緑の発光した結界に守られ、執事の手と剣は植物のツルに覆われていた。
「ったく、お前すげー力だな。本気で殺そうとしたな。もう止めろ。無駄な殺生をするな。」ダンが止めに入った。
「ダンさん。やっぱり止めてくれた。」リリアが微笑む。
ロイや国王も穏やかな表情で見ている。
ダンの人間性を知っているバスク地区の仲間たちはこの展開を多少読めていたようだ。
国王もロイからの報告で皆の人間性を知っていた。だから成り行きに任せていた。
ケントとリリアの父親だけが息子の最期を本気で覚悟していた。
守られているケントの光景を見て力が抜けている。
「こ、この魔力は精霊の主の…。マリアと同じ…。」
「誰の魔力とかよく分かんねーけど、この坊ちゃんを今殺しちゃいけねえ。確かに色々間違った奴だがずっと迷ってたんだ。やり直す機会を一回くらい渡してやっても良いだろ?人間みんな色々間違えるもんだろ?なあ国王様よ。」
「ははは。その通りだ。流石精霊が選んだだけの事はある。言葉の重みが違うな。ああ、国王である私も間違いを犯し愛する妻や息子を傷つけ失った。私は処刑を命じていない。そして、精霊付きである彼がこの様にアルバ家長男を助けた。命は保障されるべきなのだろう。皆、異論はないか?」
「ありません。」リリアがためらいなく発言する。
皆頷く。
ケントの父親は泣いて「ありがとうございます…。」と頭を下げた。
「さあ!裁判はこれにて終了だ!これから忙しくなるぞ!精霊付きの人間がいるこの地区は国王の命により特別保護地区とする!この地を収めるのはビッツ家長男ラジオだ!諸領地及び貴族に通達を送るのだ!」
側近が命を受け護衛以外の文官などを呼び寄せる。
待機していたようですぐに格国家職員が現れた。
その中に顔がそっくりな職員が3人いる。
リタさんの息子たちだった。
「国王の気が変わらないよう早くやっておくれよ国家職員の皆さん!」リタさんが腕組みをしながら嬉しそうに声をかけた。
3人は返事はしないも口の端は上がっていた。
今回の裁判、いや戦いの後の日々に関しては、
ラジオは保護地区の手続きや当主として新たに称号を得るための手続き、式典など目が回る忙しさだった。
もちろん側で執事が的確にサポートしていた。
この通達を受けて色々な分野や組織から薬草の依頼が尋常でない量届く。
「この代表者は薄情もので有名なんだ。信用できない輩は契約しないよ。」とそれぞれマーガレットが裏の情報と照らし合わせて処理する。そのサポートはリタさんと妹のジャスミンが嬉しそうに行う。
特別保護地区になったバスク地区に教会はあえて立てなかった。
子供を教育したり貧しい家庭を支援する機関を充実させセリさんが代表を務めている。そのサポートに夫のジルが子育てと仕事を両立させて介入している。
教会の有無については大司教も司教の失態など今回の裁判で色々思うことがあったようで異論はなかった。
ダンと世話係は精霊と一緒に薬草や祝福の花の栽培に精を出す。
「ダン様!わ、我は忘れっぽいので記録玉を作成して皆に方法を伝授するのはい、いかがでしょうか?」世話係はダンについて薬草の栽培を教えてもらっている。
ダンがいない時薬草の管理を取り仕切るのは世話係だ。
「馬鹿野郎!お前のその能力をそんな所に使うな。体で覚えろ。誰も焦らせていない。着実に覚えれば良いんだ。」
「あ、ありがとうございます。うう。我は幸せ者です。」
「いちいち泣くな!チビこいつどうにかしろよ!」
精霊はそっぽを向いている。
そんなダンと精霊だがバスク地区を不在にする時がある。
それは二人が深緑の谷に行く時だ。
ダンは精霊との約束を守っている。
精霊はダンが一緒に来てくれることを非常に喜び、仲間の精霊にダンの事を自慢する機会にしている。
また、深緑の谷に行くには目的があった。
ケントは今回の事で一度アルバ家を廃嫡とし、今は母方祖父のイアン家に身を寄せている。
ケント、リリア、父親の3人で会えるような状態ではないが個人個人で交流を図っている。父親はもう家族を孤立させない様出来る限りの事をしたいと思っている。
ケント自身も父親と会える様な精神状態には戻っていないので手紙でやりとりし、ダンと定期的に面会してもらいケントとの中継ぎをしてもらっている。
イアン家に来た当初は抜け殻の様だったが、祖父と一緒に自然と精霊の力の中で生活を続けることで、少しずつ正気を取り戻している所だ。
ダンが訪問するとケントは父親やリリアの近況を教えてもらう。
じっとダンから近況を聞いているが、その後ケントの中に後悔や懺悔の感情が襲ってくる。それをダンが静かに寄り添っている。
「そうやって後悔することが、今お前のやる事なんだ。辛いだろうがお前を支えてくれる肉親がいる、待ってくれている肉親がいることはちゃんと覚えておけ。」とダンなりに導いている。
まだケントの心が癒えるには時間がかかりそうだ。
リリアも父も本当はケントに直接会って話がしたいが、ケントの心が負担で壊れないよう今はダンに任せている。ケントもそれを望んでいる。
皆がそれぞれのペースでそれぞれの道を歩んでいる。
さて、リリアとロイは
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