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お父様との時間 2

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「お父様お待たせしました。本日はどんなことをして過ごしましょうか?」

頑張って天真爛漫さを演じる。中身は定年間近の女性というのに。

まあ、このリリアになって初めは違和感があったけど、
セリ先生やリタさんと関わったおかげで
(お二人は16歳の女の子として接してくれたから)少しずつ肉体と精神年齢のギャップが少なくなってきたいる気がする。

…本当に少しずつだけど。

「おお、リリア。お前も早いな。今日のドレスも今のお前にとても似合っているよ。」

「まあ、ありがとうございます。

以前勤めていたメイドの方に買ってきていただきました。
私も無駄がないデザインで気に入っております。お褒めいただいて嬉しいですわ。」


「あ、ああ。リリア、その、昨日から思っていたのだが、

ちょっとお前の口調は堅苦しいというか丁寧すぎるような気がするのだが。

何だか上司と部下のようだ。いや、そもそも話す時間がなさ過ぎたのは私のせいだが。
もう少し砕けて話してはくれないか。」


「あ、あら?そうでしたか?で、ではもう少し砕けた感じにします。

えっと、お父様今日は一緒にどう過ごすのかしら?」

「ああ、少しずつ慣れてくれ。そのことより、まず私はお前に謝らなくてはならない。

お前の母親が亡くなり、己の未熟さからその現実に仕事を言い訳に逃げてしまった。

まだ幼かったお前と十分向き合わずお前からも逃げていた。

時々会うお前はその、どんどん荒れていた。その時介入するべきだったのにまた私は逃げた。

明日お前がここから出ていくのも私のせいだ。本当にすまない。どう償えば良いだろうか?」


「…。お父様。私お父様との記憶もお母様の記憶もほぼありません。

父親が担う役割も私には分かりません。
衣食住に悩まず生活させて頂いた恩は十分にあります。

寂しかったけど恨みはありません。ここでお父様を許すとか許さないとか判断できません。」

「そ、そうか。もっと泣いて罵倒された方が私はありがたいのだが。
反省する機会をもらえないだろうか?」

「反省ですか…。そうお思いになるのならこれから私のお願いを聞いていただけないでしょうか?」

「ああ、何でも言ってくれ。」

「私をここまで伸ばしてくれた家庭教師のセリ先生とメイドのリタさん。

今は事情があり所在が分かりません。

このお二人はもし私に何かがあっても必ずお父様が守っていただきたいのです。」


「二人を雇った話は聞いている。デリスと何かがあったらしいな。

お前に何かがあるとはどういうことだ?」


「今は言えません。バスク地区で落ち着いたらお話しします。
この約束を守っていただけますか?」

それ以上話を掘り下げるなという圧力を目で訴える。


「あ、ああ。分かった。必ず約束は守る。
リリア、お前をあそこに行かせる原因を作った私が言える話ではないが

どうか無事でいてくれ。」

「ええ。もちろんです。」にっこりと笑う。

「後は、私からの直接な金銭的援助と手紙だったな。

それは大船に乗ったつもりで居てくれ。どんな事でもお前の力になる。」

「ありがとうございます。」

お兄様のことをお父様に告げ口すると思っているのだろう。

お兄様の手下のもの達が隠れて聞き耳を立てているのがよく分かる。


ここで告げ口をすると今までの準備が台無しになる。バスク地区で自分のできる事をしたい。

貴族というややこしい組織の中では出来ないことを16歳の肉体で取り組みたい。

危険は承知だ。セリ先生のパートナーのこともある。

手紙が確保できればいつでもお兄様のことを報告できる。

今は言わないと決めていた。

「ああ、手紙の事だが、お互いの封蝋印を作った。特殊な魔法をかけて作っている。

複製は絶対できない。私のものとお前のものだ。手紙を解くときお互いの印鑑を押し当てればとける。

無理やり開けたり処分しようとするとその者の顔に罰の印が浮かび出るものだ。昨日大急ぎで作らせた。」

「ありがとうございます。すごく心強いですわ。」

「しかし、リリア、やはりお前16歳の受け答えではないような感じだが、
その家庭教師に何か魔法でもかけられたか?」

「え!?そんな事ないわ!もう、お父様ったら。
魔法で痩せて知識が増えればダイエットも学校もいらなくなっちゃうじゃない!」


「ああ、そうだな。ははは。お前とこうして過ごすのが本当に私の宝のような時間だ。」

「…。」父親って子供にこんな優しい顔をするのね。当事者になって初めて知った。

「おお、そうだ。これは気に入ってもらえるかわからないのだが。」お父様が服から何かを出す。

「お金は修道院に送っているしこれからも援助する。
バスク地区では手に入らないものを考えたんだが…。」手に握られていたのは小さな紙に包まれた箱だ。

「お父様、この箱の中身は何?」

「これは、貴重な植物の種だ。一部の地域でしか咲かないんだ。
魔法では育たない。手間をかけて育てれば自ら種を作り出し増えていく。

この植物を加工すれば万能薬のようなものが作り出される。

という私も実際の薬は今までほとんど見たことがない。」

「万能薬?」

「そう言われている。

まあ、魔法で負った傷などは治療魔法で対処することが多いから今は使われていない。

栽培が難しくて面倒だからほとんど出回らないんだ。

お前の母親の故郷で一部栽培されているそうだ。
妻マリアの故郷はバスク地区とも近い。私は行ったことがない、いや行くことが出来なかった。

お前なら行けるかもしれない。落ち着いたら行ってみるといい。」


「お母さんか。」皐月のお母さんを思い出していた。


「この種をどうするかは好きにしてくれ。
年頃の娘に植物の種などロマンチックのかけらもないな。」

お父様は苦笑いする。

「ううん。すごく素敵。ありがとうお父様。」大切に箱を両手で包んだ。

「何度も言うが無理をするな。お前は魔力もない。
魔力があればケントのように幼い頃から使いこなせているんだ。

私も妻マリアも強い魔力持ちだったが、お前には伝承されなかった。

器もないとなると私の魔力を渡せない。ケントばかりに魔力が偏ってしまったのかもしれない。

本当にすまない。」

「お父様のせいではないわ。私、魔力って便利だけど、なくても悲観はしていないの。

私は私だから。

健康なこの身体があるだけで感謝なの。ふふふ。

私きっと足が速いのよ。どんな山でも自分の足で登り切る自信があるわ。

これからが楽しみで仕方がないの。」

「そうか。そうか。」お父様は泣いていた。

その後すぐお父様に緊急の仕事の用が入ってしまった。

私に気兼ねせず仕事に行ってほしいと頼むと

「明日の見送りは必ずいくからな。」と後ろ髪を引かれながら仕事に戻った。





「種か。いい土があれば試してみよう。」

リリアも部屋に戻った。




部屋で修道院についてすぐ行動すべきことをまとめていた。

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