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第39話 柵越しの決意
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迷子捜索から三日後、ヒカリは朝起きると体を自由に動かせるようになっていたので、支度を済ませて修行場所の河原に向かった。
河原に着くと、それまで毎日見ていた景色が数日見なかっただけで、やけに新鮮に見えた。目を閉じて何も考えずに深呼吸をしてみる。すると、澄んだ空気が体中に染み渡るのがわかった。そして、軽くストレッチをした後、ヒカリは最後の修行で持ち上げなければならない大きな岩に、ゆっくりと近づく。大きな岩に近づくと右手で優しくなで始める。
「私はヒカリって言うの、よろしくね」
ヒカリはつぶやいた。すると、大きな岩が『礼儀正しい子だな、お前は魔女か?』と聞いてきた。
「まだ見習いだけどね」
ヒカリは笑みを浮かべながらつぶやく。すると、エドが現れて駆け寄ってきた。
「ヒカリ! もう動いても大丈夫なのか?」
エドは焦った様子で心配そうな表情を浮かべながら言った。
「うん! この通り大丈夫!」
ヒカリは元気よく言った。
「それなら、よかった。急に部屋からいなくなったから心配したぞー」
エドは安心したようだ。
「ごめん、ごめん!」
ヒカリは笑顔で謝った。
「まぁ、元気になってよかった!」
エドは少し笑みを浮かべながら言う。
「うん! いろいろとありがとうね!」
ヒカリは笑顔で元気よく言う。すると、突然エドは何かを思い出したような表情をした後、浮かない顔をして下を向いた。
「でさ、魔女試験のことなんだけどさ……。…………。あり得ないくらい、急に知らせがきて。……一週間後に開催されることになった」
エドは下を向いたままそう言った。ヒカリは驚いた後、顔を下に向けた。
「…………そっか。……ふふ! 待ってました!」
ヒカリは顔を上げながら笑顔で元気よく言う。
「ヒカリ……」
エドは驚いた表情でヒカリを見ていた。
「じゃあ……」
ヒカリはそう言うと、大きな岩から五歩離れたところに移動して、エドを見つめる。
「ちゃんと、最後の魔女修行を終わらせないとね」
ヒカリはエドを見つめたまま笑顔で言った。
「まさか」
エドは驚いた様子で言う。すると、ヒカリは魔法を発動させて、大きな岩をゆっくりと持ち上げた。大きな岩は金色の光に包まれていた。
「よし! これで終わりだね! エド!」
ヒカリは満面の笑みでそう言った。エドは驚いて言葉が出ないようだ。
「……まじかよ。それにお前、瞳がなんだか金色に光ってるし」
エドは目を大きく開いて言った。そして、ヒカリはゆっくりと大きな岩を下ろした。
「え? 瞳も金色に光ってるの?」
ヒカリは驚いて問いかけた。
「そうだ! ヒカリが魔法を使い始めたら瞳も岩と同じ金色に光り始めたんだよ!」
エドは興奮しながら言う。
「そうなんだ!」
ヒカリは魔法を使った時の金色の光が少し気になっていたが、自分の瞳まで金色に光っているとは知らず驚いた。すると、エドは落ち着いたような表情を見せた後、急に片手で顔を隠しながら、フラフラと後ろ向きに歩き出した。
「……ははは! すげーなヒカリは! いつの間にこんな上達したんだよ?」
エドはそう言いながら近くの岩に座る。
「これで、魔女修行は終わりだ」
エドは下を向いたまま少し弱々しく言った。
「エド?」
ヒカリはエドの様子が心配になり駆け寄る。すると、エドは両手で顔を隠しながら涙を流していた。
「……よかった。……ヒカリがここまで魔法を使えるようになれて」
エドは涙を流して震えながらそう言った。ヒカリは岩に座っているエドを抱きしめた。
「エドのおかげに決まってるじゃん。……ずっと見守ってくれてたし、支えてくれたからここまでできるようになったんだよ。……だから、本当にありがとう。エド」
ヒカリは力強く抱きしめながら言った。
「……うぅ。……本当によかった」
エドは弱々しく言った。ヒカリはこんなにも涙を流すエドを初めて見た。エドにとっては、初めての魔法指導員だったので、きっと毎日手探りで頑張ってきたのだろう。だからこそ、すごく不安を抱えていたのも当然だと思う。こうやって、安心したエドを見ることができ、ヒカリは頑張ってきてよかったと心の底から思った。
こうして、ヒカリは最後の魔女修行を終えた。
最後の魔女試験前夜、寮の食堂でヒカリのために壮行会が開かれた。テーブルに並べられたおいしそうな料理、そして、たくさんのお酒やジュースが楽しみを倍増させる。
「それでは、ヒカリの魔女修行合格を祈念して、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
マリーの合図で壮行会が始まった。
「ヒカリちゃん! 試験頑張ってね!」
シホがお酒の入ったグラスを持ちながらヒカリに話しかける。
「はい! 頑張ります!」
ヒカリは元気よく言った。
「これ! 私が握ったおにぎり! ほら唐揚げもあるから!」
シホは少し興奮しながら言った。
「えっ! 手作りなんですか?」
ヒカリは料理が手作りだと知り驚いた。
「そうだよ! 実は今までも壮行会とかは、社員全員が手作りで準備してたんだって! 私も最近まで知らなかったんだけどね! みんな魔法使いなのに、魔法を使わない、人間臭いことを好んでて。それは、やっぱり魔法を使える分、手作りの良さがわかっているからなんだと思う。……だから、私が握ったおにぎりもちゃんと食べてね!」
シホは笑顔でそう言った。
「そうだったんですね! それじゃ、おにぎりいただきます!」
ヒカリはシホが握ったというおにぎりを手に取り、かぶりついた。すると、シホは嬉しそうに去っていった。
「あら? あんまり緊張してないみたいね?」
マリーはヒカリに声をかけた。
「マリーさん。……いや、緊張はします。呪いの魔女が、どんな恐ろしい試験をするのかわかりませんし、もしそれで落ちてしまったらと考えると、やっぱり緊張してしまいます」
ヒカリは手に持ったオレンジジュースを見ながら話した。
「そっか」
マリーは優しそうな口調で言う。
「でも、マリーさん……。たとえ相手が呪いの魔女だって、絶対に諦めない自信だけはあります!」
ヒカリは笑顔を浮かべながらマリーの顔を見た。
「ヒカリ……」
マリーは驚いているようだった。すると、マリーは笑顔になり、ヒカリの頭を少し強めになで始めた。
「ふふ! 当たり前よ! あんたもROSEの一員なんだから!」
マリーは元気よく言った後、ヒカリの薔薇を模した髪留めを見る。
「……あなたにこの髪留めをあげてよかった」
マリーは落ち着いた口調でそう言った。
「でも、本当はマリーさんの大切なものなんですよね」
ヒカリは少しだけ申し訳なさそうに言う。
「どうせ、ハナ婆から聞いたんでしょ? あの人はおしゃべりだから。……たしかに、これは私の亡き夫からもらった大切なもの。……でも、そのおかげであなたがここに来てくれた。だから、これでよかったの」
マリーは少し遠くを見るような目をして話した後、笑顔でヒカリを見つめた。
「……マリーさん」
ヒカリはマリーの思いが嬉しすぎて感動してしまった。
「じゃ、今日はしっかり食べて明日に挑みなさい!」
マリーは笑顔で元気よく言った。
「はい!」
ヒカリも元気よく返事をした。すると、急にマリーは料理を指差した。
「ちなみに! これは私が作った玉子焼きだから!」
マリーは玉子焼きを指差しながら言う。
「ふふ。いただきます!」
ヒカリは笑顔で言った。その後、壮行会は二十一時頃まで盛大に行われた。
壮行会が終わり、ヒカリは寮のベランダで夜の海を眺めていた。すると、隣の部屋のエドがベランダに出てきた。
「ほら」
エドはそう言いながら、二つに割れるタイプのアイスの半分を渡した。
「ありがとう」
ヒカリはアイスを受け取った。ヒカリとエドは並んでアイスを一口食べる。ヒカリはアイスを食べながら夜の海を眺めていたが、エドの視線に気づきエドの方を向いた。すると、エドは少し心配そうな表情を見せた後、すぐに視線をそらした。
「どうだ? 気分は?」
エドは視線をそらしたまま問いかける。
「……あんまり、良くはないかな」
ヒカリは少し下を向きながら言った。
「そっか」
エドはそう言うと何も言わなかった。それから、しばらく沈黙が続いた。ヒカリはその沈黙の中、エドがベランダに来るまでに考えていたことを思い出し、心の中が落ち着かなくなってきた。そして、ヒカリは口を開く。
「エドがベランダに来るまでさ、ずっといろんなことを振り返ってたんだ。……両親を失ったこと、友達がなかなかできなかったこと、ばあちゃんが死んじゃったこと。……なんとなく悲しい思い出ばかりだなって。……でも、ROSEに来てからは楽しいことがいっぱいあった。皆でご飯食べたり、農業したり、薔薇の手入れしたり」
ヒカリは過去を振り返りながら話す。話し終えるとヒカリは、夜空を見上げて涙を流し始めた。
「…………めちゃくちゃ楽しかったなー」
ヒカリは夜空を見て泣きながら言う。
「ヒカリ……」
エドは小さな声で言った。
「でも、もし魔女試験に不合格だったら、もうこの生活も終わりなんだよね。…………う。……っぐ。……嫌。……そんなの嫌よ! ……絶対に嫌! これからもずっと、ROSEの皆と一緒に生きていきたいから……。そりゃ、涙だって出るよ……」
ヒカリは両手で溢れ出る涙を拭いながら言う。すると、エドがベランダの境界の柵越しにヒカリを抱きしめた。
「ヒカリなら、絶対に大丈夫だ! 絶対に!」
エドは力強く抱きしめながら言う。
「……うっ。……私っ。……今度は絶対に諦めない。……絶対に合格するよお」
ヒカリは涙が止まらなかった。
「あぁ、皆で待ってる」
エドは抱きしめながら優しい口調で言った。ヒカリにとって二度目であり最後の魔女試験。その結果次第でこれからの人生も変わる。どうしても魔女試験に合格したい、ROSEの皆と一緒にいたい。その気持ちが高まると、不安な気持ちがどんどん溢れ出してくる。でも、エドが抱きしめてくれることで、そんな不安な気持ちもだんだん和らいでいった。
きっと、誰だって一人では辛い時がある。昔の自分なら辛い気持ちを押し殺して、できるだけ余計なことをやらないで生きてきた。その分、何も挑戦してこなかったし、熱くなることもなかった。ただ、こうやって本気で乗り越えたいものを目の前にして不安になった時、支えてくれる人達がいるというのは、すごく幸せなことだと素直に思った。そうやって、人は支え合いながら生きていくものなのだろう。
そして、ヒカリはエドのおかげで、胸の中にあった魔女試験に対する不安な気持ちを、自分の力で抑えられるほどの状態になることができた。それから、最後の魔女試験を万全の状態で挑むために、早めに布団に入った。
河原に着くと、それまで毎日見ていた景色が数日見なかっただけで、やけに新鮮に見えた。目を閉じて何も考えずに深呼吸をしてみる。すると、澄んだ空気が体中に染み渡るのがわかった。そして、軽くストレッチをした後、ヒカリは最後の修行で持ち上げなければならない大きな岩に、ゆっくりと近づく。大きな岩に近づくと右手で優しくなで始める。
「私はヒカリって言うの、よろしくね」
ヒカリはつぶやいた。すると、大きな岩が『礼儀正しい子だな、お前は魔女か?』と聞いてきた。
「まだ見習いだけどね」
ヒカリは笑みを浮かべながらつぶやく。すると、エドが現れて駆け寄ってきた。
「ヒカリ! もう動いても大丈夫なのか?」
エドは焦った様子で心配そうな表情を浮かべながら言った。
「うん! この通り大丈夫!」
ヒカリは元気よく言った。
「それなら、よかった。急に部屋からいなくなったから心配したぞー」
エドは安心したようだ。
「ごめん、ごめん!」
ヒカリは笑顔で謝った。
「まぁ、元気になってよかった!」
エドは少し笑みを浮かべながら言う。
「うん! いろいろとありがとうね!」
ヒカリは笑顔で元気よく言う。すると、突然エドは何かを思い出したような表情をした後、浮かない顔をして下を向いた。
「でさ、魔女試験のことなんだけどさ……。…………。あり得ないくらい、急に知らせがきて。……一週間後に開催されることになった」
エドは下を向いたままそう言った。ヒカリは驚いた後、顔を下に向けた。
「…………そっか。……ふふ! 待ってました!」
ヒカリは顔を上げながら笑顔で元気よく言う。
「ヒカリ……」
エドは驚いた表情でヒカリを見ていた。
「じゃあ……」
ヒカリはそう言うと、大きな岩から五歩離れたところに移動して、エドを見つめる。
「ちゃんと、最後の魔女修行を終わらせないとね」
ヒカリはエドを見つめたまま笑顔で言った。
「まさか」
エドは驚いた様子で言う。すると、ヒカリは魔法を発動させて、大きな岩をゆっくりと持ち上げた。大きな岩は金色の光に包まれていた。
「よし! これで終わりだね! エド!」
ヒカリは満面の笑みでそう言った。エドは驚いて言葉が出ないようだ。
「……まじかよ。それにお前、瞳がなんだか金色に光ってるし」
エドは目を大きく開いて言った。そして、ヒカリはゆっくりと大きな岩を下ろした。
「え? 瞳も金色に光ってるの?」
ヒカリは驚いて問いかけた。
「そうだ! ヒカリが魔法を使い始めたら瞳も岩と同じ金色に光り始めたんだよ!」
エドは興奮しながら言う。
「そうなんだ!」
ヒカリは魔法を使った時の金色の光が少し気になっていたが、自分の瞳まで金色に光っているとは知らず驚いた。すると、エドは落ち着いたような表情を見せた後、急に片手で顔を隠しながら、フラフラと後ろ向きに歩き出した。
「……ははは! すげーなヒカリは! いつの間にこんな上達したんだよ?」
エドはそう言いながら近くの岩に座る。
「これで、魔女修行は終わりだ」
エドは下を向いたまま少し弱々しく言った。
「エド?」
ヒカリはエドの様子が心配になり駆け寄る。すると、エドは両手で顔を隠しながら涙を流していた。
「……よかった。……ヒカリがここまで魔法を使えるようになれて」
エドは涙を流して震えながらそう言った。ヒカリは岩に座っているエドを抱きしめた。
「エドのおかげに決まってるじゃん。……ずっと見守ってくれてたし、支えてくれたからここまでできるようになったんだよ。……だから、本当にありがとう。エド」
ヒカリは力強く抱きしめながら言った。
「……うぅ。……本当によかった」
エドは弱々しく言った。ヒカリはこんなにも涙を流すエドを初めて見た。エドにとっては、初めての魔法指導員だったので、きっと毎日手探りで頑張ってきたのだろう。だからこそ、すごく不安を抱えていたのも当然だと思う。こうやって、安心したエドを見ることができ、ヒカリは頑張ってきてよかったと心の底から思った。
こうして、ヒカリは最後の魔女修行を終えた。
最後の魔女試験前夜、寮の食堂でヒカリのために壮行会が開かれた。テーブルに並べられたおいしそうな料理、そして、たくさんのお酒やジュースが楽しみを倍増させる。
「それでは、ヒカリの魔女修行合格を祈念して、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
マリーの合図で壮行会が始まった。
「ヒカリちゃん! 試験頑張ってね!」
シホがお酒の入ったグラスを持ちながらヒカリに話しかける。
「はい! 頑張ります!」
ヒカリは元気よく言った。
「これ! 私が握ったおにぎり! ほら唐揚げもあるから!」
シホは少し興奮しながら言った。
「えっ! 手作りなんですか?」
ヒカリは料理が手作りだと知り驚いた。
「そうだよ! 実は今までも壮行会とかは、社員全員が手作りで準備してたんだって! 私も最近まで知らなかったんだけどね! みんな魔法使いなのに、魔法を使わない、人間臭いことを好んでて。それは、やっぱり魔法を使える分、手作りの良さがわかっているからなんだと思う。……だから、私が握ったおにぎりもちゃんと食べてね!」
シホは笑顔でそう言った。
「そうだったんですね! それじゃ、おにぎりいただきます!」
ヒカリはシホが握ったというおにぎりを手に取り、かぶりついた。すると、シホは嬉しそうに去っていった。
「あら? あんまり緊張してないみたいね?」
マリーはヒカリに声をかけた。
「マリーさん。……いや、緊張はします。呪いの魔女が、どんな恐ろしい試験をするのかわかりませんし、もしそれで落ちてしまったらと考えると、やっぱり緊張してしまいます」
ヒカリは手に持ったオレンジジュースを見ながら話した。
「そっか」
マリーは優しそうな口調で言う。
「でも、マリーさん……。たとえ相手が呪いの魔女だって、絶対に諦めない自信だけはあります!」
ヒカリは笑顔を浮かべながらマリーの顔を見た。
「ヒカリ……」
マリーは驚いているようだった。すると、マリーは笑顔になり、ヒカリの頭を少し強めになで始めた。
「ふふ! 当たり前よ! あんたもROSEの一員なんだから!」
マリーは元気よく言った後、ヒカリの薔薇を模した髪留めを見る。
「……あなたにこの髪留めをあげてよかった」
マリーは落ち着いた口調でそう言った。
「でも、本当はマリーさんの大切なものなんですよね」
ヒカリは少しだけ申し訳なさそうに言う。
「どうせ、ハナ婆から聞いたんでしょ? あの人はおしゃべりだから。……たしかに、これは私の亡き夫からもらった大切なもの。……でも、そのおかげであなたがここに来てくれた。だから、これでよかったの」
マリーは少し遠くを見るような目をして話した後、笑顔でヒカリを見つめた。
「……マリーさん」
ヒカリはマリーの思いが嬉しすぎて感動してしまった。
「じゃ、今日はしっかり食べて明日に挑みなさい!」
マリーは笑顔で元気よく言った。
「はい!」
ヒカリも元気よく返事をした。すると、急にマリーは料理を指差した。
「ちなみに! これは私が作った玉子焼きだから!」
マリーは玉子焼きを指差しながら言う。
「ふふ。いただきます!」
ヒカリは笑顔で言った。その後、壮行会は二十一時頃まで盛大に行われた。
壮行会が終わり、ヒカリは寮のベランダで夜の海を眺めていた。すると、隣の部屋のエドがベランダに出てきた。
「ほら」
エドはそう言いながら、二つに割れるタイプのアイスの半分を渡した。
「ありがとう」
ヒカリはアイスを受け取った。ヒカリとエドは並んでアイスを一口食べる。ヒカリはアイスを食べながら夜の海を眺めていたが、エドの視線に気づきエドの方を向いた。すると、エドは少し心配そうな表情を見せた後、すぐに視線をそらした。
「どうだ? 気分は?」
エドは視線をそらしたまま問いかける。
「……あんまり、良くはないかな」
ヒカリは少し下を向きながら言った。
「そっか」
エドはそう言うと何も言わなかった。それから、しばらく沈黙が続いた。ヒカリはその沈黙の中、エドがベランダに来るまでに考えていたことを思い出し、心の中が落ち着かなくなってきた。そして、ヒカリは口を開く。
「エドがベランダに来るまでさ、ずっといろんなことを振り返ってたんだ。……両親を失ったこと、友達がなかなかできなかったこと、ばあちゃんが死んじゃったこと。……なんとなく悲しい思い出ばかりだなって。……でも、ROSEに来てからは楽しいことがいっぱいあった。皆でご飯食べたり、農業したり、薔薇の手入れしたり」
ヒカリは過去を振り返りながら話す。話し終えるとヒカリは、夜空を見上げて涙を流し始めた。
「…………めちゃくちゃ楽しかったなー」
ヒカリは夜空を見て泣きながら言う。
「ヒカリ……」
エドは小さな声で言った。
「でも、もし魔女試験に不合格だったら、もうこの生活も終わりなんだよね。…………う。……っぐ。……嫌。……そんなの嫌よ! ……絶対に嫌! これからもずっと、ROSEの皆と一緒に生きていきたいから……。そりゃ、涙だって出るよ……」
ヒカリは両手で溢れ出る涙を拭いながら言う。すると、エドがベランダの境界の柵越しにヒカリを抱きしめた。
「ヒカリなら、絶対に大丈夫だ! 絶対に!」
エドは力強く抱きしめながら言う。
「……うっ。……私っ。……今度は絶対に諦めない。……絶対に合格するよお」
ヒカリは涙が止まらなかった。
「あぁ、皆で待ってる」
エドは抱きしめながら優しい口調で言った。ヒカリにとって二度目であり最後の魔女試験。その結果次第でこれからの人生も変わる。どうしても魔女試験に合格したい、ROSEの皆と一緒にいたい。その気持ちが高まると、不安な気持ちがどんどん溢れ出してくる。でも、エドが抱きしめてくれることで、そんな不安な気持ちもだんだん和らいでいった。
きっと、誰だって一人では辛い時がある。昔の自分なら辛い気持ちを押し殺して、できるだけ余計なことをやらないで生きてきた。その分、何も挑戦してこなかったし、熱くなることもなかった。ただ、こうやって本気で乗り越えたいものを目の前にして不安になった時、支えてくれる人達がいるというのは、すごく幸せなことだと素直に思った。そうやって、人は支え合いながら生きていくものなのだろう。
そして、ヒカリはエドのおかげで、胸の中にあった魔女試験に対する不安な気持ちを、自分の力で抑えられるほどの状態になることができた。それから、最後の魔女試験を万全の状態で挑むために、早めに布団に入った。
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