かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた

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第26話 新たに始まる一年 ―後編―

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「エド!」

 ヒカリは驚いた。

「えっ! 本当だ!」

 その声が聞こえると、さらにケンタ・ライアン・リン・シホの四人も入店してきたので、ヒカリは驚いた。

「なんでエドたちがここに?」

 ヒカリは戸惑いながら言った。

「夕方になって、こいつらが飲みに行こうって、無理矢理誘ってきたからさ」

 エドはヒカリから視線をそらしながら言った。

「何言ってんだよ! ノリノリだったじゃねえか!」

 ケンタはエドにそう言った。

「はぁ? 俺は考え事してて疲れたから、気分転換にとついてきただけだ! ノリノリじゃねえ!」

 エドはケンタに強く言い放った。

「ヒカリこそ、なんでここに?」

 ケンタはヒカリに問いかけた。

「ここは、私の友達のお店なので、今日いろいろ考え事で疲れてた時に誘われたから……気分転換にと」

 ヒカリはケンタとエドから視線をそらしながら言う。ヒカリは気まずかった。たくさん考えないといけないから、魔女修行も無しにしてもらったのに、こうやって居酒屋でゆったりとご飯を食べようとしている姿を見られたら、さぼっているようにしか見えないからだ。なんとなく、エドも気まずそうにしているのは、おそらく同じような心境なのだろう。こういう時はなんて言えばいいのだろうかと考えても、うまい言葉がみつからない。沈黙が続いてしまった。

「エドもヒカリちゃんも、今日はいっぱい頑張ったんでしょ?」

 シホはヒカリとエドの間に入り、顔を覗き込みながらそう言った。

「まぁ」

 エドは小さい声でつぶやいた。

「はい」

 ヒカリも小さい声で返事をした。すると、シホは急にヒカリとエドの頭をなで始めた。

「二人ともよく頑張りましたー!」

 シホは頭をなでながらそう言った。

「ちょっ! 恥ずかしいだろっ!」

 エドは慌ててシホから頭をなでられないように一歩下がった。

「シホさん!」

 ヒカリも少し恥ずかしい気持ちになった。シホは頭をなでるのをやめた。

「私の方がお姉さんだからいいの! 頑張った二人にご褒美のヨシヨシー! ……ねっ!」

 シホは笑顔で元気よく言った。すると、ヒカリの中にあった気まずさは、いつの間にか無くなっていた。

「じゃ、楽しく飲もう!」

 シホは右手を上に突き上げて元気よく言った。ヒカリとエドは目を合わせた後、笑顔になる。

「おう!」
「はい!」

 エドとヒカリは元気よく言った。すると、フミが現れてエドたちをヒカリと同じテーブルに案内した。ヒカリは急に騒がしくなった環境が面白くて笑ってしまう。エドたちは席に着くと、メニューを見始めた。

「えっ! シホさん、お酒飲むんですか?」

 ヒカリはシホがお酒のメニューを見ていたので、驚いて質問した。

「そう! 実は今日ね、私の二十歳の誕生日なんだよ!」

 シホは笑顔でそう言った。

「えー! そういうこと? ここに来たのもお祝いの為だったんですか! えっと……。お、おめでとうございます!」

 ヒカリは戸惑いながらもそう言った。

「ありがとう!」

 シホは笑顔で言う。そして、シホはお酒のメニューを再び見つめ始める。

「よし、決めた! 芋焼酎にしよう!」

 シホは元気よく言った。

「えっ! 芋焼酎? アルコール度数が高いけど大丈夫か?」

 リンはシホを心配している様子だ。

「やっぱり鹿児島県民なら、芋焼酎ですよ!」

 シホは笑顔でそう言った。しかし、リンはまだ心配しているようだった。



 注文が一通り終わり、しばらくすると全員分の飲み物が届いた。

「皆、グラスは行き渡ったか? それじゃ、シホの二十歳の誕生日を祝って、カンパーイ!」

 ケンタがそう言うと皆も続いて乾杯と言った。

「これで、酒飲めるな!」

 ライアンはウイスキーを片手にシホに話しかけた。

「はい!」

 シホは嬉しそうに答えた。

「あー、俺も酒飲みてぇなー」

 エドは炭酸ジュースを握りしめながらそう言った。

「お前は、来年までもう少しの辛抱だな!」

 リンはビールを一口飲んだ後、そう言った。

「エド、私と同い年だったんだ!」

 ヒカリはエドの年齢を知らなかったので、同い年だということを知り驚いた。

「そうだなー」

 エドはお酒が飲めないことを残念に思っているのだろう。少しだけ落ち込んだ表情だった。ヒカリはそんなエドに何か言葉をかけてあげたいと思った。

「エド! 来年一緒にお酒デビューしようね!」

 ヒカリはアップルジュースの入ったグラスをエドに近づけ、満面の笑みを浮かべながら言った。

「……おう! そうだな!」

 エドは笑顔になり元気そうに言うと、ヒカリのグラスにコツンと自分のグラスを当てた。

「はいはい! 鳥刺し六人前でーす!」

 フミが大きな声で鳥刺しを大量に持ってきた。

「まさか、フミちゃんがヒカリの友達だったとは、ビックリだよ!」

 ケンタはフミに話しかけた。

「私も皆さんがヒカリと同じ会社の人だったとは、驚きました。……おっちょこちょいなヒカリですが、自分が言ったことは必ず貫く強い子です。ご迷惑をお掛けしてしまうことも多いかと思いますが、温かい目で見ていただけるよう、どうぞ宜しくお願いします」

 フミはエド達全員に聞こえるように、軽く頭を下げて言った。ヒカリは自分のことを言われて恥ずかしい気持ちになったが、フミの真剣な表情と発言がとにかく嬉しくて、今回だけはツッコミを入れられなかった。



 しばらくの間、注文した食事と飲み物を堪能するひと時を過ごした。ヒカリにとっては懐かしい味であり、昔のことを思い出すようだった。すると、周りがなにやら騒がしくなってきたことに気づく。

「はははー! どんどん飲むわよー! うん! 鳥刺しがうまい!」

 シホは急に人が変わったかのように、すごく元気にはしゃぎだした。

「あぁー。俺の鳥刺しー……」

 エドはシホが食べた鳥刺しの皿を見ながらそう言った。おそらく、エドの鳥刺しをシホが食べてしまったのだろう。

「エド! なければ頼もー! お姉さーん! 鳥刺し全員分くださーい! それと、芋焼酎おかわりでー!」

 シホはエドの肩に手を添えて言った後、フミに向かって大声で元気よく注文した。

「いつもの落ち着いた雰囲気のシホは、いったいどこへ……」

 リンは戸惑った様子だった。

「シホは、酒が入ると陽気になるタイプなんだな!」

 ライアンは楽しそうな口調で言った。

「ははは! おもしれぇな! シホ、最高ー!」

 ケンタは笑いながらそう言った。

「はははは!」

 シホは楽しそうに笑っていた。

「シホさん、こんなにお酒飲むと変わるんだー! ふふ。でも、なんか楽しいな!」

 ヒカリはシホの豹変ぶりに驚いたが、場を盛り上げているシホに魅了されて、楽しくなっていった。

「あぁー。また俺の鳥刺しがー……」

 エドはまた鳥刺しをシホに取られたようだ。ヒカリにとっても、エドがシホにこんなにいじられている姿は、あまり見たことがなく新鮮だった。

「素敵な仲間ができてよかったね」

 ヒカリの耳元でフミがささやいた。

「うん! 大切な仲間だし、今の私の家族だよ!」

 ヒカリは笑顔でそう言った。すると、フミはすごく驚いた表情を見せた後、黙ったまま固まってしまう。

「……そっか。……よかった」

 フミはうっすら涙を流しながらそう言った。ヒカリは突然のフミの涙に驚いた。

「なんで? ど、どうした?」

 ヒカリは戸惑いながら問いかける。

「なんでもないわよ! ……次はオレンジジュースでいいよね!」

 フミはいつも通りプリプリと怒った後、ヒカリの空いたグラスを取り、そう言って厨房に戻っていった。ヒカリはなぜフミが涙を流したのかが不思議だった。フミの涙の理由はわからないが、他に一つだけ気がかりなことがあった。

「…………メロンソーダ」

 ヒカリはオレンジジュースではなく、メロンソーダが飲みたかったのだ。

 フミからオレンジジュースを受け取ったヒカリは、なんとなく考え始めた。一年前は、こんな仲間ができるとは思いもしなかった。ここにいる皆は、いろいろな思いを持ってROSEに入り働いている。自分もその中の一人なのだと、ヒカリはしみじみ思った。

「ちょっと! シホ!」

 リンの慌てた声が聞こえてきたので、ヒカリはリンの方を見る。すると、なんとシホがリンに抱きついていたのだった。

「りーーん……」

 シホは目を閉じながら言った。おそらく酔っぱらっているのだろう。

「ラブラブだな」

 ケンタ・ライアン・エドが口を揃えて言った。

「いや! 違う! そういうのじゃ…………寝ちゃったか」

 リンは必死に否定した後、シホを見てそう言った。

「……リンさん…………ありがとう」

 シホは起きているのか寝ぼけているのかはわからないが、小さな声でリンに感謝の気持ちを伝えていた。

「……ふう。……こちらこそ」

 リンはシホの肩に手を添え、優しい口調で静かにそう言った。ヒカリはその様子を見てしまい、少し申し訳ないような気もした。だけど、リンとシホの間にはすごく深い絆があるのだと素直に思った。



「エド。私、わかったよ」

 ヒカリはエドに話しかけた。

「ん?」

 エドは鶏の唐揚げを食べながら返事をした。

「……自分に足りなかったもの」

 ヒカリはエドにそう言った。

「おっ! そっかー! ……よかった!」

 エドは鶏の唐揚げを食べるのをやめ、嬉しそうな表情を浮かべながらそう言った。

「うん!」

 ヒカリは満面の笑みを浮かべながら言った。

 それから、ヒカリは今日わかったことを振り返り始めた。自分に足りなかったもの、それは、もちろん魔法の力や技術もそうだけど、決してそれだけじゃない。本当に自分に足りなかったものは、命を懸けてでも絶対に魔女になりたいと思う気持ちと、それを応援し支えてくれる大切な仲間を思う気持ちだ。

 この人生を懸けてでも絶対に魔女になる。応援して支えてくれる仲間がいるからこそ、尚更、絶対に魔女になってみせる。それがこれからの私。ヒカリは胸の中に強くこの思いを刻み、新しい一年をスタートさせた。
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