色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第三部

60 最終話

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 試験が終わったのは海月の騒動があってから二週間後だった。その次の週はテスト返却期間だったので殆ど授業らしい授業もなく、俺はようやっと地獄の勉強会から解放された。

「なぜこの部屋に貴様がいる」
「アルファリア様にご招待頂いたからに決まってるジャン! はぁ~! アルファリア様の芳しい香~~!」
「嗅ぐな嗅ぐな。そして俺は呼んだ覚えがないぞ」
「え~~!? 夢の中で『早く婿に来い』と仰ってましたよ!」
「あっはっは、イウディネ通訳してくれ」
「無理です」

 無事終業式を迎え、俺達は家に集まってだらだらとしていた。イウディネが俺の大好きなパティスリーのケーキを沢山出してくれる。春樹がチョコレートを、夏がフルーツタルトを口に運んでくれた。
 は~~! 幸せだ。先週が酷かっただけに幸福感が半端ないな。

「何で俺達はロマリュイこんなやつが好きだったんだ……」
「夏、死にたくなること言わないで。魔法にかかってなかったら絶対こんな変態好きになんかならなかったんだから……」
「会長達ドンマイ!」

 被害を受けていない秋名は一人元気だ。先週まで魔王もさもありなんといった風であったくせに、今はちゃんと男子高校生である。

「そういえば梅雨はあれから学校に来ていないようだがどうなったんだ?」
「あいつはボランティアだか慈善事業だかで海外まわることになったらしい。良いことしてりゃそのうち神様が悪魔から助けてくれると思ってんじゃねぇか?」

 梅雨は学校を暫く休んでいたが、そのまま休学したそうだ。
 今では海外のボランティア団体に所属し、恵まれない子供たちの学業、生活支援を行っているらしい。自己中心的な梅雨も悪魔に魂を取られるのは怖いようだ。

 まぁ、最終的にはどうやっても魂は俺の元にくる。それは神自身、欲に溺れた魂を救う術を持たないからだ。試練を与え、その試練を乗り越えた清らかな魂にのみ神は救済を与えることができる。

 というわけで、悪魔と契約して汚れた梅雨の魂を神が救うことなんて不可能だ。何をしたって無駄である。しかし俺は人を殺すのは嫌だし、梅雨と取引をしたので寿命が無くなるまでは待ってやるつもりだ。

「しかし契約を移してどうするかと思ったら、梅雨から理事長に頼ませてテストの発表自体を無くすってなんだよ。根本的な解決になってねぇじゃねぇか」

 そう、俺は契約者が俺になったのを良いことに梅雨に『お願い』をした。梅雨の寿命を待ってやる代わりに、期末試験の結果発表の張り出しを中止するよう理事長にお願いしてもらったのだ。

 生徒達はいつもの発表がなくなったことにざわざわとしていたが、文句を言う者は少なかった。順位自体は通信簿に記載されるので、不便はないのだ。ちなみに俺の順位はビリではないが後ろから数えた方が早かった。これでも大躍進と言える。

「あっはっは、俺の馬鹿がバレねばいいなら、これで十分だろう」
「補修受けるくせに何言ってんだ」
「聞こえん」

 赤点を取った生徒は強制的に週に3日の夏期講習に出なければならないらしい。夏休みも学校に行くのは良いが、勉強をするためなのは嫌だな。まわりに魅了をかけて乱交パーティーにスケジュールを変更してもらおう。

「そうだ。アルファリア様、御身の器ですが、ちょっと興味深いことがわかりまして」
「ほう?」

 ロマリュイは梅雨がいなくなっても変わらず学校にいる。
 新しい人間の身体は色々と改良されているらしく、俺は魅了をかけられなくてもちょっとムラムラするようになった。

 そのせいだろうか。イウディネはロマリュイがいると殺意で目が濁るようになった。今現在も海月の後ろで包丁を握りしめている。怖い。昼ドラどころが火曜サスペンス劇場だ。

「あ、有の器について何かわかったの?」
「結果が随分遅かったですが、ちゃんとやってたんですか?」
「ディネディネ、さすがの自分もアルファリア様のためだったら話は別だよ?」
「ディネディネと呼ぶな!!」

 叔父上からの依頼通り、俺達の身体をロマリュイに調べてもらった。勿論イウディネの厳しい監視の元でだ。春樹や夏、秋名達にも俺の現状を話しておいたせいか、皆心配そうにロマリュイの話に耳を傾けている。

「どうやらアルファリア様の器は隷属した4人に分け与えられているようなんですよねぇ」
「……そんなことがありえるのか?」

 悪魔の器を隷属した相手に分け与えるなんて聞いたことが無いが、現に俺の器は魔力が貯められなくなっているのだから、絶対とは言い切れない。イウディネも『まさか』と険しい顔をしていた。

「元々アルファリア様は王族でもかなり大きい器の持ち主だったのだと思いますよ。そうでなければこの4人が上位悪魔になるなど有りえませんからね」
「ふむ……」

 秋名達もロマリュイに調べてもらったが、驚いたことに元人間の三人は精力と魔力を持つ不思議な身体になっていた。具体的には精力から大量の魔力を作り出せる身体になっているらしいのだが、それは勿論淫魔ではなく、もっと上位の、いや、それどころか悪魔であるかも危うい存在になりつつある。

 見目の美しさは勿論、身体能力も人間の規格を超えつつある。夏はその関係でバスケ部を早々に引退してしまった。勿論バスケ部は全員夏を引き止め、終業式は『若頭のバスケ部引退絶対反対!』という横断幕が貼られていて面白かった。(夏は『早く外せ!』と文句を言っていたが)

「器を元に戻す方法については研究を進めてみますので、何かわかったらお知らせします」
「あぁ、ありがとうロマリュイ」
「いえいえ! それで、自分がアルファリア様の役に立った暁には……」
「わかっている」
「やった! ディネディネが何と言おうと隷属してくださいねぇ」
「絶対に許しませんからね!!」
「おっと」

 イウディネが包丁を振り下ろすが、ロマリュイは素早くその切っ先を避ける。ソファに包丁がブスリと刺さって黄色いスポンジみたいなものが飛び出てきた。俺の目の前で殺悪魔事件を起こさないで欲しい。心臓に悪すぎる……。

「そんなことより! もう夏休みだぞ!」

 厳密には明日からなのだが、終業式を終えた時点で俺の頭は夏休みでいっぱいだ。夏期講習もお盆期間という8月の半ばの数日間はおやすみになるらしいので、皆でどこか旅行に行くのも楽しいかもしれない。叔父上の悩み相談もしなければ! やることは山積みなのだ! 宿題なんて気にしないぞ!

「明日から休みなら、ちと無理をしてもかまわないだろう?」

 俺が制服のネクタイを引き抜くと、イウディネは俺を見る目を細める。秋名は生唾を飲み、春樹は嬉しそうに手を合わせ、夏は挑戦的に微笑む。

 ロマリュイはどこから持ってきたのかビデオカメラを片手に俺にオッケーと親指と人差し指をくっつけて見せた。最初こそ気に食わなかったが、こうなると意外と便利な奴だ。

「さぁ、今日も遊ぼうではないか」

 ギラギラと俺を見つめる瞳に向かって唇をいやらしく舐めて見せると、皆の手が性急に俺の身体から服を剥ぎ取っていく。

 ここに来てから何をしても楽しい。遊んでも遊んでも遊び足りなかった。
 けれど焦る必要はない。

 俺の学園生活はまだまだ始まったばかりなのだから。






End


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最後までお付き合い頂きありがとうございました。
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