色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

文字の大きさ
上 下
57 / 60
第三部

57 梅雨視点

しおりを挟む



 今頃、静海有は海月に犯されて頭がおかしくなっているだろう。
 どんな手練手管があろうとも、相手は悪魔だ。あの快楽からは誰も逃れられない。
 自分の父親だって言いなりになっている。おかげで金もマスターキーも自由に使えて最高だ。海月と引き合わせて正解だった。

 僕は白州先輩との待ち合わせ場所に向かう。今日はどこに行こう。先輩はお家がもうないから、沢山贅沢をさせてあげたい。可哀想な白州先輩に愛を与えるのは僕だけで良い。

 3年前もそうなるはずだったのに、急に海外に渡った海月のせいで台無しになったのだけが悔やまれる。折角白州先輩と付き合えることになったのに、海月が移動するたび監視として海外を転々としなければいけなかった。海月からは別に来なくて良いといわれたけれど、契約したとはいえ相手は悪魔だ。何をしでかすかわかったもんじゃないから一緒にいくしかない。行き先はうちの姉妹校や父の知り合いの会社や関連会社だった。ますます離れられない。家の名に泥を塗られたら白州先輩を囲い込む金がなくなってしまう。

「時間かかったけどこれで大丈夫でしょ」

 静海有はこれで駄目になる。海月のテクニックにかかれば、すぐに虜になるはずだ。名前を思い浮かべるだけでイライラする。あいつは最初から僕の欲しかったものを手にしていた。

 悪魔と契約して僕の外見は驚くほど綺麗になった。ごつごつして日焼けしやすかった手が女性のように白く、滑らかな美しいものに変わった。身体も筋肉がつきにくくなって、地味だった顔は華やかに変化した。今では歩けば誰もが振り返る美少年だ。

 それなのに、静海有と並べばみんなが静海有を見る。何もしていないくせに、最初から皆が羨む美貌もスタイルも持っている。何より白州先輩を僕から奪ったのが一番許せない。ずっと好きだった彼がやっと僕を好きになってくれたのに、横から奪ったのだ。馬鹿のくせに、身の程知らずだ。

「ふふ、早く廃人にしちゃえばいいのに」

 そうなったら白州先輩は静海有なんてすぐに忘れるだろう。ううん。忘れさせてみせる。僕は綺麗だし、金もある。白州先輩が僕の虜になったら、金髪もコンタクトもやめさせて、昔の白州先輩に戻してあげよう。誰にでも優しくて、人気者で、誰の手垢もついていなかった、可愛かったあの頃の白州先輩に。

「あ、かなちゃん」
「白州先輩! お待たせしました~!」
「ごめん。今日ちょっとまだいけないんだ」

 白州先輩が困ったなぁと頭をかいている。苦笑いじゃなくて本当に困っているようなので、僕は小首を傾げた。皆に可愛いと絶賛された上目遣いも忘れない。

「どうかしたんですか?」
「いやぁ……」

 白州先輩が言葉を濁したということは、僕の気に入らない何かがあったということだ。そしてそれは9割の可能性で静海有関係である。困っているなら取り巻きを使って手伝ってあげようと思ったけれど、そんな気持ちは霧散した。むっと顔を顰めて抗議する。

「また静海有? 白州先輩は僕のでしょ?」
「うーん……」

 白州先輩は唇を親指で触りながら何か思案している。折角僕と一緒なのにまだ静海有のことを考えているかと思うとどす黒い気持ちが胸を渦巻いた。海月にボロ雑巾みたいにされた後、どっかの小汚い男に売り払ってやろう。AVとかにも出演させて、人生滅茶苦茶にしてやらなきゃ気がすまない。

「……別にいいじゃん。あいつがどうなろうと」
「かなちゃん? ……何か知ってる?」

 白州先輩の言葉に僕は答えないでそっぽを向く。今頃美術準備室で海月とどん引くくらいのセックスしてるに決まっている。海月の前では人間なんて欲望むき出しの猿なのだ。うーん、いっそそれを見せるのもいいかもしれない。

「有はどこ?」
「教えて欲しい? じゃあキスして?」
「……」

 白州先輩は少し呆れているみたいだけど何だかんだキスしてくれる。白州先輩はキスが上手だ。セックスもそうだったのは少し嫌だったけど、何度も沢山僕を可愛がってくれるから許すことにした。

「……どこ?」
「えー足りな……」

 もう一回強請ろうと首に手をまわそうとした途端、意識が白く濁るような、飽和していくような不思議な感覚に陥る。例えるなら間違ってジュースではなくお酒を飲んだ時のようだ。酩酊感というのだっけ? 
 心地よくて、楽しくて、幸せ。眼の前にいる白州先輩が愛おしくて愛おしくてたまらない。

「しずみあるはびじゅつじゅんびしつにいるよ」
「あー……閉じ込めたのか。いじめっぽいいじめだ」

 唇から勝手に返事が溢れ、聞こえた言葉に白州先輩はうんうん頷いていた。

「あ、もしかしてこれ堕ちた? ……うっわー……長かった。じゃあ、えーと。動かないでね。……それで、君と海月冬夜の関係はどんなかな?」
「あくまとけいやくしゃ」

 僕と海月の関係を白州先輩が聞きたがっている。教えてあげなきゃと妙な使命感にかられて口が動いた。僕はどうやって出会ったか、僕等に何があったのか、沢山教えてあげた。白州先輩は何度も頷いて話を聞いてくれる。とても嬉しい。

「……つまり、かなちゃんは海月と中学校の頃に出会って契約を結んだのね。容姿が抜群に良くなったのはその効果で、教育実習生であいつが来たのもかなちゃんの差し金?」
「ぼくがみつきにたのんだんだ。いとこのなつよし、ちょうしにのってるからぼろぼろにしてって」
「そう……」

 僕が答えると、白州先輩は傷ついたような顔をした。どうして? 僕はちゃんと答えたはずなのに……。何か足りなかったのだろうか。そう思って僕が裏でしたいろんなことを教えてあげた。この前まで行っていた姉妹校では海月が手を出した生徒達の内3人ぐらい廃人になってしまって、揉み消すのがとても大変だったのだ。僕が一生懸命話すと白州先輩はますます悲しそうにした。これじゃ駄目だったのかな。

「白州くん、有くんいたかな?」
「秋名、って梅雨もいんのかよ」
「会長……に夏さん?」

 やって来たのは夏義と早良会長だった。僕はぼんやりと二人を眺める。

「あぁ、秋名。俺もこれだ……は? ねぇぞ」
「あれえっちなことしてないと出てこないよ」

 夏義はシャツとTシャツを胸まで捲くって、白州先輩に体を見せている。何かがなくなったらしく、上半身裸のまま少し慌てていて間抜けだった。白州先輩と話をして落ち着いたのか、僕を見て目を開く。

「おい梅雨、何突っ立って黙ってんだよ」
「あ、夏さん、かなちゃん俺に魅了されてるだけだよ。俺とセックスしまくるとこうなるんだ。夏さんも試す?」
「ぜってぇ嫌だ」

 会話が上手く聞き取れなかった。ぼんやりしていると、昨日白州先輩としたセックスがふわふわと思考を漂う。気持ちよかった。白州先輩はセックスがすごく情熱的で、僕は浅ましいほど何度もお強請りしてしまった。

「じゃあ、かなちゃん。折角だし皆にもさっきと同じお話してあげて?」
「うん。しらすせんぱいがよろこぶならなんでもはなすよ」

 僕は白州先輩にお願いされて話を始める。悪魔と出会った中学二年生、そこで何を契約したのか、夏義への嫌がらせも、静海有への復讐も。本当だったら夏義がいるからしてはいけないとわかるはずなのに、僕は言われるがまま白州先輩の願いを叶え続けた。
 
「梅雨てめぇ……」
「ひっ!」

 全てを話すと夏義は怒気を孕んだ目で俺を睨めつけた。僕は慌てて白州先輩の背中に張り付く。

「白州くん、契約した悪魔の名前を言わせてください」
「かなちゃん、悪魔の名前は?」
「ろまりゅい」

 ロマリュイ。そう彼は名乗っていた。本当の名前なのかはわからないし、今となっては海月冬夜の名前の方が馴染み深い。

「有は?」
「美術準備室だって。先生に開けてもらうように連絡しておいてもらっていい?」
「わかった」

 早良会長がスマートフォンを弄っている。ちらりと僕を見る目が蔑んでいるように見えて、嫌な気持ちになった。僕がむっとしていると、白州先輩が僕の頭を撫でる。幸せ、大好き、白州先輩のためなら何でもしよう。そんな気持ちが胸に溢れた。

「かなちゃん、沢山話してくれてありがとう。それじゃあ最後のデートしようか?」

 白州先輩は僕に向かって優しく笑う。でもそれはいつも見せてくれたちょっと困ったような笑顔じゃない。確かに顔は笑っているのに、その目は底冷えするような冷たい目をしていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...