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第三部
57 梅雨視点
しおりを挟む今頃、静海有は海月に犯されて頭がおかしくなっているだろう。
どんな手練手管があろうとも、相手は悪魔だ。あの快楽からは誰も逃れられない。
自分の父親だって言いなりになっている。おかげで金もマスターキーも自由に使えて最高だ。海月と引き合わせて正解だった。
僕は白州先輩との待ち合わせ場所に向かう。今日はどこに行こう。先輩はお家がもうないから、沢山贅沢をさせてあげたい。可哀想な白州先輩に愛を与えるのは僕だけで良い。
3年前もそうなるはずだったのに、急に海外に渡った海月のせいで台無しになったのだけが悔やまれる。折角白州先輩と付き合えることになったのに、海月が移動するたび監視として海外を転々としなければいけなかった。海月からは別に来なくて良いといわれたけれど、契約したとはいえ相手は悪魔だ。何をしでかすかわかったもんじゃないから一緒にいくしかない。行き先はうちの姉妹校や父の知り合いの会社や関連会社だった。ますます離れられない。家の名に泥を塗られたら白州先輩を囲い込む金がなくなってしまう。
「時間かかったけどこれで大丈夫でしょ」
静海有はこれで駄目になる。海月のテクニックにかかれば、すぐに虜になるはずだ。名前を思い浮かべるだけでイライラする。あいつは最初から僕の欲しかったものを手にしていた。
悪魔と契約して僕の外見は驚くほど綺麗になった。ごつごつして日焼けしやすかった手が女性のように白く、滑らかな美しいものに変わった。身体も筋肉がつきにくくなって、地味だった顔は華やかに変化した。今では歩けば誰もが振り返る美少年だ。
それなのに、静海有と並べばみんなが静海有を見る。何もしていないくせに、最初から皆が羨む美貌もスタイルも持っている。何より白州先輩を僕から奪ったのが一番許せない。ずっと好きだった彼がやっと僕を好きになってくれたのに、横から奪ったのだ。馬鹿のくせに、身の程知らずだ。
「ふふ、早く廃人にしちゃえばいいのに」
そうなったら白州先輩は静海有なんてすぐに忘れるだろう。ううん。忘れさせてみせる。僕は綺麗だし、金もある。白州先輩が僕の虜になったら、金髪もコンタクトもやめさせて、昔の白州先輩に戻してあげよう。誰にでも優しくて、人気者で、誰の手垢もついていなかった、可愛かったあの頃の白州先輩に。
「あ、かなちゃん」
「白州先輩! お待たせしました~!」
「ごめん。今日ちょっとまだいけないんだ」
白州先輩が困ったなぁと頭をかいている。苦笑いじゃなくて本当に困っているようなので、僕は小首を傾げた。皆に可愛いと絶賛された上目遣いも忘れない。
「どうかしたんですか?」
「いやぁ……」
白州先輩が言葉を濁したということは、僕の気に入らない何かがあったということだ。そしてそれは9割の可能性で静海有関係である。困っているなら取り巻きを使って手伝ってあげようと思ったけれど、そんな気持ちは霧散した。むっと顔を顰めて抗議する。
「また静海有? 白州先輩は僕のでしょ?」
「うーん……」
白州先輩は唇を親指で触りながら何か思案している。折角僕と一緒なのにまだ静海有のことを考えているかと思うとどす黒い気持ちが胸を渦巻いた。海月にボロ雑巾みたいにされた後、どっかの小汚い男に売り払ってやろう。AVとかにも出演させて、人生滅茶苦茶にしてやらなきゃ気がすまない。
「……別にいいじゃん。あいつがどうなろうと」
「かなちゃん? ……何か知ってる?」
白州先輩の言葉に僕は答えないでそっぽを向く。今頃美術準備室で海月とどん引くくらいのセックスしてるに決まっている。海月の前では人間なんて欲望むき出しの猿なのだ。うーん、いっそそれを見せるのもいいかもしれない。
「有はどこ?」
「教えて欲しい? じゃあキスして?」
「……」
白州先輩は少し呆れているみたいだけど何だかんだキスしてくれる。白州先輩はキスが上手だ。セックスもそうだったのは少し嫌だったけど、何度も沢山僕を可愛がってくれるから許すことにした。
「……どこ?」
「えー足りな……」
もう一回強請ろうと首に手をまわそうとした途端、意識が白く濁るような、飽和していくような不思議な感覚に陥る。例えるなら間違ってジュースではなくお酒を飲んだ時のようだ。酩酊感というのだっけ?
心地よくて、楽しくて、幸せ。眼の前にいる白州先輩が愛おしくて愛おしくてたまらない。
「しずみあるはびじゅつじゅんびしつにいるよ」
「あー……閉じ込めたのか。いじめっぽいいじめだ」
唇から勝手に返事が溢れ、聞こえた言葉に白州先輩はうんうん頷いていた。
「あ、もしかしてこれ堕ちた? ……うっわー……長かった。じゃあ、えーと。動かないでね。……それで、君と海月冬夜の関係はどんなかな?」
「あくまとけいやくしゃ」
僕と海月の関係を白州先輩が聞きたがっている。教えてあげなきゃと妙な使命感にかられて口が動いた。僕はどうやって出会ったか、僕等に何があったのか、沢山教えてあげた。白州先輩は何度も頷いて話を聞いてくれる。とても嬉しい。
「……つまり、かなちゃんは海月と中学校の頃に出会って契約を結んだのね。容姿が抜群に良くなったのはその効果で、教育実習生であいつが来たのもかなちゃんの差し金?」
「ぼくがみつきにたのんだんだ。いとこのなつよし、ちょうしにのってるからぼろぼろにしてって」
「そう……」
僕が答えると、白州先輩は傷ついたような顔をした。どうして? 僕はちゃんと答えたはずなのに……。何か足りなかったのだろうか。そう思って僕が裏でしたいろんなことを教えてあげた。この前まで行っていた姉妹校では海月が手を出した生徒達の内3人ぐらい廃人になってしまって、揉み消すのがとても大変だったのだ。僕が一生懸命話すと白州先輩はますます悲しそうにした。これじゃ駄目だったのかな。
「白州くん、有くんいたかな?」
「秋名、って梅雨もいんのかよ」
「会長……に夏さん?」
やって来たのは夏義と早良会長だった。僕はぼんやりと二人を眺める。
「あぁ、秋名。俺もこれだ……は? ねぇぞ」
「あれえっちなことしてないと出てこないよ」
夏義はシャツとTシャツを胸まで捲くって、白州先輩に体を見せている。何かがなくなったらしく、上半身裸のまま少し慌てていて間抜けだった。白州先輩と話をして落ち着いたのか、僕を見て目を開く。
「おい梅雨、何突っ立って黙ってんだよ」
「あ、夏さん、かなちゃん俺に魅了されてるだけだよ。俺とセックスしまくるとこうなるんだ。夏さんも試す?」
「ぜってぇ嫌だ」
会話が上手く聞き取れなかった。ぼんやりしていると、昨日白州先輩としたセックスがふわふわと思考を漂う。気持ちよかった。白州先輩はセックスがすごく情熱的で、僕は浅ましいほど何度もお強請りしてしまった。
「じゃあ、かなちゃん。折角だし皆にもさっきと同じお話してあげて?」
「うん。しらすせんぱいがよろこぶならなんでもはなすよ」
僕は白州先輩にお願いされて話を始める。悪魔と出会った中学二年生、そこで何を契約したのか、夏義への嫌がらせも、静海有への復讐も。本当だったら夏義がいるからしてはいけないとわかるはずなのに、僕は言われるがまま白州先輩の願いを叶え続けた。
「梅雨てめぇ……」
「ひっ!」
全てを話すと夏義は怒気を孕んだ目で俺を睨めつけた。僕は慌てて白州先輩の背中に張り付く。
「白州くん、契約した悪魔の名前を言わせてください」
「かなちゃん、悪魔の名前は?」
「ろまりゅい」
ロマリュイ。そう彼は名乗っていた。本当の名前なのかはわからないし、今となっては海月冬夜の名前の方が馴染み深い。
「有は?」
「美術準備室だって。先生に開けてもらうように連絡しておいてもらっていい?」
「わかった」
早良会長がスマートフォンを弄っている。ちらりと僕を見る目が蔑んでいるように見えて、嫌な気持ちになった。僕がむっとしていると、白州先輩が僕の頭を撫でる。幸せ、大好き、白州先輩のためなら何でもしよう。そんな気持ちが胸に溢れた。
「かなちゃん、沢山話してくれてありがとう。それじゃあ最後のデートしようか?」
白州先輩は僕に向かって優しく笑う。でもそれはいつも見せてくれたちょっと困ったような笑顔じゃない。確かに顔は笑っているのに、その目は底冷えするような冷たい目をしていた。
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