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第三部
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しおりを挟むバスケ部の部室での性行為はなかなか楽しかった。屋上のような開放感はないが、夏のテリトリーで夏を無茶苦茶に抱くというのは背徳感を覚える。おかげで俺と夏は授業をサボるほど夢中でセックスに没頭してしまった。
「怒らないでくれ夏」
「……知らねぇ」
夏は結局二回ほど射精せずに達し、立派な雌となったわけだが、俺が虐めたせいか機嫌が悪い。いや、元々悪かったのだけれども。
「そういえば最近の夏はずっと荒れているな」
「……」
「だんまりか。まるで大きな子供だぞ」
可愛い可愛いと頭を撫でて子ども扱いすれば、夏はその手を掴んで払った。そのくせ裸のままの俺をきつく抱きしめる。甘えたいけれど子ども扱いされたくないとは、なんとも子供らしい。
「好きな男が帰ってきたんじゃないのか?」
「あいつとはとっくの昔に別れてんだ。なのに今更……」
「春樹に寝取られたらしいな」
「……聞いたのか」
「あぁ」
チッと舌を打つ音が聞こえた。
夏は口を引き結んで黙った後、張り詰めた気持ちを吐き出すように長く息を吐く。
「あいつは、春樹と一緒にいてやらなきゃいけねぇって俺を捨てたんだ」
「ん? 春樹は告白する前に連絡がとれなくなったと言っていたが?」
「あ? んなわけねぇ……適当言ってるだけだろ……」
夏は目をつり上げて俺を睨む。睨まれても困る、俺はそう聞いていただけなのだ。
「そんなあいつが、今更出てきて『夏義』なんて呼んできた。腹が立つ」
「おや、いつの間に接触したのだ」
「バスケ部の副顧問になったんだよ」
それはなんという因果か。噂を知っている者まで複雑な気持ちになるだろう。これが部活動であれば間違いなくどちらかがやめる羽目になるやつだ。俺も一度でいいからエロ漫画のようにサークルをクラッシャーしてみたいものである。
「でも……一番腹が立ったのは、それをほんの少しでも嬉しく思った俺自身にだ」
そうか嬉しかったのか。それならそれで良いような気もするが、夏は嫌悪を顔全体に書いたような凄まじい顔をしている。
(ん……?)
チクリ、と胸が痛んだ気がして俺は胸を触る。何か魔力の異常でもあったのだろうか。いや、人間の身体だ。病気になるということもあるのだろうかと不安になる。
「何だ。まだしたりなかったか?」
「ん、夏……」
夏の大きい手が俺の胸板を弄る。胸の先端を捏ねて硬くすると、唇を寄せて赤子のように吸い付かれた。きつく吸われると、ジンと腰が震えて熱を持つ。それを見計らったように、下半身を夏の手が弄り始めた。
「いい加減抱かせろよ……」
「そんな引っ張られたら乳首が取れてしまう……ぁっ! 噛んでは駄目だっ」
「有が駄目、なんて言うの珍しいな」
「ふふ、興奮するだろう? 先ほどの夏の真似だぞ」
「……」
夏は苦虫を噛み潰したような顔をして小さく舌打ちをすると、俺を横に転がして引き寄せた。腕の中に収まった俺は逃げ場を無くし、夏の手が胸や性器に与える刺激を享受する。気持ちよさに意識がまどろんだ。腰には夏の硬くなった性器が何度も押し付けられる。
「夏、んぅ……」
「なぁ、有」
「ん、っふ、……何だ?」
「……ハルはお前のもんになったのか?」
俺は黙ったまま何も言わなかった。そうしていれば夏は何も言わずに俺の尻に指を這わす。ぐいと尻たぶを引っ張られ、尻の窄まりを露出された。冷たい空気がそこを撫でる。夏は俺の尻を眺めると、ゴクリ、と喉を慣らした。
「……抱かせろ」
「嫌だ。今の夏は見ていて痛々しい。身を任せる気にならん」
「慰めろよ」
夏がそんなことを言うのは意外だった。プライドが高く、同情されるのは嫌いそうだというのに。甘えているのだろうか。それだけ海月の存在は夏にとって大きかったのだろうか。
そう考えると何だかすごくムラムラ、じゃないな、モヤモヤした。そして先程の胸の痛みが再発する。よもやそんなことはと思っていたが、俺はまさか、海月に、嫉妬しているのか!?
(相手は人間だぞ……あんなか弱い生き物、愛おしいと思っても、嫉妬するなんてありえない……)
俺は嫉妬しいだとイウディネが言っていたが、それはあくまでも同等以上の相手に対してだけだ。小物の一人や二人が俺のものに手を出したところで、俺の頭にはお清めセックスのことしかない。
しかし、そんな俺が、人間相手に、そんな感情を、抱く日がくるなんて……!?
(そういえば、俺は全然海月とシたくならんな……)
魔界で一番の好き者、ド変態、色情狂と称えられたこの俺が!?
(イウディネ:それ褒められていませんよ)
色々なことが衝撃的すぎて放心してしまった。海月、恐ろしい子……!
「有?」
俺が黙り込んでいると夏が問いかけてきた。何でもない、と俺が首を振ると、夏の手は俺から離れる。さっきまで俺を抱こうとしていたのに、急にやる気をなくしてしまったようだ。
「俺は、お前のために何ができんだろうな……」
「夏?」
「お前が欲しいのに戸惑っちまう。あいつらはお前のために何でも捨てられるみてぇなのにな」
「……。普通は夏のようになる。仕方のないことだ」
「何なのかは知らねぇが、全て捨てるっていうのが必要なことなんだな?」
「そうだな……」
人であることを捨てれば、今ではなくとも持っていたものを全て失うだろう。それでも俺に縋って隷従するのが俺の隷属への条件だ。
(……そうか)
夏の発言がショックだったのか、俺は少しの間ぼんやりした。そうか、春樹も秋名もすんなり俺を選んでくれていたから忘れていたけれど、普通は迷うものなのだ。
(隷属したいが……)
夏が望んでいないならするべきではないのだろうか。叔父上の奥方は人間だが隷属していないと聞く。それは奥方がそう望まれたからだと聞いた。
でも俺は夏も欲しいのだ。何なら全て夏から奪ってしまえば早いだろうか。そうしたら、夏は俺しか選べなくなるだろうか。悪魔らしいことを考えていると夏の手が俺の頬を撫でた。顔を上げれば、夏が眉間に皺を寄せて俺を覗き込んでいる。
「勘違いするなよ。好きだぞ、俺は」
「おや、どうした急に」
「……てめぇが不安そうな顔をしてたからだろ」
「そうだったか?」
そんな顔を俺はしていたのだろうか。
「夏は……海月と俺ならどちらが好きだ?」
「は?」
目の前の夏の顔が間抜けなものに変わり、俺も同じような顔をしてしまう。俺は何か変なことを言ったのだろうか?
「いや、お前……」
「何だ?」
「有にも人並みの感情があったんだなって驚いてんだよ」
「酷い男だ」
「お前が言うな。あぁ、くそ、惚れ込んじまう」
「ふふ、今だけのくせに」
目の前にいるからこそ俺の魅了は効いている。俺から離れれば、性交の余韻はあってもいつしか頭は冷静になるだろう。しかし好きだと言われるのは嬉しい。もっと愛してやりたくなる。
「馬鹿言うな。ここんとこ、嫌な気持ちになると出て来るのはお前の顔だよ。四六時中、寝る前も思い出す」
「ほぉ……俺のことを考えながらシてるのか夏?」
「ばっ……くそっ! そうだよ!」
「ふふ、夏、嬉しいな。今なら貴様に抱かれても良い気持ちになっている」
「本当か!?」
夏が目を開いて驚くので俺も目を瞬かせた。何だ、そんなにしたかったのか。
ならば応えてやろうと俺は自ら足を開く。その足の間に夏の体が割り込んできた。大きな手が身体をなぞる。
「ぁ」
溢れた喘ぎが夏の唇に飲み込まれた瞬間、後ろの扉から開錠される音が聞こえ、すぐさま扉が開く。俺と夏は口付けを止め、音源に向かって振り返った。
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