色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

文字の大きさ
上 下
37 / 60
第三部

37

しおりを挟む



 バスケ部の部室での性行為はなかなか楽しかった。屋上のような開放感はないが、夏のテリトリーで夏を無茶苦茶に抱くというのは背徳感を覚える。おかげで俺と夏は授業をサボるほど夢中でセックスに没頭してしまった。

「怒らないでくれ夏」
「……知らねぇ」

 夏は結局二回ほど射精せずに達し、立派な雌となったわけだが、俺が虐めたせいか機嫌が悪い。いや、元々悪かったのだけれども。

「そういえば最近の夏はずっと荒れているな」
「……」
「だんまりか。まるで大きな子供だぞ」

 可愛い可愛いと頭を撫でて子ども扱いすれば、夏はその手を掴んで払った。そのくせ裸のままの俺をきつく抱きしめる。甘えたいけれど子ども扱いされたくないとは、なんとも子供らしい。

「好きな男が帰ってきたんじゃないのか?」
「あいつとはとっくの昔に別れてんだ。なのに今更……」
「春樹に寝取られたらしいな」
「……聞いたのか」
「あぁ」

 チッと舌を打つ音が聞こえた。
 夏は口を引き結んで黙った後、張り詰めた気持ちを吐き出すように長く息を吐く。

「あいつは、春樹と一緒にいてやらなきゃいけねぇって俺を捨てたんだ」
「ん? 春樹は告白する前に連絡がとれなくなったと言っていたが?」
「あ? んなわけねぇ……適当言ってるだけだろ……」

 夏は目をつり上げて俺を睨む。睨まれても困る、俺はそう聞いていただけなのだ。

「そんなあいつが、今更出てきて『夏義』なんて呼んできた。腹が立つ」
「おや、いつの間に接触したのだ」
「バスケ部の副顧問になったんだよ」

 それはなんという因果か。噂を知っている者まで複雑な気持ちになるだろう。これが部活動であれば間違いなくどちらかがやめる羽目になるやつだ。俺も一度でいいからエロ漫画のようにサークルをクラッシャーしてみたいものである。

「でも……一番腹が立ったのは、それをほんの少しでも嬉しく思った俺自身にだ」

 そうか嬉しかったのか。それならそれで良いような気もするが、夏は嫌悪を顔全体に書いたような凄まじい顔をしている。

(ん……?)

 チクリ、と胸が痛んだ気がして俺は胸を触る。何か魔力の異常でもあったのだろうか。いや、人間の身体だ。病気になるということもあるのだろうかと不安になる。

「何だ。まだしたりなかったか?」
「ん、夏……」

 夏の大きい手が俺の胸板を弄る。胸の先端を捏ねて硬くすると、唇を寄せて赤子のように吸い付かれた。きつく吸われると、ジンと腰が震えて熱を持つ。それを見計らったように、下半身を夏の手が弄り始めた。

「いい加減抱かせろよ……」
「そんな引っ張られたら乳首が取れてしまう……ぁっ! 噛んでは駄目だっ」
「有が駄目、なんて言うの珍しいな」
「ふふ、興奮するだろう? 先ほどの夏の真似だぞ」
「……」

 夏は苦虫を噛み潰したような顔をして小さく舌打ちをすると、俺を横に転がして引き寄せた。腕の中に収まった俺は逃げ場を無くし、夏の手が胸や性器に与える刺激を享受する。気持ちよさに意識がまどろんだ。腰には夏の硬くなった性器が何度も押し付けられる。

「夏、んぅ……」
「なぁ、有」
「ん、っふ、……何だ?」
「……ハルはお前のもんになったのか?」

 俺は黙ったまま何も言わなかった。そうしていれば夏は何も言わずに俺の尻に指を這わす。ぐいと尻たぶを引っ張られ、尻の窄まりを露出された。冷たい空気がそこを撫でる。夏は俺の尻を眺めると、ゴクリ、と喉を慣らした。

「……抱かせろ」
「嫌だ。今の夏は見ていて痛々しい。身を任せる気にならん」
「慰めろよ」

 夏がそんなことを言うのは意外だった。プライドが高く、同情されるのは嫌いそうだというのに。甘えているのだろうか。それだけ海月の存在は夏にとって大きかったのだろうか。

 そう考えると何だかすごくムラムラ、じゃないな、モヤモヤした。そして先程の胸の痛みが再発する。よもやそんなことはと思っていたが、俺はまさか、海月に、嫉妬しているのか!?

(相手は人間だぞ……あんなか弱い生き物、愛おしいと思っても、嫉妬するなんてありえない……)

 俺は嫉妬しいだとイウディネが言っていたが、それはあくまでも同等以上の相手に対してだけだ。小物の一人や二人が俺のものに手を出したところで、俺の頭にはお清めセックスのことしかない。

 しかし、そんな俺が、人間相手に、そんな感情を、抱く日がくるなんて……!?

(そういえば、俺は全然海月とシたくならんな……)

 魔界で一番の好き者、ド変態、色情狂と称えられたこの俺が!?
(イウディネ:それ褒められていませんよ)
 色々なことが衝撃的すぎて放心してしまった。海月、恐ろしい子……!

「有?」

 俺が黙り込んでいると夏が問いかけてきた。何でもない、と俺が首を振ると、夏の手は俺から離れる。さっきまで俺を抱こうとしていたのに、急にやる気をなくしてしまったようだ。

「俺は、お前のために何ができんだろうな……」
「夏?」
「お前が欲しいのに戸惑っちまう。あいつらはお前のために何でも捨てられるみてぇなのにな」
「……。普通は夏のようになる。仕方のないことだ」
「何なのかは知らねぇが、全て捨てるっていうのが必要なことなんだな?」
「そうだな……」

 人であることを捨てれば、今ではなくとも持っていたものを全て失うだろう。それでも俺に縋って隷従するのが俺の隷属への条件だ。

(……そうか)

 夏の発言がショックだったのか、俺は少しの間ぼんやりした。そうか、春樹も秋名もすんなり俺を選んでくれていたから忘れていたけれど、普通は迷うものなのだ。

(隷属したいが……)

 夏が望んでいないならするべきではないのだろうか。叔父上の奥方は人間だが隷属していないと聞く。それは奥方がそう望まれたからだと聞いた。
 でも俺は夏も欲しいのだ。何なら全て夏から奪ってしまえば早いだろうか。そうしたら、夏は俺しか選べなくなるだろうか。悪魔らしいことを考えていると夏の手が俺の頬を撫でた。顔を上げれば、夏が眉間に皺を寄せて俺を覗き込んでいる。

「勘違いするなよ。好きだぞ、俺は」
「おや、どうした急に」
「……てめぇが不安そうな顔をしてたからだろ」
「そうだったか?」

 そんな顔を俺はしていたのだろうか。

「夏は……海月と俺ならどちらが好きだ?」
「は?」

 目の前の夏の顔が間抜けなものに変わり、俺も同じような顔をしてしまう。俺は何か変なことを言ったのだろうか?

「いや、お前……」
「何だ?」
「有にも人並みの感情があったんだなって驚いてんだよ」
「酷い男だ」
「お前が言うな。あぁ、くそ、惚れ込んじまう」
「ふふ、今だけのくせに」

 目の前にいるからこそ俺の魅了は効いている。俺から離れれば、性交の余韻はあってもいつしか頭は冷静になるだろう。しかし好きだと言われるのは嬉しい。もっと愛してやりたくなる。

「馬鹿言うな。ここんとこ、嫌な気持ちになると出て来るのはお前の顔だよ。四六時中、寝る前も思い出す」
「ほぉ……俺のことを考えながらシてるのか夏?」
「ばっ……くそっ! そうだよ!」
「ふふ、夏、嬉しいな。今なら貴様に抱かれても良い気持ちになっている」
「本当か!?」

 夏が目を開いて驚くので俺も目を瞬かせた。何だ、そんなにしたかったのか。
 ならば応えてやろうと俺は自ら足を開く。その足の間に夏の体が割り込んできた。大きな手が身体をなぞる。

「ぁ」

 溢れた喘ぎが夏の唇に飲み込まれた瞬間、後ろの扉から開錠される音が聞こえ、すぐさま扉が開く。俺と夏は口付けを止め、音源に向かって振り返った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...