色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第二部

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 病院に行くという宣言通り、春樹はいつも以上に学校に来なくなった。生徒会の仕事も汐達に任せ、半分入院しているような生活が続いている。

「ただいま」
「おかえりなさいませ」

 深夜0時をまわる頃、俺はマンションに帰ってきた。鍵が開いた音を聞きつけ、イウディネが俺を迎えてくれる。俺はきっとガッカリした顔をしていたのだろう。イウディネの顔に笑みはなかった。

「……いかがでした?」
「……」

 今日は街に出て、様々な男や女から精気を貰ってきた。しかし俺の魔力は一向に増える気配がない。悪魔であるイウディネの魔力をもらってもそれは変わらなかった。ネコでもタチでも、どんなプレイをしても駄目だ。なら一体どうすれば良いのだろうか。

「元の魔力まで増えない。しかし、春樹はもう限界だ……」

 一度だけ、春樹が心配で家に行ったが、俺を出迎えた春樹の顔は真っ白で、立っていることすら大変そうだった。春樹の命の蝋燭は確実に短くなっているのだと思うとすぐにでも隷属したいと思う。しかし隷属しようにも俺の魔力はやはり回復しないままだ。このまま隷属すれば、今度は二つ目の腕輪も要らなくなってしまうかもしれない。

「ディネ……」
「……」
「お前には心配ばかりかけるな」

 イウディネは浮かない顔のまま俺を見ない。俺は春樹を隷属させてしまいたかったが、少しでも危険がある以上、無理をさせたくないというのがイウディネの意見だった。しかしイウディネにも春樹の身がもう危ういことがわかっているのだろう。

「私が早良春樹を隷属させるのはいかがでしょうか?」
「ディネが?」
「そうすれば我が君への危険性は……」
「しかし、春樹を助けると約束したのは俺なのだ」
「私は我が君のもの。私を使うことは貴方様の力を使うことと同義です」
「ディネ。それは違う」

 イウディネは確かに俺のものではあるが、道具ではない。俺が拒否すると、イウディネが眉間に皺を寄せる。いかんいかん。このままだとイウディネが強行しそうだ。

「ディネ、ただでさえ人間の隷属は不確定要素が多いのだ。王族の俺ですら魔力を大量に失うのに、ディネが春樹を隷属してもしものことがあったらどうする?」
「ですが!」
「俺を一番に理解し、守ってくれるのは誰だ? ディネだろう?」

 ディネはハッと目を開いた後、掌で顔を抑えて息を吐いていた。そう、俺は一応隠れている身で、何があってもおかしくない。強い部下が必要だ。

「そうだ。街で夢魔とすれ違ったぞ」
「え!?」
「しかし俺にはさっぱり気付いていなかったな。この身体のせいか。随分と高性能だ」

 精気を得ようと街に出て見つけた。バラバラの時間に2人、体からピンク色の靄が零れていたのですぐに気付いた。夢魔は人間に擬態もできるが、溢れる魔力を誤魔化すことはできない。だから擬態していても俺には一目で人間ではないことがわかる。逆にあちらは人間の体をかぶり、魔力を押さえ込んでいる俺に気付いていないようだった。

「それと一人、男の精気を取りすぎてな。真っ青になってしまって焦った」
「いかがされました?」
「治癒で蘇生したが、人間とはあそこまで脆いのかと吃驚した」

 俺の中で達した男が白目を向いて失神してしまったのだ。俺は慌てて治癒魔法をかけて蘇生を施し、事なきを得た。早く魔力を元に戻さなくては、と焦りすぎてしまった。折角の食事を殺してしまうところだった。

「春樹はあの人間よりも脆いのだな」

 健康なあの男よりも春樹は弱い。治癒で回復していても俺が本気で抱いたら半刻もたたずに冷たくなり、人間ではなく物になってしまうだろう。

「魔界には人間などいなかったし、俺は王族なのに魔力も少ないからと外には出してもらえず、餌を与えられる日々を過ごしていた。こんなことなら、叔父上に頼んで外をもっと見ておくべきだった」

 元はイウディネも俺の餌だった。教育係という名ばかりの俺への贄だ。
 王族の子は強力な魔力を制御できず、教育係を壊してしまうことが多い。幸か不幸か、俺は魔力がさほど増えなかったためにイウディネを壊すことはなかったが、中途半端な器は王族の恥とされ、なかなか外に出してもらえなかった
 逆にイウディネは王族ではないのに魔力の量が多く、一目置かれる存在だ。その力をイウディネは俺のためだけに使い続けてくれている。なんとも贅沢な話だ。

「叔父上は奥方を隷属されてないと聞く」
「そうですね。お断りされたと仰っていました」
「強い方だ。俺なら無理強いしていたかもしれない」

 隷属させれば、病気や怪我からは守ってやれるだろう。悪魔や淫魔に限って言えば、一番美しい時間で体が固定されるため、年も取らない。人間を隷属しても同じなら、半永久の刻を共に過ごすことができる。それができるのに、叔父上は奥方の意思を優先させ我慢している。素晴らしい精神力だ。

「我が君は、お優しいですね」
「優しくはないぞ。俺は中途半端だ。兄にもよくそう言われた」

 中途半端なこの器は魔力もろくに貯めれず、人間一人を隷属するだけで支障をきたしている。手を握り、指先に魔力を巡らせてみる。ピンク色の靄を纏った手首にはキラリと腕輪が光っていた。

「王弟様に見て頂きましょう。あの方なら、我が君の体の変化について何かご存知かもしれませんし、人間を隷属させている可能性もあります」

 俺の叔父上は優れた慧眼を持っている。俺のこのよくわからない状態を見てもらえばアドバイスをもらえるかもしれない。

「……ディネ。お前は俺が俺じゃなくなったとしても、共にいてくれるか?」
「えぇ、貴方様がそう望むなら地獄の果てまで、共にありましょう」

 イウディネが冷たくなった俺の髪を撫でながら唇を食む。ちっとも思い通りにならない身体をどうにかしてくれ、とイウディネに股間をすり寄せれば、意を汲み取ったイウディネの手が俺のシャツの中に入り込んできた。温かい手が俺の身体を撫でまわし、胸の先端を摘んで愛撫する。

(焦ってばかりいる……)

 早くこの問題を解決して、春樹を隷属させたい。弱った身体から解放してやれば、春樹はきっと喜んでくれる。イウディネと秋名、そして春樹、大事なものがどんどん増えて俺も嬉しい。
 俺の魔力が解決するまでは、春樹には入院していてもらおう。多少時間稼ぎにはなるはずだ。




+++



 朝、入院を勧めようと決めて校内をうろついたが、探せども春樹の姿はどこにもない。教室、生徒会室、図書室や校内施設も回ったが結果は同じだった。

「静海!」

 今日も春樹は朝から病院だろうか、と廊下を歩いていれば前から険しい顔をした汐が走ってきた。廊下を走るなんて馬鹿がつくほど真面目な彼らしくない。

 嫌な予感がした。

「汐? どうしたんだ?」
「早良が今朝……」

 汐が言い淀む様子を見て、俺は息を呑んだ。





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