色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第二部

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 俺は汐に連れられて生徒会室にやって来た。多分ファンクラブか春樹についての話があるのだろう。夏は不機嫌なまま置いてきてしまったが、秋名が上手くやってくれるに違いない。下手に煽らなければいつもどおりの夏に戻るだろう。

「汐、話とはなんだ?」
「とりあえず、中に入ってくれ」

 中に入ると春樹がデスクに座っていた。他には誰もおらず、部屋に電気がついていないせいか薄暗かった。春樹は俺に気付くと『あ』と口を開いて席を立つ。

「春樹?」
「静海くん」

 俺が近付くと春樹は青い顔のまま抱きついてきた。すりすりと子猫のように胸に擦り寄ってくる。俺は春樹の身体を撫でながら治癒をかけるが、以前よりも効きが悪く、顔色が戻らない。死の足音が春樹に近付いているのを感じて、無意識に顔が強張っていた。

「静海もこいつに入院しろと言ってくれ」

 汐は俺に抱きつく春樹の襟首を指で引っ張って剥がそうとするが、春樹は俺に抱きついたまま離れなかった。俺がこのままで大丈夫だと言えば『すまん』となぜか汐が謝る。すっかり母親役である。

「春樹はなぜ入院しないんだ?」
「葛山くんがいる場所に静海くんを残していけない」
「こんな馬鹿なことを言い続けているんだ」
「馬鹿なことじゃない」

 命と俺を天秤にかけて俺を取るとは、見所があると言うべきか、無謀と言うべきか。汐は問答無用で後者なのだろう。大きくはっきりとした声色だった。

「春樹、お前は身体のことを一番に考えた方が良いのではないか?」
「君と離れたくない。誰にも譲りたくないくらい人を好きになったのは、初めてだから……」

 熱烈な告白だった。春樹の手が頬に触れ、俺は春樹と見つめ合う。春樹の瞳の中には炎がゆらめいていた。

「静海、正直に話せば引かれると思って言わなかったが、早良は高校に入学してから先輩後輩同窓関係なく付き合っては別れを繰り返した最低な男だった。俺は転入したばかりの君にまで手をだしたのかと不安に思ったほどだ」
「汐、お願いだから黙ってくれない?」

 汐が真面目に春樹の恋愛遍歴(最低)を語り出し、春樹は珍しく焦ったように早口で汐を制止しようとする。しかし汐は気にもとめず、拳を握って話を続けた。

 ほうほう。春樹は学校に出入りする業者の新入社員にも手を出すし、学校の敷地内でもところかまわずそういう行為をしていたと。ほうほうほう。それは随分と愉快な話だ。やはり春樹はおとなしい顔に似合わず好きものだな。

「―-―-しかし今は君を一途に思っているようだ。どうか彼の意を汲んでやってくれないか?」
「……汐、その経歴を知って彼が僕を選んでくれると思う?」
「え? いや、静海なら万が一があるかなと思ったんだが……」
「それを汐が言わなかったらもっと可能性が高かったよ!! ……ッ!」

 春樹が胸を押さえて歯を噛みしめる。苦しそうな春樹の身体を支えていると、俺の腕を春樹が掴んだ。ギリギリと痛みすら感じるほど、春樹は必死に俺に縋っている。

「僕は……っ……静海くんと、一緒にいたいだけ……」

 それすら叶わなくなるかもしれないけど、と春樹は悲しそうに呟いた。汐がすかさず春樹のイスを持ってきてくれる。座った春樹の頭を撫で、俺は汐を見た。

「汐、俺は誰とも付き合えない。たった一人を作る気はないのだ」
「それは……あまりにも不義理じゃないか?」

 ここまで想いを寄せられて、選ぶことも、断ることもしないのか。汐は顔を顰め、俺を非難する。

「そうだな。不義理だとしても、俺にはできない。だから許してくれなくても良い」

 汐は俺の言葉を聞き、ハッと息を呑む。そのまま沈痛な表情で俯いた。

「……失言だった。すまない」

 汐は謝罪を口にしていたが、きっと人間から見れば汐が正しい。
 しかし俺は人間のようには生きれそうになかった。

 頭を冷やしてくる、と汐は俺達に背を向けて生徒会室を出て行ってしまった。残された春樹が、苦しそうな顔で笑顔を作ろうとしている。

「春樹、お前は俺のために死にたいか? 生きたいか?」
「……君のために死にたい」
「では俺の役に立つため、生きなければならないな」
「……意地悪なぞなぞだね。そうしたいけれど、俺の身体はどんどんポンコツになる。今日も病院に行ってきたけど、だんだん心臓の機能が低下してるって言われたんだ。これからもっとチアノーゼの症状も悪化し、運動しなくとも動悸や息切れが酷くなる……僕はきっともうすぐし……んっ」

 俺は腰を曲げ、唇で春樹の言葉を飲み込んだ。春樹は俺の首に手をまわし、もっとくれと頭を傾ける。俺も春樹の頭に手をまわし、春樹の唇を食む。 

「んぅ……ぁ、っふ、っちゅ」

 春樹の咥内に舌を差し込み、伸ばされた舌を絡め取る。春樹の顎に指を滑らせ、咥内に滲む唾液を注ぎ治癒をかける。唾液が枯れそうになるほど春樹と唇を交わし合い、唇を離すと春樹の頬が赤く染まっているのが見えた。

「必ず助けてやろう」
「え?」
「俺の傍にいるなら、苦しくないのだろう?」
「……そう、不思議とね」

 春樹が俺の身体に腰に手をまわして抱きしめる。俺は頭を撫でながら、親が子に言い聞かすような声色で春樹に語りかけた。

「なら傍にいれるようにしてやろう。そのためにはちと貴様のファンクラブが邪魔だがな」
「邪魔? ……あぁ、過激なファンがいるってこと? そこまで酷くないと思うけど……」
「お前は自分の人気を軽く見すぎているぞ」

 春樹の人気は学校で一番と言って良い。教室でも、学食でも、購買でも、とにかくいつもどこかで誰かが春樹のことを話している。春樹の名前を聞かない日はないほどだ。

「……もしかして、静海くんは僕のファンクラブにいる過激派をおびき出すためにファンクラブを作ったの? 僕を過激なファンから守るために?」
「え、いや……」
「確かにこのまま静海くんのファンクラブが成長すれば、僕のファンクラブに残るのは身内と過激なファンだけになる。そうしたら僕が上手く立ち回ればいいわけだ」
「は、春樹……?」
「静海くんッッ!」
「うわっ!?」

 春樹は立ち上がると俺を会長用のデスクに押し倒した。何事かと慌てるうちに視界いっぱいに春樹の顔があった。

「んんぅ!? んんっ!」
「っはぁ、静海くん、好きだよっ! 大好きっ!」

 唇を奪われ、ぎゅうううと搾り取るようにきつく抱きしめられる。ぐえぇ、春樹意外と力が強いぞ……。

「ね、有くん。多分、汐は30分くらい戻ってこないよ」

 春樹の手が内腿へと滑っていく。股間すれすれを行き来する手にゾクゾクと背筋が震える。もっと、もっと触って欲しい。気持ち良いことは大好きだ。

「ここ、使っていい?」

 勿論、と俺は笑って頷く、春樹の手が俺のベルトの金具を弄る。首筋にかかる吐息がくすぐったくて、俺は身を捩った。





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