色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第二部

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 今日は日曜日、ファンクラブの申請をして初めての週末だ。俺は撮り溜めたアニメから無事今期アニメのベスト3を決定し、この3つを追うことにした。

「ん?」

 レコーダーの予約設定をしているとガチャガチャバタバタと忙しない物音が玄関から聞こえる。イウディネは所作が丁寧で、あまり物音を立てない。となれば思い当たる人物は一人だけだ。

「有! 来たよー!」
「我が君、只今戻りました」
「おぉ、おかえり秋名、ディネ」

 部屋に入ってきたのはディネと秋名だった。秋名は沢山のビニール袋や紙袋を抱え、一方ディネは涼しい顔で何一つ荷物を持っていない。

「秋名が荷物持ちをしてくれたので沢山食材が買えました。通販もいいですが、やはり我が君の口に入れるものは自ら吟味しないといけませんね」
「先生めっちゃ頑張って選んでたよ~! 良かったね、有」
「秋名も食べて行くでしょう?」
「え、俺もいいんですか? なんか最近ずっとごちそうになってる気が……」
運動・・をしたらお腹が減りますからね」
「あ、はは……ソウデスネ」

 あれから隷属した秋名はイウディネの小間使いのようになっている。俺の友人だったのに今では俺がいなくともイウディネと気さくに話をする仲になっていた。何とチャットアプリで会話もしているらしい。(ちなみにイウディネは通常のスマートフォンを使っている。ずるい)

 俺はすっかり日曜日のお父さん気分だ。つまり、疎外感を感じているのである。

「我が君ー。先生がお茶入れてくれるってよ」
「秋名が言うと違和感があるな」
「じゃあご主人様?」
「もっと悩ましく」
「え~……ご、ご主人さまぁ?」
「よし、秋名! ベッドに行くぞ!」
「た、単純!」
「ベッドも良いですが、お茶を飲んでからにしてください」

 秋名を引っ張って寝室に向かおうとしたが、イウディネがお茶を持ってきてくれたので先にそちらを頂くことにした。食事を無駄にすると七人の神に祟られるらしいからな。

 俺はカウチソファに座りながらイウディネが入れた紅茶を口にする。ミルクたっぷりのロイヤルミルクティーだ。砂糖が沢山入っているので何杯でも飲める。

「そういえば秋名、ファンクラブはどうなりました?」
「初動は予想より人数多いですよ! さすが有! あっというまに3クラス分集まっちゃいました~!」
「たった3クラス分ですか? 我が君のファンクラブなのに?」
「2人のファンクラブは根強いからこれでも上々なんですよ~? 面倒くさくて今更変えたくないって人も多いみたいだし」

 それでも会誌欲しさに3クラス集まったと秋名は黒い鞄からノートを取り出す。そこには学年の人数や、夏の所属するバスケ部、春樹の所属する管弦楽部の人数、生徒会や交友関係まで事細かく記されていた。

「2人共きっちり人間関係築いてるみたいで、ファンクラブの規定人数を切っての解散は難しそうですね。2人に自主的に解散してもらうのが手っ取り早いけど、今の状態でそれをしたら有に矛先が向かうのは間違いない。だからギリギリまで2人のファンクラブの人数を削りたいんです。バスケ部、管弦楽部、生徒会の人数、2人の会社の得意先の息子なんかを合わせて60人弱ぐらい。其々30名ずつって計算になってます」

 全校生徒の人数が大体360人で60人は難攻不落。秋名の調べでは春樹のファンクラブ会員数が200人で夏が160人だったが、もう既に俺のファンクラブには大凡3クラス分の会員がいるため、春樹のファンクラブが150名、夏のところが100名ちょっととなっているらしい。おぉ、既に夏のファンクラブといい勝負の人数になっている。

「では残り200名ほどを我が君のファンクラブに加入させるということですね」
「うん。惰性で入っているやつも引っこ抜く」
「そう上手くいくのか?」
「多分会長の方から絞り取れる。もともと生徒会長のファンクラブに入っておけば安心っていう謎の思い込みがあるだけだし、風紀チェックだって横着せずに検査の時だけ髪を黒くしたり、ピアス外したりすれば平気だから」

 逆に夏のファンクラブの場合、夏自身に憧れを抱いて入会している者が一定数おり、会誌だけでは難しいだろうということだった。

「なので今回はファンクラブに入ると得られる特典を考えてみたんだけど……」
「おぉ! 俺とのセックス券か!?」
「馬鹿!」

 秋名が単純明快な罵声を俺に投げた。

「む!? 馬鹿とはなんだ! 大真面目だぞ! 俺は気持ち良い、相手も気持ち良い。その上俺のファンクラブに入ってくれる。秋名もハッピーで、ウィンウィンウィンではないか!」

 なんかバイブの振動音のようになってしまったがとにかく皆ハッピーではないか!

「我が君、有名パティスリーのショートケーキです。お食べください」
「おぉ! ディネ~! 愛しているぞ~! ん~! ちゅっちゅ!」
「ん、ふっ……あぁ、我が君の唇は砂糖のように甘いです」
「ディネが俺を愛してくれているからだな」
「有の唇が甘いのは砂糖たっぷりのミルクティー飲んでるからでしょ……。ってこら、服に手を入れない! ちょっと聞きたいことあるんだけど! 二人とも! ご主人様! 先輩!」

 秋名がバンバンとテーブルを叩くとショートケーキが震えた。危ない、と俺はショートケーキの皿を両手で確保する。その横でイウディネが『そっちを取ったな』と言わんばかりに睨み、俺の乳首を服の上から捻り上げた。ひぃん!

「秋名、聞きたいこととは何ですか?」
「2人の後ろ盾ってどうなってるの?」
「後ろ盾? あぁ、それなら叔父上だな」

 一応俺は井浦イウディネが保護者ということになっている。しかし俺達の金銭面の世話をしてくれているのはイウディネの子飼いしている金持ちと、王弟である俺の叔父上だ。

「有の叔父さんこっちにいるの?」
「あぁ、奥方が人間で、こちらの世界にずっと住んでいる変わった方だ。普通の人間として生活されているな」

 叔父上のおかげで俺はこの世界に滞在できている。とても風変わりな方で、昔から人間界にちょくちょく出入りしていたのだが、それが俺の父にバレてしまい、人間と魔界の窓口管理を任されることになった。本人曰く『窓際族』らしい。

 勤務中、人間の女性に一目惚れして魔界ではなくこちらに居を移した。俺にアニメや漫画、ゲームなどのサブカルチャーを教えてくれたのも、この部屋や学校の手配をしてくれたのも全て叔父上だ。今は仕事が忙しいらしく、めっきり会えていない。

「そうなの? 俺も知ってるような有名な人?」
「有名ですが、公にお名前は出せないですね」
「そっかー。俺も孤児みたいなもんだし、やっぱ後ろ盾は無いも同然ってことだね」
「それはまずいのか?」
「ファンクラブはうちの学校の伝統みたいなものだけど、今となっては学校公式のものではなくて、生徒が有志でやるような……まぁお遊びの認識なんだよね。だから教師がビビるような後ろ盾がないまま、あんまりオイタがすぎる連中が集まると強制解散させられることもあるよ」
「秋名の時はどうだったのですか?」
「俺の見た目がこうだからね。たま~にやばかった」

 一時期は黒髪にしてピアスもカラコンも外していたのだと秋名が溜息を吐く。秋名はすっかり今では金髪に青いカラコン、ピアスジャラジャラがトレードマークになっているので黒髪の秋名なんて想像もつかない。

「あぁ、そういえばさ、見てこれ」
「え?」
「カラコン入ってないんだよ俺」

 秋名の瞳は俺と出会った頃と変わらない真っ青の空色だ。目を凝らしてみると確かにレンズは入っていない。

「カラコン要らずにはなったけど、これ大丈夫かな? 最近、すごいムラムラしたりするし、食欲も眠気もすごくて体がおかしいんだよ……」

 秋名は不安そうだが、多分ムラムラするのは俺がエッチな気分になっているのにつられているだけだな。それは後で説明しよう。

「言われてみると肌ツヤがよくなってるようだな」
「うん。それ寮のやつらにも言われた。綺麗になってるって」

 秋名の肌はきめ細やかで、凹凸なくすべすべしていた。唇もかさつきもなく、薄い桜色で、見つめているとキスしたくなる。俺はモグモグとショートケーキを食べながら秋名を頭から足元まで眺めた。俺が抱きすぎたせいだろうか、細く、骨ばっていた身体が若干丸みを帯びている。

「他には何かありますか?」
「あの胸にあったマークが消えちゃったんだよね。あ、でも、一人でしてると浮かび上がってくるんだけど……」
「え!?」

 イウディネが驚いた声を上げるが、秋名は慌てて『大丈夫!』と首を横に振る。
 胸の印は完全に消えたわけではなく、オナニーをしていると浮かび上がってくるらしい。

(うーん。精気が漲ると出てくるのか……?)

 イウディネの胸のマークは作ったもの常に浮かんだままだし、魔界にいた時はセックスしてばかりだったから通常どうだったか俺は記憶していない。

「貴方、一人でしているんですか? 寮にはちょっと青いですが食べられる子もいるでしょう?」

 イウディネは驚愕の表情を浮かべたまま秋名を見ている。どうやらイウディネの驚いた声は胸の印が消えることではなく、秋名がオナニーで性欲を解消していたことのようだ。

「え!? いや、だって……」

 秋名は俺をチラチラ見ながらしどろもどろになっている。
 ふむ。秋名は俺に義理立てしているのか。その義理立てしている主人は派手に多数と姦淫しているのだが……。

「俺なら構わんぞ。うちの生徒なら将来有望そうなのを食べてくれ」
「えぇ……」
「現状、ずっと俺が秋名についていられるわけではない。俺が嫉妬をしたら苦しむのは貴様だぞ」
「……しないわけではないのね」
「我が君、意外と嫉妬しいだとわかりましたよ」
「うるさい」

 イウディネが自慢げに言うのが腹立つ。確かにイウディネや秋名は特別だが、セックスに関して俺は博愛主義だ。チビデブガリハゲ包茎、俺は何でも愛してやるぞ!

「他には変化はないのか?」
「うーん。あ、有にずーっと抱かれててもあんまり失神しなくなったし、ちょっと怪我してもすぐ治るようになったかな」

 秋名の身体の変化は隷属による生命力、魅力の向上により起こったのだろう。秋名は淫魔ではないが、淫魔に近付きつつある。だとすれば病気になることもなく、簡単な怪我ならすぐに治ってしまうはずだ。

 しかし秋名から魅力的な精力は感じても魔力は感じられない。人間の隷属についてはわからないことだらけだ。俺は思案しながら残りのイチゴを食べた。美味い。

 そしてふと思いついた。

 春樹の病気は俺の隷属により解決するのではないかと。






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