色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第一部

23

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「なんだそれ漫画かよ……ふざけんなよ……気付いたら人間終わってるってなんだよこれ……」
「漫画ではないな」
「知ってるよもぉおおおお~~~!!」

 秋名は俺を悪魔だとなかなか認めなかったが、じゃあその胸の印の説明はどうなると指摘すると『マジか…』を十回ほど口にして頭を抱えていた。それでも煮えきらなかったので、イウディネからも自分が秋名と同じ立場なのだと説明して貰い、やっと秋名は俺の言葉を信じた。
 おかしいぞ。俺は秋名の想い人のはずなのに、秋名からの信用が圧倒的に足りていない。

「惚れた相手が悪魔で俺も使い魔みたいなもんになってるって……」
「嫌だったのか?」
「……嫌じゃないけど」

 それが一番問題だ、と秋名は体育座りをして縮こまってしまった。少し心配したが、秋名の耳が赤くなっているのに気付き、こやつ本当に俺のことが好きだな、と一層愛着が沸いてしまう。

「俺、今更だけど有を利用するためだけに抱かれたんじゃないよ」

 全て知られていてパニックになったけど、と秋名は苦い顔をしていた。

「前提として、俺が有を、……あ、ああ、愛してるってこともちゃんと知ってて欲しい」

 物凄くドモり、挙動不審になりながら『愛している』という秋名が可愛すぎて、俺は笑いを堪えるように肩を震わせてしまう。イウディネも秋名の初々しさにフッと口元を緩めた。俺がニヤニヤしながらイウディネを見ていると、イウディネは視線に気付いたらしくツンと冷たい表情に戻す。素直じゃないやつだ。

「有、笑いすぎなんだけど……」
「悪かった。秋名が可愛くてついな……」
「うるさい。……っていうか、有は俺なんかを隷属してよかったの? 俺、夏さんや会長みたいに沢山持ってないよ」

 秋名の声は諦めのようなものが滲んでいた。
 確かに夏も春樹も、家柄、成績、外見、申し分ない男達であるが、俺は秋名に興味を惹かれた。秋名のコロコロと表情が変わるところや、まわりの緩和剤になる柔軟な対応、コミュニケーション能力はイウディネの補佐にも丁度良い。

「……秋名、お前は初めて俺に会った日を覚えているか?」
「え、あぁ、転校初日?」
「そう、クラスメイト達は全員俺との性交を妄想していた」
「ブッ」

 黒板の前から見渡す面々は皆俺の顔を見た瞬間、欲情していた。それを恋や一目惚れと思う人間は多いだろう。秋名もその一人だったはずだ。

「皆、俺を抱きたい、抱かれたいと目に色欲を揺蕩わせている中、一人だけ色欲以外の欲を宿らせていたのが秋名、貴様だ」
「え、あ、そうなの?」
「皆俺を多かれ少なかれ俺に好意を持っている中、秋名だけは『こいつが好きだ、でも利用できそう!』と思ったのだ。切り替えが早くて俺はちょっと吃驚したぞ」
「うっ……バレてる……」
「興味を持った。そして追い詰めてみたら、俺を犯すどころか、俺に奉仕しようとする。その姿勢が可愛らしいではないか」

 秋名は動揺しながらも、俺に奉仕しようと決めた。その姿勢は健気で、俺好みだったのだ。痛みを堪えて必死に腰を振ってペニスを縮こませる様子も良かった。イウディネがこなかったら本当に一日中可愛がっていただろう。

「秋名で良いのではない。秋名が良いのだ」
「……うん」

 秋名が嬉しそうに頬を染めているのを見ると。胸がブワリと熱くなる。今まではイウディネにしか感じなかった感情を俺は秋名にも感じ始めていた。

「秋名、俺は貴様に利用される気満々でいるぞ? ファンクラブも秋名がやるなら面白そうだしな」
「……本当にいいの?」
「あぁ」
「嫌いにならない……?」

 そのようなことで嫌いにはならないと俺は頭を横に振る。

「じゃあ俺の八つ当たりに付き合ってもらっちゃおうかな。どっちにしても有にはファンクラブ必要そうだしね」
「俺は二人に叱られる準備だけしておこう」
「そこは上手くやろうよ」

 有ならできるでしょ? と小悪魔めいた笑みを浮かべる秋名に俺は肩を竦めて見せる。最悪二人をその場で隷属してしまえば言うことを聞かせられるだろうと俺は人道に外れたことを考えていた。まぁ悪魔なので人道から外れているのは当然とも言える。

「あ……もう二時間目終わる。戻らないとまずいね」
「何だ。俺はもう少ししたいぞ」
「俺、特待生枠だからあんまり授業サボれないんだよ」
「保健室に行っていたと言って構いませんよ」
「いいんですか?」
「貴方は私と同じ立場で、私は先輩です。助けてあげるくらいはしますよ」
「えっ!?」

 イウディネの先輩発言に驚いたのは俺だ。イウディネが先輩、不思議な響きだった。しっくりくるようなこないような。
 秋名はイウディネに御礼を言うとさっさと服に着替えてしまう。

「ウッ」

 ズボンを履いたタイミングで秋名が呻く。多分中から俺の精液が溢れたのだろう。居心地悪そうにしている秋名の横顔が引きつっていて軽く勃起した。

「じゃあ学校終わったら詳しく話聞かせて。このまんまじゃ熱出しそうだし」
「あぁ」

 秋名は着替えが終わると、俺にキスをして扉に向かう。イテテ、と腰をさすっている様子がちょっと可愛かった。
 秋名がいなくなると部屋は急に寒く感じられる。そういえば服を着ていなかったな、と考えていると俺のズボンと下着をイウディネが回収してくれていた。

「我が君、風邪を引きますよ。今は人間の身体なのですから……」

 悪魔は病気にならないが、人間の身体を使っている状態だと病気になることもあるらしい。確かに、人間の体は寒いとか暑いを悪魔の時よりもずっと強く感じる。
 俺がだるそうにズボンをつまむと、イウディネが靴下や下着、ズボンを手ずから履かせてくれる。イウディネの首に手をまわし、ベルトをつけてくれるイウディネの額に口付けた。

「早良春樹と葛山夏義はどうされるのですか? てっきりお気に入りの彼らを隷属させるとばかり思っておりましたが……」
「人間を隷属させたことがないから様子見をしておきたい。人間でなくなったはずなのに、秋名は未だ人間だった」

 秋名は隷属により俺との繋がりが強化された。人間の隷属は初めてだが、イウディネが淫魔から色欲の悪魔になったように、秋名もステージアップしている可能性がある。それを確かめてから隷属を増やすのも遅くはあるまい。悪く言えばモルモットだが、秋名なら何となく大丈夫な気がしている。完全に勘だけれども。

「……そうですね」

 イウディネは腕から頭をすり抜けさせると俺に背中を向けた。細くしなやかなイウディネの体は男の体躯に間違いない。しかしどこか頼りなさげに見える佇まいは庇護欲をそそり、思わず腕の中に収めてしまいたくなる。

「ディネ、こちらを向け」
「嫌です」
「嫉妬をしている貴様の顔が見たい」
「……」

 イウディネはこちらを向かなかった。ならせめて横に座れ、と告げるとイウディネは背を向けたまま俺の横に腰を下ろす。一つに括られた髪を指先で梳き、その髪に口付けていると、やっとイウディネはこちらを見た。美しい顔がわずかに陰っている。

「貴方にはわかりません。全てを愛する貴方に、嫉妬する男の気持ちなど」
「俺にだって特別くらいはあるぞ。ディネが兄上に触れられた時はとても嫌だった」
「え?」

 あれはイウディネが俺の教育係になった頃だ。俺がイウディネの髪が好きだと言っていたのを聞き、次兄がイウディネの髪がどれほどのものなのかと触れたのだ。

 俺はその時初めて嫉妬を覚えた。イウディネは夢魔だ。男でも女でも抱くし抱かれる生き物だ。普段は決して思わないのに、兄が触れた時だけは我慢ならなかった。イウディネの目が、気持ちが、兄のものになるなんて許しがたい。それだけの魅力が兄にはあることを俺は知っていた。

「本当に?」
「あぁ、だから隷属させた。貴様は俺のものだと、まわりに分からせたかった」

 イウディネは俺の言葉に頬を染める。切れ長の瞳のせいで冷たく感じられるイウディネの表情は急に華やかになり、悪魔にしかわからないピンク色のフェロモンが滲み出た。イウディネは俺を誘惑している。発情させようとしている。ならば主として応えねばなるまい。

「我が君、愛しております」
「ディネは永遠に俺のものだ」
「あぁ、私はなんて幸せな悪魔なのでしょう……」

 イウディネが涙を零しそうなほど目を潤ませ、頭を傾けながら俺に口付ける。唇を開けば赤い舌が俺の咥内に入り込み、甘いイウディネの魔力を味わいながら床へと引き倒した。

「服を着た意味がなかったな」
「ふふ、脱がせあうのも楽しいですよ」
「次は保健室で」
「おおせのままに」

 イウディネは俺のシャツに指をかけ、昂ぶった股間を俺の太股に押し付ける。俺はニタリと笑う。本当にここでの生活は退屈することがなくて良い。










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ここで第一部完結になります。お付き合い頂きありがとうございました。
二部、三部の続きも順次アップ致します。


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