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第一部
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しおりを挟む無事遅刻せず、何とか職員室に辿りつくことができた。
初めてきたはずなのに、漫画のような作りで馴染み深い。そこに感動を覚える。俺のクラスは3年A組であった。何やら手続きがあるらしく、俺は手をよくわからんパソコンにつながれた機械でスキャンされたり、学校の説明を延々され、それだけで疲れてしまった。
俺のクラスの担任は眼鏡をかけた男だった。無精髭が残り、どこか冴えないが二十代だという。他人の精液も愛液の匂いがあまりしないところを見ると、そうモテるタイプではなさそうだ。気が向いたら相手でもしてやろう。
俺が教室に入るとザワザワしていた教室が一瞬静かになる。見渡せば30人ほどの生徒達が俺を凝視していた。なるほど、俺の机はあれか、と空いた席を見る。
俺の後ろの席には俺と同じくらいの体型をした男子生徒が目を丸くして俺を見ていた。可愛い、というよりは格好いいと呼ばれるタイプの少年だろう。ウルフカットと呼ばれる髪型で、髪色は明るいプラチナブロンド、耳には何個も穴が空いている。スクールカーストの上位、いかにもモテそうなタイプの少年だ。ニコリと笑うと彼の頬が染まった。遊び人かと思うたが、なかなかに可愛らしい。
「静海有だ。日本に来たのは初めてだが、日本語はこのとおりだ。しかしこちらのルールについて素養がないので、よろしく頼む」
担任に促され自己紹介をすると、まわりからよろしくと声をかけられる。俺は社交用の笑顔を浮かべ、教室を見回した。皆頬が赤く、もじもじしている。どうやら俺のこの顔は人間界でも十分通用するようだ。
「えーと、じゃあ静海の面倒は委員長に……」
「はいはーい! 俺が面倒みまーす!」
「白州か……。まぁ白州なら中等部からここだし席も後ろか、じゃあ頼んだぞ」
「了解ー!」
俺が、と真っ先に手を上げたのは後ろの席の少年だ。俺は席に移動して座ると、振り返って片手を差し出す。
「静海だ。よろしく頼む」
「俺は白州秋名。秋名でいいよ。静海くん、見た目は日本人離れしてるし、ずっと外国に住んでたのに日本の名前なんだ?」
「あぁ、帰化した。母がこちらでな。秋名、俺も有でいいぞ。漢字だけだと間違われるが、ユウではなく、アルだ」
「了解~!」
この名前は俺が、設定はイウディネが考えたものだ。
秋名は俺の話をウンウンと頷きながら聞いているので、特に問題なかったのだろう。嘘をつくのは得意じゃない。ほっと胸を撫で下ろした。
(おや……?)
秋名の目は空の色だが、どうやら異物を目に入れて色を変えているようだ。あぁ、これがコンタクトレンズかと秋名の顔をじいと見つめる。
「い、今まではずっと外国なんだ!? じゃあ日本語はお母さんが教えてくれたの?」
「いや、漫画とアニメとゲームだな。故にこの喋り方が直らんのだ。許せよ」
「あはは……だから妙に高圧的な喋り方なのね。オッケーオッケー!」
秋名は人気者らしく、まわりにせっつかされながら俺を混じえて色々な話をしてくれた。俺は前々からしたかった『屋上での昼食』について問うたのだが、一般生徒にも開放されているがとある事情で一部の人間しか入れないのだと言われてしまってガッカリした。
HRが終わると、皆いそいそと移動を始める。秋名は何やら担任と話をすると、俺のもとに戻ってきた。
「この後は体力測定があるから一旦着替えないと……って体育着取りに行くのが先か。貴重品持って付いて来て」
俺は荷物をそのまま持って移動することにした。財布だけ、という生徒ばかりだったが、俺は財布の価値があまりわからない。イウディネが昔から管理してくれていたので自分で自由になる金をもったこともなかった。初体験、というやつだ。甘美な響きである。
秋名に連れられやってきたのは購買部という場所だ。聞いた時は、あぁ、漫画にあったな! と喜んだが、俺の考えている購買部とはちょっと違った。もっとこじんまりとしたものを想像していたが、この学校の購買部は敷地内にある一棟が全て購買部なのだという。
秋名は建物の中に入ると、右手曲がってすぐの窓口に向かった。そこにはジャージ、制服、シャツなどの文字が並び、秋名は学年を言うと、俺をじいと眺め、LLと窓口の女性に伝えていた。俺はどうやらLLらしい。よくわからん……。
「学生証をこの四角いところに乗せて。そんで人差し指をこっちの黒いとこにかざすの。そうそう。そうすると月末に引き落としされるから。この学校の中では基本的に現金いらないんだよね」
「なるほど」
俺は秋名に言われるまま、会員証をかざし、小さな黒い箱のような機械に指を突っ込む。そういえば今朝方職員室で指をスキャンされたのはこのためだったようだ。
俺は水色のジャージを受け取る。近くでマネキンが同じ色のジャージを着ていた。ジャージは肩に白いラインが入っており、胸から下は白い生地になっていた。SHIKIZAKAというアルファベットが背中に書かれている。下は水色だが、横に上着の方と同じ、ラインが2本入っていた。
「今日は暖かいからハーパンで良いと思うよ」
「ハーパンとは何だ?」
「ハーフパンツ、短い方のジャージ。有スニーカーは?」
「これか?」
イウディネが用意した紙袋には箱が二つ入っている。秋名が箱を開けると赤と緑のスニーカーが色違いで入っていた。なるほど俺の元の髪色とイウディネの目の色だ。
秋名はそのスニーカーを見て目をキラキラさせて騒いでいた。何でも某スポーツブランドの海外限定品だそうだ。俺はわからないので適当に相槌をうっていたが、俺がぼんやりしているように見えたらしく、お坊ちゃんなんだな~という感想をもらった。あながち間違いではない。むしろ大当たりと言えよう。
「有ってさ、モテてたでしょ。男に」
「いや」
更衣室で着替えていると、突然秋名に問いかけられた。俺はシャツを脱ぎ、秋名に勧められ、先程の店で買ったTシャツを上に着る。首が痛いな、と思っていると、秋名がタグをハサミで切ってくれた。なるほど、買ったら値札を外さなければいけないのか。勉強になる。
「え、嘘だ~!」
「男だけではなく女にもモテているからな」
「おっと~? これは予想以上だぞ~!」
「秋名も可愛い顔をしているな」
「え~? 俺、馬鹿みたいな顔してるって言われるんだけど……」
「ただの馬鹿だと思うなら、そやつらには見る目がないのであろう。秋名はもっと賢く、美しい生き物だろう?」
「……」
ジャージにはタグがなかったのでそのまま着る。
ふと、秋名を見れば俯いて何やら考え込んでいる風であった。
その横顔が気にかかり、俺は首を傾げる。
おやおや、と俺は口の端を持ち上げる。秋名の瞳にはチリチリとくすぶるような俺好みの火が灯っていた。
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