色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第一部

4※ 有×春樹 春樹視点

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 早良春樹にとって生というものは苦痛でしかなかった。
 小さな頃から走るだけで心臓が痛み、酷いと意識を失ってしまう。運動神経が悪いわけではなかったから、まともに運動もできない身体は不便極まりなかった。実家が経営する大きな病院に何度も入院し、窓から眺める景色がいつまでも遠くて、寂しかった。

 中学になってからは学校にも通えたけれど、体育は全部見学ばかりだった。自分が人間のなりそこないのように思えて嫌になる。
 やっとできた友人も春樹に『頼ってね!』と気を使う。それも嫌で嫌でたまらない。
 唯一気の置けない幼馴染だった少年とは、最終学年の時、色々あって疎遠どころか険悪な仲になってしまった。彼は春樹とは全く逆のタイプで、健康な体を持つ彼はいつも人に囲まれていて、羨ましかった。

 高校に入ると、なぜか自分にファンクラブというものができた。見た目は儚げな美少年、趣味はヴァイオリン。一年時から生徒会役員だったのもあって目立っていたからだろう。

 生徒会役員になったのは教師から大学に行くための内申点の補填のために勧められただけで、別段春樹がしたかったわけではない。けれどしてみると学校の行事を主体になって動かすのは楽しかった。人に頼られることが嬉しくて、憧れの視線に気分が良くなった。あぁ、俺も人に囲まれている。求められている。それは春樹にとって麻薬のようなものだった。

 地域開発が進む四季坂町に出来た巨大な高等学校は駅から少し距離があるため全ての設備が学園内に整えられている。金持ちの子息しかいないこの学校は不祥事がないよう、女性が入り込む隙はなく、養護教諭も男性だ。

 閉鎖された男ばかりの環境で、発散されぬ性欲は同性に向けられることも多く、春樹も何度か同性と付き合い、それなりの経験をつんでいる。皆付き合うと春樹に女役をやらせたがったが、春樹の心臓は他人の行動に影響を受けすぎる。相手に昂ぶられて無理矢理ことを進められたら春樹は最悪死んでしまう。そのため自分で調整できる男役しかしたことがなかった。

 最初は楽しかったこの触れ合いも最近は飽きてしまった。憧れが全て媚に見えるようになって、そう見えるようになった自分が痛々しく感じた。

 次第に事務的な対応しかしなくなった春樹のまわりには、生徒会のメンバーばかりが集まるようになった。そのメンバーだけは春樹も頼ってくれるのが嬉しくて残していた。

 しかし三年になり、生徒会長になっても心は冷めていくばかりだ。騒ぎ立てられるのも嫌になってきた。人と関わらずにいれば落ち着くと思った人気は、生徒達に高嶺の花のような高級感を感じさせ、より高まった。それが一層、春樹をうんざりさせる。

「ねぇ、君四季坂の子だよね? 早く行かないと遅刻してしまうよ?」
「ん? いや、行きたいのはやまやまだが、ここがどこなのかさっぱりわからん」
「……!」

 そんな時、鬱蒼とした気分を一瞬で取り去ってくれるような美しい少年に出会った。
 朝、学校ではなく反対に向かって歩いていた不思議な少年。最初はサボりかと思って声をかけた。しかしその美しい瞳に、息を呑んでしまった。

「……君は、見たことがないな。転入生?」
「そうなのだが、このままで一生学校にたどり着ける気がしない」
「乗せていこうか?」
「おぉ! いいのか? すまんな」

 だから、彼を拾ったのは本当に気まぐれだった。珍しい色の、宝石のような瞳がこちらを向いたらどうなるのだろうと思ったちょっとの好奇心。変な口調も痛々しさを感じるはずなのに、春樹には目新しさを感じさせる。朝から病院で気が滅入ったから、良い気晴らしになると思った。

「俺は静海という。静海有だ。日本ではない別の国からきた」

 彼の名は静海有といった。春樹を真っ直ぐ見つめ、不躾に眺めることもあったが不快な気持ちにならない不思議な少年だった。
 他愛もない話をしているうちに、車はあっという間に裏門についた。少し時間が足りなかったな、と春樹は久々に他人との親交に物足りなさを覚えた。まぁ、また後で会えるだろうと考えていた矢先、有は礼だと言って春樹にキスをした。行動が急すぎて、さすがの春樹も面食らってしまった。

「これで少々体調が良くなるはずだ。世話になったな」
「ちょ、し、静海くん?」
「内緒だぞ」
「……これだけ?」

 思わず催促の言葉が出てしまい、自分でも驚いた。しかし有は嫌な顔どころかフッと息を零して笑うと春樹の腰に手をまわした。有の唇は心地良く、長い舌に咥内を犯されると堪らなかった。気づけば運転手は察して外に出ている。長い間春樹の送迎を行ってくれていたせいか、察しが良いのだ。

「っはぁ……っふ……んぅ……」
「ふ……愛らしいな」
「え? あっ」

 有の手がズボンに向かったのは焦ってしまった。別にいやらしいことができないわけではないが、今日は朝から心臓が痛くて病院に行ったばかりだった。この状態で射精すると絶対に心臓が痛む。経験則だ。

「こっちは駄目だよ静海くん。僕は心臓弱いから……」
「大丈夫だ。ほら、集中しろ」
「ひっ、あっ、ああっ」
「なんだ。布の上からだぞ? 敏感だな、春樹」
「おか、おかしっ……あ、ぐっ……ち、くび痛っ……」
「これは痛いのではないと思うぞ」

 有の指先がつぅとズボンの上から陰茎をなぞる。それだけで陰茎は硬く膨れ上がった。シャツの上から胸の先端をこねられ、腰がうずいて仕方ない。もっともっとと勝手に脚が開く。

「く、ひっ、あ、も、イ、く……っ!」
「構わん。駄賃だ」

 布を押し上げていた硬い陰茎が、扱かれるたびに熱く熱く膨れた。耳を舐められると、ゾクゾクと背筋が震えて涙が出る。心臓が高鳴るのに不思議と痛みはない。心地良すぎてイキたいのにイキたくなくなる。快楽しかここにはなかった。
 あぁ、でももうイキたくてたまらない。太腿を震わせ、春樹はあっけなく射精した。

「助かった春樹。ではまたいずれな」

 春樹が惚けているうちに、有はバッグを持って車を降りていく。悔しいことに、有の下半身には少しも違和感がなかった。こちらは下着もズボンもぐしょぐしょになっているというのに……。

「ごめん、先生に今日は午前中は休むと伝えて。家に一度戻る」
「かしこまりました」

 窓から運転手に声をかけ、春樹はフゥと車の中で息を吐く。どうせ体力測定で午前中は潰れるから自分が出席する意味は殆どない。握力測定や長座前屈だけあとで測らせてもらえば良い。

(気持ち良かった……)

 こんな快感は初めてだった。胸の痛みもなく、ただ指でなぞられただけで勃起するなんてどんなテクニックなのだろう。もし彼に直で触れられたら自分はどうなってしまうのか。あぁ、抱きたい。静海有。いや、自分が女役でも良い。彼となら今までできなかった最高のセックスができるかもしれない。ただただ求められ続ける、抗えない行為。それは春樹にとてつもない魅力を感じさせた。

「静海、有……」

 名前を呼ぶとドクンと春樹の欠陥品が大きく跳ねる。そこに痛みはなかった。




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