色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第一部

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「これを」
「何だこれは」

 イウディネに差し出されたのは金色の腕輪だ。幅数ミリほどの輪が三つ連なっている。よくよく見れば、人間なら肉眼では確認し得ないほど小さな文字で封印の呪文が書き込まれていた。

「制御装置です。我々悪魔の能力は人間とは比較もできぬほど強力ですので、制御させて頂きます」
「封印の魔道具か……」
「左様です。私はピアスとしてつけております」

 イウディネは耳についた金色のピアスを指差す。この腕輪ほどではないが、かなり制御されているようだ。
 すごい、と俺は素直に感嘆する。俺達悪魔は制限をつけられることを嫌う生き物だ。イウディネもそれなりに辛いはずだろうが、それをおくびにも出さない。

「さぁ、どうぞ我が君もつけてください」
「……」

 俺はとても嫌そうな顔をしたが、イウディネはツンと冷たい美貌を崩さなかった。どうやらこれをつけないと登校を許してもらえないようだ。日本の漫画に影響を受け、高校生になってみたいと我儘を言ったのは自分なので、仕方ないとイヤイヤ腕につける。

「!」

 急にガクンと身体が重くなってしまい、歯を噛み締める。しかしその直後、不思議なくらいすぐに違和感が消え、だるい程度に落ち着いた。
 まるで少年漫画のパワーアンクルのようだ、と思うと急に格好良いもののような気がして気に入った。いつか強者が出たらこれを外して威嚇してみたいものである。(しかしドスンと地面にめり込むことはなさそうである)

「身体がだるいな……どれくらい制御されている?」
「おおよそ十分の一ですが、それでも我が君の力は強力です。常に身につけていてください」

 この腕輪により、俺の能力は殆ど使えなくなってしまう。
 俺がお遊びでよく使う、一目見ただけで発情し自慰を誘発する『慰めの誘い』も、初物を痛みなく絶頂させる『床上手』の能力も使えないのだという。一番嫌だと思ったのは空を飛べなくなることだ。あれは文字通り羽根を伸ばす行為なので、できないと考えるだけで窮屈に感じる。
 それ以外の簡単な魔法『アナライズ』や『誘惑』『快感増幅』、あと治癒系だけは大丈夫らしい。しかし人の目があるところで傷を治すようなことはするなときつく言いつけられた。

「力が暴走すると腕輪が壊れ、魔力が抑えきれず今着ている人間の身体を破る可能性もあります。十分ご注意ください。劣化版とはいえ我が君に似たご尊顔が壊れるところなど、見たくはありませんからね。あぁ、それと人間の肉体のステータスは初期値になっております。今朝のうちに平均的なものになるようステータスを割り振ってください。使い方をお教え致します」

 イウディネの言った通り、俺達の身体は人間になっている。正確には悪魔の身体の上に、人間の肉体を上にかぶっているような状態だと思って欲しい。

 さらにわかりやすく言うなら仮性包茎のような状態だ。
 常に人間の身体(皮をかぶっている状態)ではあるが、魔力が増幅(勃起)すると、皮が剥けて中身がでてきてしまう。しかし腕輪の制御があれば俺の魔力は抑えられ、人間の身体のまま、俺の身体に備わった能力や残った魔力をなじませることができるらしい。

 ……うむ。色欲の悪魔らしい例えができた気がするぞ。
 ちと無理があった気もするが。

 人間の身体は作るのに時間がかかる。作るのに一ヶ月、慣れるのに一週間かかった。
 現在は初期値(最大値)なので、人間としての限界まで活動ができる。普通の人間なら持てぬグランドピアノを担ぎ上げる程の能力値になっているが、勿論このまま生活したのでは悪目立ちしてしまう。人間界に潜む悪魔がいるかもしれないし、できるだけ目立つのは避けたいのだ。大事にしよう、と俺は優しく腕輪を撫でた。いいこいいこ。

「ステータスのモニターは道すがら適当に見繕えばいいのか?」
「恐れながら、ステータスは一度決めると振り直しがききません。道を歩く人間が『普通』であるかも判断しかねます。学院の学生を見てご検討ください」
「わかった。一考する」
「ありがとうございます。必要なものは玄関にありますので忘れずにお持ちください。それではお先に失礼致します。あぁ、出る時は鍵をかけるのもお忘れなく」
「ディネ、貴様こそ忘れ物を取ってから行け」
「……はい」

 イウディネは俺の唇に唇を重ねた。いってらっしゃいのキスだ。
 俺は触れたイウディネの唇から俺へと魔力が注ぎ込まれているのを感じて笑みを零す。腕輪を付けて倦怠感を感じている俺への労いのつもりだろう。なかなかどうして、盲目な従者は俺に甘く、可愛らしい。

 俺はイウディネが出ていくと、こっそりパンケーキを持ってテレビを見ながら朝食を食べる(普段は行儀が悪いと怒られてしまい、させてもらえんのだ)

 占いとよくわからないジャンケンというゲームをし終わったら、いよいよ学校に行く準備だ。歯を磨き、すっきりした気持ちで揃えられた靴を履く。忘れずに部屋に鍵もかけた。(しかし皿をリビングのローテーブルに置いたことを忘れてしまい、帰ったら大目玉を食らった)

「さて、行くか」

 俺の初めての学校生活が始まる。何も問題などない。
 イウディネから道は聞いている。わりと近いのだともわかっている。
 確か駅から北、つまりマンションから本当にすぐだ。
 そう、すぐ。のはずなのに、俺は一向にたどり着けず迷ってしまった。

「うーむ。どこだここ」

 しまった。いつもマッピングで地図を見ながら飛んでいたから、移動が全然上手くできない。しかも能力を制限されていてマッピングが使えない!

 これでは本当に遅刻だ。イウディネに怒られてしまう……!






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