自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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「その公園の木に、皆川の首吊って殺した」
 それはつい最近の話だという。もしかすると、飛鳥の見た殺人現場というのはあながち間違いではなく、実の兄が親友を殺害している場面を目撃していたのかもしれない。もう一人の自分として、再びそこに来た時にその死体を発見したのだろう。
「そのときの子供が明香ちゃんなのか?」
 いまだに信じられないといった表情を浮かべる赤坂に、冊子を投げつける。
「母子手帳?」
 そこには『香川明香』と、記されている。慌ててそれをめくる。確かに、皆川が彼女を犯したという時期から考えると少し早いが、早産だったと言われれば納得できる月日が明記されている。
「あすかって名前になんの因果があるんだろうな俺たち」
「…そんなこと、俺に聞かれても知らないよ。なんで、お前が母子手帳なんて持ってんだよ」
「あの日、お前と別れてすぐに、船本の家に行ったんだよ。明香ちゃんの父親は誰かって尋ねた。知ってたけど、船本から直接聞きたかったんだ。船本も言いにくそうにしながら、皆川だって…なんでそんな子供産んで、皆川の葬式にも来てんだって問い詰めた。子供に罪はない、おかげで明香に会えたって思うようにしたら許せたって言ってた。意味がわからなかった」
 誰かが訪ねてきたことに嬉しそうに玄関に駆けてくるその姿を見ると、言い知れぬ怒りの感情が込み上げてきた。大人を獲物として見てきた瞳が初めて子供を捉えた瞬間だった。
「首絞めたらすぐに死にやがった…」
「…船本は?」
「狂ったように叫ぶから、スタンガンで気絶させた。寝室に運んで起こして、何度も犯して、その後に殺した。結構デカかったなあ」
 業務報告のような事務的な声で淡々と話していく。全て話し終わり、手を何かを掴むような形で動かすと、下品な笑顔を浮かべていた。
「…もう一つ聞かせてくれ」
「ああ」
「酒井啓太さんは、なんで死体が見つかったんだ? この映画の死体になってる人は、皆川と彼以外はほとんど発見されてないだろ」
「そりゃ、お前を呼び寄せるための餌だからな。他の死体は、撮影用だから、それが終わればきちんと処分したから見つかることはない。そうだな、良いこと教えてやるよ。酒井さんって人の死体だけは、毎日流してたんだ。お前が来る日までな」
 ニヤリと笑う。
「な、なんで」
「飛鳥のためだよ。お前は船本だけじゃなく、飛鳥のことも傷つけたからな。俺の大切な女は全員お前が傷つけた。お前とその坂井って人の母親の関係は知ってたから、絶対になにかしら動くって思ってた」
「最初から仕組まれてたのかよ」
「映画を撮るきっかけはそんなことじゃないけどな。だんだん目的が変わっていったんだよ。まあ、目的が変わるのも織り込み済みだったのかもしれないけどな」
「桜井…」
「なあ、もう話すことはないし、そろそろ良いよな? 明日の首吊りシネマの方が豪華になるかもな。仲の良い叔父と甥の末路とか面白そうじゃないか」
「は、速水さんは…」
「さあな。お空の上でお前のこと待ってんじゃないか」
 既に力の抜けていた赤坂を押し倒す。形成逆転になったら体勢で、その腹にスタンガンを押し当てる。気を失った赤坂を視界に入れて口角をあげた。
 座席の下に隠していたボストンバックを引っ張り出す。中からロープを取り出した。
「でも、撮影する人間がいないんだよなあ…」
 スクリーンを見ながら、切なく笑った。その手には二本のロープが握られている。
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