自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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「首吊り死体を見るだけで、それだけで救われた気持ちになるんだ…お前にはこんな気持ち、わからないだろうけどな」
「…ああ、わからない」
「そうだよな…」
 自虐的に笑う。そんな姿に、赤坂は胸ぐらを掴む力を緩めた。
「…皆川は本当に自殺なんだよな?」
 赤坂は話を変えた。
「自殺してるのを見つけたのは飛鳥だろ」
「皆川も、お前がやったのか?」
「船本の娘の明香ちゃん…父親誰か知ってるか?」
 声のトーンを落とす。
「な、なんでいまそんなこと」
「今だからだよ。普通、察するところだろ」
「まさか、皆川なのか?」
「あぁ…」
 悔しさに耐えるように、目を閉じる。
「でも、船本結婚してるんだよな?」
 苗字も変わって子供もいるとなると、誰もが結婚していると思うはずだ。桜井は首を横に振る。
「卒業してから、両親が離婚して母親の戸籍に入って苗字が変わったらしい」
「そ、そうなのか」
 自分以外の人間の生活も平坦ではなかったことを知る。自分だけがこんな目に遭うんだと嘆いていたことを恥じた。
「じゃあ、未婚のまま子供産んだのか…なんで二人は結婚しなかったんだ?」
「たまたま皆川に会った時に、飲みに行ったことがあったんだ」

 久しぶりの再会を祝し、二人は次々とお酒を注文しては胃に流し込んでいった。元々酒に強いタイプではなかった皆川が酔うのは時間の問題だった。桜井がこれ以上は危険だと察し、皆川の注文をソフトドリンクに切り替えた。酔っている舌では酒とも区別がつかず、機嫌よくウーロン茶を口にしながら、よく喋る男はますます饒舌になっていった。
「本当、久しぶりだなあ…赤坂は元気してんのかな」
「そうだな」
「というか、お前、サラリーマンしてんのかよ。フリーターの俺の手の届かないとこに行きやがって」
 酔っ払いそのものの口調で捲し立てる。笑いながら聴き役に徹していた。しかし、そんなヘラヘラした桜井に腹が立ったのか、皆川の態度が一変した。
「お前さぁ、俺のこと馬鹿にしてんだろ」
「してないよ。今日はそろそろ帰ろう」
 流石に面倒になってきたのか、着ていた上着を渡す。だが、皆川はそれを払い除ける。
「うるせえ。俺に指図すんじゃねえよ。本当、どいつもこいつもムカつく奴らばかりだなっ。船本もよぉ」
「えっ? ふ、船本?」
 目の前の酔っぱらいから、かつて好きだった相手の名前が飛び出し、どきりと胸が跳ねるのがわかった。
「卒業した後に、偶然会ったんだよ。飯食いに行ったんだ。まだ未成年だから酒はダメだって言われたけど、まあ、俺は飲んだわけ。向こうも仕方ないって感じでさ…高校生の時から、変わらないね、って。馬鹿にしてんのかって話だよな」
 皆川の話は要領が掴めない。しかし、目の前の酔いどれが、愛する船本と食事に行った、この事実だけでも頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。ずっと耳鳴りがしていた。その後に衝撃的なその言葉を聞くまでそれは治らなかった。
「あいつさ、眼鏡外すと、結構良い女なんだよ…介抱してもらうふりしてホテル連れ込んで、やっちゃった。バカにした罰だよな」
 下品に笑いながら話す言葉は、耳の奥で響いた気がした。嫌だと抵抗する船本を無理矢理に犯したことを自慢げに語っている。親友だったはずの男が一瞬にして憎々しい悪魔に感じた。
 だらしない笑顔で話し続ける皆川を尻目に、頭の中ではこの男の殺害計画を練っていた。こんな奴でも、首吊りで美しく逝かせてやろうか。
「そんときにできたガキ、産んだって噂で聞いてさ…バカなんじゃないかって思ったよ。いつ、父親になれって言われるかと思うと、怖くてさ。ほんと、バカにしてんじゃねえよって話だよな」
「バカにしてんのはお前の方だよ…」
 腹を殴り気絶させる。居酒屋という場所で倒れたとしても、酔い潰れた友人を甲斐甲斐しく面倒見る友人という演技ができる。
 大丈夫かと、わざとらしく心配しているふりをし、皆川の体を抱える。
 店員に呼んでもらっておいたタクシーに乗り込み、近くの公園で降りた。
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