自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 肩に手がかかる。軽くかけられたそれは妙に重たく感じた。壊れたロボットのような動きで振り返る。
 赤坂の手に握りつぶされた写真に写る男と同じ笑顔を携えた、桜井が立っている。
「あ、ああ。お前もか?」
「んー? まあな」
 桜井はニヤリと笑う。映画を見にきたわけではないことはわかる。では何故ここにいるのか。そんな考えをシャットダウンし、桜井の笑みに、曖昧に笑うしかなかった。
 距離を取ろうと足を動かす。あまりにも動揺しているからか、後ろに倒れそうになり、チケットカウンターに手をついた。ふと、ガラス窓を見ると、女性の不思議そうに二人を見つめる二つの瞳と視線がかち合う。
 桜井は小さく息を吐く。
「ああ、ごめんね。この映画のチケット、大人二枚くれる?」
「あっ、はい」
 二人分の料金を支払う桜井にチケットを2枚手渡す。
 いまだに赤坂の手はカウンターにのせられたままだ。力がこもっているのか震えているのがわかる。全身からは嫌な汗が噴き出している。
 チケットを手にした桜井に、行こうぜと声をかけられ、肩を掴まれると、何とか体勢を元に戻す。
 その瞬間、速水の言葉を思い出した。考えないようにしていたことが脳裏に蔓延る。
ーーすべて彼女が一人でしたことなのかな。女性が大人の男を殺害して、首吊りに見せかけるために、ロープで吊り下げるなんてできるとは思えないんだ。
 共犯者がいると、速水は感じていた。しかし、その相手の目星はなく、話もうやむやのもままに終わった。
 赤坂からしてみれば、誰だと思うと聞かれたら、多分あいつだと思うと答えることができるぐらいの憶測はあった。それを速水に言わなかったのは、目の前でニヤニヤと笑う桜井のことを疑いたくなかったからだ。
「一緒に見ようぜ。首吊りシネマ…今日はこの映画始まって以来の傑作だからな」
 赤坂にしか聞こえないように、口を耳元に近づける。耳に生温い吐息がかかる。
「あ、あぁ」
 その場から立ち去りたくても、肩をしっかりと掴まれているため、逃げることができない。
 何故今日の内容を知っているのかなどと思える余裕はなかった。ただ、桜井に付き従うようについていくことしかできなかった。
 古めかしい扉を開き埃っぽい上映室に入っていく。
「誰もいないな。今日は貸切かよ」
 確かに自分達以外の観客はいない。
「そ、そうだな」
「ま、ゆっくり楽しめそうだから良いけどな」
 やはり、桜井は笑顔を浮かべながらスクリーンの見やすい位置に腰を下ろした。
「楽しみだな?」
「あ、ああ」
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