48 / 57
48
しおりを挟む
この恋愛が、いかに飛鳥にとって深いものだったのか、思い知らされることになったのは、それから何日も経たない日のことだった。
ーー赤坂さんに会ったの!
ある公園に行ったのだという飛鳥に話を聞いた。そこで苦しそうに横たわる赤坂を見たのだという。
起こしてはいけないと思い、接触はしなかった。
でもね、と明らかに動揺している飛鳥に桜井は優しく聞き返した。
ーー公園で殺人事件が起きて…
「まさか、明日香がやったんじゃないかって思ったけど、目撃者多数で、男の犯行だったからな」
しかし、何故彼女が住んでる場所から離れているその公園に行ったのかは聞いていない。引っ越す前にも一度も行ったことはなかったはずの公園だ。そんな場所にたまたま行って、たまたま赤坂に出会う。そんな偶然があるのか。桜井は初めて飛鳥におぞましいものを感じ身震いをした。
いや、と脳裏に浮かんだ感情に思わず快楽を感じた。
飛鳥を利用することをその時初めて思いついたのだ。
「飛鳥を使えば、父さんと母さんのような死体を作り出せるし、あいつを地獄に落とすこともできるって考えたのは、ある意味正解だったな」
そんな回想をしていると不意に家の電話が鳴る。
相手は二人の叔母だった。飛鳥の居場所を刑事に聞かれて答えてしまったことを詫びる内容だった。
飛鳥は居場所を突き止められたから捕まったわけではない。あいつが…赤坂が飛鳥の心を開いて、別の人格ともども二人の彼女を救ったのだ。飛鳥は自ら警察に出頭した。
ため息をついた。
「大丈夫。叔母さんのせいじゃない。それに俺もそろそろケジメをつけないとって思ってたから」
ケジメって何! と叫ぶ叔母の声を耳の奥に残しながら、桜井は受話器を置いた。
「さよなら、叔母さん」
※
ある日の午前中、速水は坂井の自宅に行くことになった。赤坂は、どうしても首吊りシネマがどうなっているかを確認したく、映画館に向かうことになった。空になった事務所は、こういう時のためにと契約しているスタッフに来てもらっている。
「何かあったら、僕か赤坂くんに連絡してね」
事務所を出て二人はそのまま別に道に歩き出す。
「じゃあ、坂井さんに真実を伝えてくるよ。正也が頑張ってくれたこともちゃんと話すから」
「うん…俺も行ってきます」
背中に気の重たさを感じさせる速水の後ろ姿を見送ると、自分も目的地に足を運び出す。テレビで報道されて、映画はどうなっているのか。映画館の存在が消えてしまっているかもしれない。いろいろな想像が頭を駆け巡る。
飛鳥が捕まってから、左目の痛みは消えた。たまに石でも入ったかのようにゴロゴロとする違和感はあったが、そこまで気には留めていなかった。火傷をしているのだから、右目のように普通の状態ではないのは確かだ。
そうこう考えながら歩いていると、映画館に着いた。思えば近い場所だな、と何年振りかにきたような錯覚に陥る。そこにまだGORAKUは毅然として建っている。
上映している映画のポスターが掲示板に貼られている。赤坂は、愕然とした気持ちを隠せなかった。
「首吊りシネマ、上映中…まだやってるのかよ」
ーー赤坂さんに会ったの!
ある公園に行ったのだという飛鳥に話を聞いた。そこで苦しそうに横たわる赤坂を見たのだという。
起こしてはいけないと思い、接触はしなかった。
でもね、と明らかに動揺している飛鳥に桜井は優しく聞き返した。
ーー公園で殺人事件が起きて…
「まさか、明日香がやったんじゃないかって思ったけど、目撃者多数で、男の犯行だったからな」
しかし、何故彼女が住んでる場所から離れているその公園に行ったのかは聞いていない。引っ越す前にも一度も行ったことはなかったはずの公園だ。そんな場所にたまたま行って、たまたま赤坂に出会う。そんな偶然があるのか。桜井は初めて飛鳥におぞましいものを感じ身震いをした。
いや、と脳裏に浮かんだ感情に思わず快楽を感じた。
飛鳥を利用することをその時初めて思いついたのだ。
「飛鳥を使えば、父さんと母さんのような死体を作り出せるし、あいつを地獄に落とすこともできるって考えたのは、ある意味正解だったな」
そんな回想をしていると不意に家の電話が鳴る。
相手は二人の叔母だった。飛鳥の居場所を刑事に聞かれて答えてしまったことを詫びる内容だった。
飛鳥は居場所を突き止められたから捕まったわけではない。あいつが…赤坂が飛鳥の心を開いて、別の人格ともども二人の彼女を救ったのだ。飛鳥は自ら警察に出頭した。
ため息をついた。
「大丈夫。叔母さんのせいじゃない。それに俺もそろそろケジメをつけないとって思ってたから」
ケジメって何! と叫ぶ叔母の声を耳の奥に残しながら、桜井は受話器を置いた。
「さよなら、叔母さん」
※
ある日の午前中、速水は坂井の自宅に行くことになった。赤坂は、どうしても首吊りシネマがどうなっているかを確認したく、映画館に向かうことになった。空になった事務所は、こういう時のためにと契約しているスタッフに来てもらっている。
「何かあったら、僕か赤坂くんに連絡してね」
事務所を出て二人はそのまま別に道に歩き出す。
「じゃあ、坂井さんに真実を伝えてくるよ。正也が頑張ってくれたこともちゃんと話すから」
「うん…俺も行ってきます」
背中に気の重たさを感じさせる速水の後ろ姿を見送ると、自分も目的地に足を運び出す。テレビで報道されて、映画はどうなっているのか。映画館の存在が消えてしまっているかもしれない。いろいろな想像が頭を駆け巡る。
飛鳥が捕まってから、左目の痛みは消えた。たまに石でも入ったかのようにゴロゴロとする違和感はあったが、そこまで気には留めていなかった。火傷をしているのだから、右目のように普通の状態ではないのは確かだ。
そうこう考えながら歩いていると、映画館に着いた。思えば近い場所だな、と何年振りかにきたような錯覚に陥る。そこにまだGORAKUは毅然として建っている。
上映している映画のポスターが掲示板に貼られている。赤坂は、愕然とした気持ちを隠せなかった。
「首吊りシネマ、上映中…まだやってるのかよ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
魔女の虚像
睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。
彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。
事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。
●エブリスタにも掲載しています

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。
どんでん返し
井浦
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる