自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 この恋愛が、いかに飛鳥にとって深いものだったのか、思い知らされることになったのは、それから何日も経たない日のことだった。
ーー赤坂さんに会ったの!
 ある公園に行ったのだという飛鳥に話を聞いた。そこで苦しそうに横たわる赤坂を見たのだという。
 起こしてはいけないと思い、接触はしなかった。
 でもね、と明らかに動揺している飛鳥に桜井は優しく聞き返した。
ーー公園で殺人事件が起きて…
「まさか、明日香がやったんじゃないかって思ったけど、目撃者多数で、男の犯行だったからな」
 しかし、何故彼女が住んでる場所から離れているその公園に行ったのかは聞いていない。引っ越す前にも一度も行ったことはなかったはずの公園だ。そんな場所にたまたま行って、たまたま赤坂に出会う。そんな偶然があるのか。桜井は初めて飛鳥におぞましいものを感じ身震いをした。
 いや、と脳裏に浮かんだ感情に思わず快楽を感じた。
 飛鳥を利用することをその時初めて思いついたのだ。
「飛鳥を使えば、父さんと母さんのような死体を作り出せるし、あいつを地獄に落とすこともできるって考えたのは、ある意味正解だったな」
 そんな回想をしていると不意に家の電話が鳴る。
 相手は二人の叔母だった。飛鳥の居場所を刑事に聞かれて答えてしまったことを詫びる内容だった。
 飛鳥は居場所を突き止められたから捕まったわけではない。あいつが…赤坂が飛鳥の心を開いて、別の人格ともども二人の彼女を救ったのだ。飛鳥は自ら警察に出頭した。
 ため息をついた。
「大丈夫。叔母さんのせいじゃない。それに俺もそろそろケジメをつけないとって思ってたから」
 ケジメって何! と叫ぶ叔母の声を耳の奥に残しながら、桜井は受話器を置いた。
「さよなら、叔母さん」
      ※
 ある日の午前中、速水は坂井の自宅に行くことになった。赤坂は、どうしても首吊りシネマがどうなっているかを確認したく、映画館に向かうことになった。空になった事務所は、こういう時のためにと契約しているスタッフに来てもらっている。
「何かあったら、僕か赤坂くんに連絡してね」
 事務所を出て二人はそのまま別に道に歩き出す。
「じゃあ、坂井さんに真実を伝えてくるよ。正也が頑張ってくれたこともちゃんと話すから」
「うん…俺も行ってきます」
 背中に気の重たさを感じさせる速水の後ろ姿を見送ると、自分も目的地に足を運び出す。テレビで報道されて、映画はどうなっているのか。映画館の存在が消えてしまっているかもしれない。いろいろな想像が頭を駆け巡る。
 飛鳥が捕まってから、左目の痛みは消えた。たまに石でも入ったかのようにゴロゴロとする違和感はあったが、そこまで気には留めていなかった。火傷をしているのだから、右目のように普通の状態ではないのは確かだ。
 そうこう考えながら歩いていると、映画館に着いた。思えば近い場所だな、と何年振りかにきたような錯覚に陥る。そこにまだGORAKUは毅然として建っている。
 上映している映画のポスターが掲示板に貼られている。赤坂は、愕然とした気持ちを隠せなかった。
「首吊りシネマ、上映中…まだやってるのかよ」
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