自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 当分桜井の回想、現在が入り乱れます。

 桜井は目を開く。眩いばかりの笑顔だと錯覚しそうになるが、今自分は一人だ。目を閉じていたからか、一層眩しく感じた。
「あいつに会わなきゃよかったんだよ」
 桜井も、高校生になった時、新しく友達ができた。それが赤坂だった。中学までは校区の関係で違う学校に通っていたが、家が意外と近いということがわかり、互いに行き来する仲になった。
 赤坂が桜井の家に来る時、廊下で飛鳥に会うこともあった。軽い挨拶程度だったが妹がただならぬ感情を抱いていることは、人の色恋沙汰に鈍感な桜井でさえ気づいていた。
 その時は、別にそれを良しとしなかったわけではない。
 むしろ、恋愛をしていることで、飛鳥は安定していたし、今までよりもはるかに笑うようになった。色々な環境が変わったからではあるが、その要因の一つである赤坂の存在に深く感謝していた。
「あいつに…そうだな、あいつと妹の明日香ちゃんにあったのが運の尽きというかなんというか」
 桜井の今いる場所は、明日香と二人暮らしをするために借りた小さな一軒家だ。
 テーブルの上には、ぽつんと灰皿があり、その上にはライターが置かれている。桜井も飛鳥もタバコは吸わない。
「父さん、形見をあんな形で使ってごめんな」
 父親が愛用していたオイルを注入して使うタイプのライターの火をつける。
「こんな小さな火で、家が燃え尽きるんだもんな」
 揺れる炎の先を見つめる。
 飛鳥に再び別の人格が生まれたことは、見ただけで分かったし、何か嫌なことがあると、彼女のものではない怒声が響いたり、幼い子供のように駄々をこねたりすることが増えたからだ。
 桜井は、飛鳥を問い詰めた。飛鳥ではない誰かの声で、その原因が明らかになった。
 赤坂の妹である明日香が飛鳥の好きな赤坂の悪口を言ったり、自分より彼に近い存在だということに怒りや嫉妬を感じたという。最初こそ、くだらない恋愛話だな、と思っていた。しかし、飛鳥ではない人格の言葉があまりにも悲痛だった。
「赤坂の存在が、そんなにも飛鳥にとって大切だったなんてな」
 だから唆してみた。飛鳥にこのライターを渡した。どう使うかはお前次第だよ、と耳打ちをした。
 飛鳥は、それで赤坂の家を放火した。どういうつもりだったのかはわからない。下手をすれば、赤坂まで死んでしまう可能性がある。別の人格が行ったのかもしれないし、飛鳥にとっても、それでもよかったのかもしれない。ライターを渡した時点で、そうなることを望んでいなかったと言えば嘘になる。自分も彼のことを殺したいぐらい憎んでいたに違いないのだから。
 赤坂はただ一人生き残った。飛鳥を尾行していた桜井は、顛末を全て見て知っていた。
ーー明日香ちゃんは死んだのかな
 妹を闇に陥れた元凶は死んだをそう思うと胸がすいた気がした。 
 生き残った赤坂も孤独に贖うことなどできやしない。きっとすぐにおっ死んでしまうだろう。ワクワクとしている自分に気づく。
 赤坂の死を望むのとは少し違う。
 ふと、あの時に見た両親の首吊り死体を思い出した。
 それを見たくて見たくてどうしようもなかった。
 桜井は、毎日のように、赤坂の家だった場所を訪れた。
 行くあてもなくその場にとどまる赤坂を、口角を上げながら見つめていた。
 生き地獄を味わった後に、それでも救われずに死んでいけばいい。そう思いながら、焼け跡を呆然と見つめる赤坂を睨みつけた。
 度重なる不幸が桜井たち兄妹に降りかかったのは事実だが、赤坂は何も悪くない。ただ、何かのせいにしたかった。
「…死ねばいいとも、助かってほしいとも思ってた」
 何日経過しただろう。赤坂を一人の男が訪ねてきた。そして、二人はその男が乗ってきた車に乗り込んだを
 心の奥底を、彼が助かったかも知れないという不思議な安堵感が占めた。
 首吊り死体を見たかったという気持ちもあるが、やはり自殺という生易しい死に方では、飛鳥も報われないだろう。これからも赤坂には生き地獄を味合わせることもできる。
 赤坂が謎の男に連れて行かれてからは、桜井もこの場所に来ることはなかった。飛鳥を連れて、今度は本当に県外に拠点を移し、今のこの家を借り二人で暮らすことを決めた。叔母も着いてはいけないが、仕送りで二人を支えてくれていた。
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