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次の日、桜井は一人のされた家のソファに身を投じていた。あの時も、一歩間違えたら一人になっていたかもしれない。
目を閉じる。昔話が頭を巡る。
ある夏の日、学校から帰宅した自分をを迎えたのは、いつもの家族ではなかった。
ーー飛鳥がいじめにあっているなんて嘘よ!
母親が狂ったように叫んでいる。それを必死になって停めているのは、なぜか自分より早く帰宅していた父親だった。
「どうしたの?」
自分の問いかけに、母親は答えない。嘘よとずっと叫び続けていた。
「ただいま」
自分に遅れること数十分ほどしたところで、飛鳥が帰ってきた。
我が家の惨状を見て、彼女は固まった。そして、そんな彼女を見て母親は、とんでもない行動に出た。
飛鳥を道連れに死のうと言い出し、その腕を掴んだ。
父親と自分という男二人でも、女性である母親を押さえ込むことに苦労した。火事場のなんとやらとはよくいったものだ。
もしも、あの場にいたのが、飛鳥だけだったら、いつものように友人と話しながらダラダラと帰宅していたなら。二人の死体を見た父親がそれに続くように自らの命を絶ってしまっていたかもしれない。
しかし、結果的には母親は家を飛び出し、その出先で、首をつった状態で死んでいるのを桜井たちが見つけた。一緒になって探していたはずの父親とも連絡が取れなくなり、一度戻った家の中で、彼もまた首を吊った状態で見つかった。結局二人とも死んでしまった。
もしもの話なんてなかった。ただ、みんなの死期が微妙に遅れただけの話だ。
瞼の裏に浮かぶのは、そんな二人の死体。ゆらゆらと揺れる首吊り死体はテレビや映画以外で初めて見た桜井には強烈でもあり、一種の芸術のようにも思えた。
母親も父親も、1日の、わずかな時間で死んでしまった。
ーー人って簡単に死ぬんだな
まだ中学生の子供が親の死体を見て、動揺しながらも、心の隅っこではそんなことを考えていた。
両親共に亡くなり、桜井と飛鳥は母方の叔母の家に預けられることになった。彼女は未婚で働いていることもあり、二人を預かる経済的余裕があった。
彼らのこれからを思い、決して邪険に扱うことはなかった。むしろ、家族ができたと喜び、本当の子供のように二人を育てていった。
飛鳥は、中学生になった。しかし、小学校からの持ち上がりの生徒も多く、一時期は収まっていたと思われたいじめが再発する。
気の違えた母親から生まれてきた娘だとか、ひどい時には暴力にまで発展した。
一度血まみれで帰宅してきたことがあった。しかし、飛鳥の体には傷はひとつもなかった。
思い出に一区切りつけるように、桜井は空想の世界を一度閉じた。
「…飛鳥が多重人格だって分かったのはその時だったな」
昔のことを懐かしむように、桜井の口角が上がった。
桜井は再び目を閉じた。
飛鳥が持つ別の人格が、いじめを行う生徒に大怪我を負わせたとされた。
過去のことや、多重人格のこともあり、学校側は、生徒同士の単なる喧嘩が招いた惨事だと、その事件の真実をもみ消した。
叔母と桜井は話し合い、今は無理でも、高校は私学でもいいから県外の方が良いということになった。
費用のことは気にしなくていいと、飛鳥には伝えた。
そして、飛鳥は自分のことを知るものが一人もいない隣県の高校に通うことになった。
入学式から帰ってきた飛鳥は、笑顔で、友達ができたといった。
授業が、始まったら彼女たちとお弁当を食べるとか、すでに夏休みの計画を立てる計画をしていると、楽しそうに話して聞かせる。
二人の決断は、飛鳥にとって最善の方法だった。
次の日、桜井は一人のされた家のソファに身を投じていた。あの時も、一歩間違えたら一人になっていたかもしれない。
目を閉じる。昔話が頭を巡る。
ある夏の日、学校から帰宅した自分をを迎えたのは、いつもの家族ではなかった。
ーー飛鳥がいじめにあっているなんて嘘よ!
母親が狂ったように叫んでいる。それを必死になって停めているのは、なぜか自分より早く帰宅していた父親だった。
「どうしたの?」
自分の問いかけに、母親は答えない。嘘よとずっと叫び続けていた。
「ただいま」
自分に遅れること数十分ほどしたところで、飛鳥が帰ってきた。
我が家の惨状を見て、彼女は固まった。そして、そんな彼女を見て母親は、とんでもない行動に出た。
飛鳥を道連れに死のうと言い出し、その腕を掴んだ。
父親と自分という男二人でも、女性である母親を押さえ込むことに苦労した。火事場のなんとやらとはよくいったものだ。
もしも、あの場にいたのが、飛鳥だけだったら、いつものように友人と話しながらダラダラと帰宅していたなら。二人の死体を見た父親がそれに続くように自らの命を絶ってしまっていたかもしれない。
しかし、結果的には母親は家を飛び出し、その出先で、首をつった状態で死んでいるのを桜井たちが見つけた。一緒になって探していたはずの父親とも連絡が取れなくなり、一度戻った家の中で、彼もまた首を吊った状態で見つかった。結局二人とも死んでしまった。
もしもの話なんてなかった。ただ、みんなの死期が微妙に遅れただけの話だ。
瞼の裏に浮かぶのは、そんな二人の死体。ゆらゆらと揺れる首吊り死体はテレビや映画以外で初めて見た桜井には強烈でもあり、一種の芸術のようにも思えた。
母親も父親も、1日の、わずかな時間で死んでしまった。
ーー人って簡単に死ぬんだな
まだ中学生の子供が親の死体を見て、動揺しながらも、心の隅っこではそんなことを考えていた。
両親共に亡くなり、桜井と飛鳥は母方の叔母の家に預けられることになった。彼女は未婚で働いていることもあり、二人を預かる経済的余裕があった。
彼らのこれからを思い、決して邪険に扱うことはなかった。むしろ、家族ができたと喜び、本当の子供のように二人を育てていった。
飛鳥は、中学生になった。しかし、小学校からの持ち上がりの生徒も多く、一時期は収まっていたと思われたいじめが再発する。
気の違えた母親から生まれてきた娘だとか、ひどい時には暴力にまで発展した。
一度血まみれで帰宅してきたことがあった。しかし、飛鳥の体には傷はひとつもなかった。
思い出に一区切りつけるように、桜井は空想の世界を一度閉じた。
「…飛鳥が多重人格だって分かったのはその時だったな」
昔のことを懐かしむように、桜井の口角が上がった。
桜井は再び目を閉じた。
飛鳥が持つ別の人格が、いじめを行う生徒に大怪我を負わせたとされた。
過去のことや、多重人格のこともあり、学校側は、生徒同士の単なる喧嘩が招いた惨事だと、その事件の真実をもみ消した。
叔母と桜井は話し合い、今は無理でも、高校は私学でもいいから県外の方が良いということになった。
費用のことは気にしなくていいと、飛鳥には伝えた。
そして、飛鳥は自分のことを知るものが一人もいない隣県の高校に通うことになった。
入学式から帰ってきた飛鳥は、笑顔で、友達ができたといった。
授業が、始まったら彼女たちとお弁当を食べるとか、すでに夏休みの計画を立てる計画をしていると、楽しそうに話して聞かせる。
二人の決断は、飛鳥にとって最善の方法だった。
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