自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 赤坂の携帯が皆川恭平の通夜が営まれるという内容のメールを受け取ったのはその日の深夜だった。
 桜井から送られてきており、その名前を見た瞬間、胸のざわつきを感じ、恐る恐るメールを開いた。
『皆川のツヤと葬式のメールが来たから転送するな。あとついでに香川美波について教えといてやるよ。旧姓、船本美波っていう生徒会長してた人ね』
 転送されたメールには、通夜と葬式の日取りが記されている。旧姓を聞くとすんなりと思い出した。やたらと規律にうるさい女子がいたが、それが船本だった。結婚でもしたのか苗字が変わっている。
「結婚か…少し早い気もするけど、世間はそういうもんなのかな」
 まじめそうに眼鏡を上げる船本美波の姿を思い出す。人の人生というのはどう転んでいくかはわからない。
 ふと、メールに視線を戻す。
「桜井…」
 メールの最後には『ごめんな』と書かれている。何に対しての謝罪かはわかっていた。赤坂は、ただ一言だけ、『大丈夫』と書いてメールを返した。
       ※
 通夜は、手近で大きな会館などがないため、卒業した高校で執り行われることになった。去年より統廃合で廃校になっていたので、在校生への影響もなかった。
 空が紫色に染まっていく。夕闇が落ちるグラウンドには、かつての旧友との別れをするために、同級生たちが集まった。皆川よりもはるかに年上の教師も、ハンカチを片手に門をくぐる。
「桜井」
 赤坂は桜井の姿を見つけ、その背中に声をかけた。
「ああ、赤坂か…あのさ」
「飛鳥ちゃんのことなら大丈夫だ。気にすんな」
「え?」
 桜井は弾かれたように顔を上げる。
「きっと飛鳥ちゃんも苦しんでたんだと思う。俺たちだけでも、彼女のこと憎まないでやろう」
 速水が自分に言い聞かせてくれた言葉を桜井に向けた。桜井も涙を浮かべながら何度も頷いた。
「俺さ、やっと過去の呪縛から解放された気がしたんだ。飛鳥ちゃんから真実を聞いて、怒りよりも自分は悪くなかったって知ることができた喜びの方が大きかった」
「赤坂」
「こんな時にさ、不謹慎だけど、ここに来られてよかったって思ってる。もし、あの事件が無かったら、ここにくることはなかったと思ってる」
 ちょっと前の自分は、過去は捨てたとその未来も諦めていた。しかし、今は違う。過去を取り戻したい。そう感じている。取り戻せないものもあるが、それと同じくらいの思い出を作っていけばいい。
「皆川も俺たちに会いたがってたし、体育館行くか」
 体育館に入ると、舞台上に祭壇が作られている。輝かんばかりの笑顔を浮かべる遺影が飾られている。
 焼香などの儀式めいたものはなく、各々が棺に収まる皆川の遺体に手を合わせていた。
 二人も中を覗き込む。今にも目を覚ましそうなほど穏やかに目を閉じる皆川の姿があった。笑い合ったり、時には喧嘩をしたこともあった。鮮明な記憶が蘇る。
「あ、そういえば、俺こいつに金貸したままだったわ。50円」
「もう時効だろう。しかも、安いし。ケチなとこ変わんないな」
 こんなふうにくだらない会話をしていると、いつの間にか隣で皆川が笑いながら謝っているように思えた。

「こらっ!」
「え?」
「いたぁい」
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