自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 飛鳥は自首をした。知らないはずの出来事を、もう一人の自分ではなく、本当の飛鳥の言葉で話した。
 彼女に記憶がなかったわけではない。見たくないものを遮断するかのように、彼女の心が目を閉ざしてしまっただけである。もう一人の自分の心の目が開いていたかぎり、その記憶は彼女のものでもある。
「飛鳥ちゃん、全てを知っていたんだと思います」
「そうだろうね」
 車の中で二人の言葉がポツリと溢れていく。夜も更ける時間だが、車の往来や街明かりで駅前は賑わっていた。
 二人の間に沈黙が流れる。
「帰ろうか」
 速水の言葉が賑やかな街の中で小さく響く。
「はい」
 赤坂も小さく頷いた。

ハンドルを握り速水はため息をついた。
「左目のことだけど」
 速水が話を切り出した。
「え? あぁ、これは」
 赤坂は左目に触れながら、速水を見る。
 穏やかな笑顔を浮かべ話し出す。
「呪いなんかじゃなかったんですよね。俺に危機が迫ってることを明日香が教えてくれてたんだって気づきました」
 呪いだと、その痛みに対し畏怖していたことを申し訳なく思い、心の中で明日香に詫びた。いくらあの火事が放火だったとしても、自分が見殺しにしたと言う事実は変わらない。それなのに、妹は兄のことを守ろうとしてくれていたのだ。
「でも、速水さんは、どうして飛鳥ちゃんが怪しいと気付いたんですか?」
「気付いたのは、君が彼女のピアスを返しに出て行った後だったんだけどね。事務所にきた時、君がここで働いていることを知っていたのがやっぱり変だなと思ったんだ。ピアスを忘れたのだってわざとかもしれないって…思い始めたら、何もかもが彼女に仕組まれているように感じたんだ」
 ただの思い過ごしだと何度も思うとしたが、一度不信感を持ってしまうと簡単には拭えない。考えてみると、飛鳥が近づくたびに赤坂の左目が痛んでいることに気づいた。この数年、その痛みがなかったのは、彼女が近くにいなかったからだと考えられる。
「正也、本当に無事でよかった」
 速水の顔は、叔父としてだけではなく、父親として、そんな優しさに満ちていた。
「ありがとうございます…」
「僕たちは家族なんだから、そろそろ敬語はやめようよ。僕もこれからは正也って呼ぶからさ。ただまあ、おじさんって呼ばれるのは微妙だから速水さんでも良いけどね」
 まだ若いつもりだし、と付け加える。
「は、うん…」
はい、と言いかけたが、うん、と言い直し頷いた。照れるように顔を背けてしまったが、そんな赤坂の姿に速水も満足げに微笑んだ。
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