自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 赤坂は、飛鳥に耳をすますように言った。訝しながらも、赤坂の視線の先に意識を向ける。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「君が飛び出してきた場所には死体がある。誰かがそれを見つけて通報したんだろうね」
「だから、それは男の人が人を殺して…」
「その男の人が死体になって発見されたんだよ」
「私が殺したっていうんですか? 別の人に殺されたかもしれないじゃないですか!」
 赤坂は黙って頷いた。
「どこに私がやったって証拠があるんですか!」
「証拠なら君自身が持ってるじゃないか」
 二人以外の声がしたかと思うと、足速に速水が近づいてきた。飛鳥の腕を掴む。
「速水さん」
 自分の名を呼ぶ赤坂に視線をやり、苦笑いを浮かべる。
「遅くなってごめんね」
「な、何なんですか二人して。私は何もしてない!」
「確かに、今まで死体が出てこなかったのは、犯人が遺棄したからだった。でも、今回の死体は隠すことをしなかった。きっと現場には君の指紋がついた凶器も放置されてるんじゃないか? 無意識だとは思うけど、君は赤坂くんや僕に助けを求めていたんじゃないかな」
 握られた腕の先にある細い指先にある指紋が証拠だと速水は言い切った。
 飛鳥は唇を噛み締めた。速水の言葉が胸に痛いほどに突き刺さってきた。気がつけば、速水の言う通り誰かに助けてほしいと思っていた。
 そんな自分に戸惑いながらも、チカチカと頭の中で覚えてない記憶が断片的にあらわれる。何もしていないと言ってはいるが、記憶の中にはうっすらと、苦悶に表情を歪ませる人間が自分に助けを乞うている姿が浮かぶことがあった。
 身に覚えのない記憶のはずだが、夢とも違うリアルな感触さえ思い出すこともあった。
「私やがやったの?」
 その言葉に、目の前にいる二人の男は頷いた。
 両手を見る。ついさっきまで誰かの首を絞めていたような感触が蘇る。誰の首だと思い出そうとするが、その手を赤坂が包み込んだ。温かい感触に、飛鳥は目を見開いた。
「私、赤坂さんのこと…」
 赤坂は首を横に振った。
「俺が悪いんだ。早く気付いていればこんなにも君が悩むことなんてなかった」
 飛鳥が人を殺していたのは、もう一人の人格の言っていたような快楽のためではない。だからといって許されるわけではないが、彼女のそれは自分を守るための行きすぎた自己防衛だったのだ。
「自首しよう?」
 手を離すと、飛鳥の手はだらんと、垂れ下がった。
 彼女は何も言わないが、ただ、涙を溜めた目で、二人を見遣り、小さく頷いた。
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