自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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「警察がなんて言ったか知りませんけど、赤坂さんの家に火をつけたのは私です」
「ち、違う。あれはタバコの不始末で」
「放火です。私が放火したんです。飛鳥のために、明日香ちゃんを殺そうとね」
「どうしてっ! 明日香が君に何をしたんだよ!」
 飛鳥の姿をした少女は何度目かわからないため息を吐いた。
「明日香ちゃんが、飛鳥に言ったんですよ。お兄ちゃんは女心がわからないから、好きならやめたほうがいいよって。ニコニコと悪びれもせずにね。妹のくせにあなたの悪口を言ったんですよ。飛鳥はそれが許せなかった。あの時以来ずっと飛鳥の心の中で眠っていた私が目を覚ました」
「あの時以来?」
「人って、いろんな過去背負って生きてるもんでしょ。飛鳥はその中でもとびきりの闇を抱えてる子だった。それでも、飛鳥は一生懸命に生きようとしてた。私もそろそろ完全に消滅しちゃうかなあって悲しくもあり嬉しくもあった。それなのに、あんたの妹のせいで、また私が生まれた」
 だから飛鳥の無意識の行動は、全て自分が起こしたものだと、飛鳥の姿をした少女が言う。明らかにその笑顔は飛鳥のものとは違うと感じた。
「そ、そんな」
「くだらないと思うかもしれないけど、人が人を殺そうとする動機なんて他人が見たらくだらないとか、なんでそんなことでって思うことばかりじゃないですか」
 赤坂は黙って俯いてしまった。
「理解しろとか納得しろとは言いません。到底理解できるはずないんで」
「確かに難しい話だね。。色々と疑問も出てくるし」
「なんですか?」
「飛鳥ちゃんが見た殺人の現場っていうのはどうなるの?」
「飛鳥は無意識だったとしても、その体で人を殺してるわけですから、1番身近な目撃者でかつ実際は加害者ってことになりますよね。わかりやすく言うと、その記憶が都合よく書き換えられてるってことです。何故そうなるかっていう詳しいことは分かりませんけどね」
「人が人を殺しているところを目撃したと言う記憶が作り出されたと言うわけか」
「そう言うことでしょうね。ちなみに、今日、公園から飛び出した時も、人を殺してたのは飛鳥、いえ、私です」
 ぺろりと舌を出す。殺人という行為をまるでゲームだと思っているかのような口振りだ。赤坂の頭に血がのぼる。
「何故、殺した?」
「刑事だったからです」
「刑事?」
「はい。毎日映画を見ていたみたいで、色々調べているうちに飛鳥が捜査線上に浮かんできたのかなんだか知らないけど、帰宅中にいきなり近づいてきたんです。一度は逃げましたけど、これからも周りうろちょろされたら目障りだから、殺しました。映画にも使えるし、一石二鳥ですよね」
 人の命をなんだと思っているのか。拳を握る。ただ、彼女の言葉がどうにも胸に引っかかる。
「毎日?」
 赤坂の脳裏に、映画館で隣に座っていた男の顔が浮かんだ。まさか、あの男のことなのか。
 こういう映画は嫌いだと言った男の表情は陰りを帯びていた。
 その言葉が男の真実だとすれば、彼が刑事ということも理解ができるし納得もいく。
 赤坂は、目を閉じた。彼も自分と同じように映画の真相を追い求めていたのだろう。刑事としてなのか、一人の人間としてなのか、今となっては知る由もないが、男の思いは赤坂の胸に確実に届いた。涼しい風が吹き抜ける胸をさする。
 目の前のまるで悪魔のような少女に冷静に対峙しようと、目を開いた。
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