自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 車を走らせること三十分ほどで、速水の自宅に着いた。速水は玄関先に準備していた衣服の替えを赤坂に手渡した。
「お風呂沸いてるから、温まってきて」
 速水は最初から赤坂を迎えに行くつもりだったのか、夕方の時間からすでにお風呂が沸いていた。
 些細な疑問が浮かぶが、どうでもよかった。ここが永久的に居場所になる確証はないが、当面を過ごすことができるならいいと感じた。
 浴室にこもる湯気が目に沁みる。左目を閉じるが、涙が溢れるのは右目からだけだった。ツンと痛む鼻先をつまむ。
 湯船に冷え切った体を浸からせる。じわりと溶ける体とは裏腹に、心はいまだに凍っていた。なぜ速身について来たのか。そのことは、赤坂にも疑問だった。
 ヘラヘラと頼りない雰囲気の男を思い浮かべる。自分のような面倒な人間を積極的に自分のテリトリーに入れるような人間には思えなかった。いや、むしろ人間というものはそういうものではないか。近所の人間だって、結局は自分と関わることを放棄した。余計に速水の存在が異質のものに思えた。何か裏でもあるのか。
 しかし、変に疑ってしまって機嫌を損ね追い出されてしまっては意味がない。当分はおとなしくしておいた方が得策だと、納得し湯船に顔をつけた。

 風呂から上がると、キッチンに案内された。ダイニングテーブルには十八歳の男が好みそうな料理が並んでいる。腹の虫が鳴る。速水は軽く微笑み、椅子を引く。
「さあ、座って」
 腹の虫を鳴らしながらも、立ち尽くしている赤坂に座るように促す。
「あ、はい」
 いい匂いだ。車の中で思い浮かべていた母親の手料理と同じだ。久しぶりに食べる温かい料理だった。屋根の下で椅子に座ることも一週間ぶりだった。当たり前だったことが当たり前ではなくなったその一瞬を思い出した。
 料理に手を伸ばす。しかし、不意になぜだと疑問が頭に浮かぶ。抑えなければならない感情だった。
「なんで」
「え?」
 速水はハンバーグを頬張りながら赤坂を見る。
「なんで、見ず知らずの俺にここまでしてくれるんですか?」
 変に疑わないと決めたが、疑わずにはいられなかった。不気味だったのだ。歳は自分より上だとは言え、まだ若いようにも思える男が、他人の世話をしようとするだろうか。何か裏があるのではないか。
「別に意味はないよ」
 お茶を飲みながら、速水はそう言った。
「意味がないって…そんなわけ」
「意味が必要なのかな?」
 赤坂は、これ以上何を聞いても無駄だと、追求することをやめた。底なしのお人好しなのだろうと結論づけることにした。
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