自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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三日月がぼんやりと白けた暗闇を心許なく照らす。点滅する街灯が、暗闇を不安定に揺らしている。その闇に溶け込むように、飛鳥はポツリと言葉の雫を落としていく。
 なぜ、自分があの場所にいたのか、無意識だが、後ろからくる男を避けたはずなのに、またその男を追いかけるようにしていたこと、その男が人の首を絞めていたことなど、全て話した。
 赤坂は矛盾する点が多いと感じたが、混乱している飛鳥にそこは触れずにいた。
「なんで公園に行ったかわからないんだね?」
 飛鳥は頷いた。
「一つだけ、気になることがある」
「え?」
「君を追いかける前に、君が飛び出してきた場所を見たんだけど、誰もいなかったんだ。一瞬だったからなんとも言えないけど」
「そんなことない。もしかしたら、私に見られたことに気がついて身を潜めていたんじゃ」
「飛鳥ちゃん…っっ!」
 飛鳥を宥めながら、波打つように痛む左目を押さえる。
「赤坂さん?」
「大丈夫だよ」
 明らかに大丈夫ではなかった。額に脂汗を浮かべ、膝は震えている。
 飛鳥は、慌てて適当な段差に赤坂を座らせた。
 ハンカチで汗を拭うが、それでは足りたいぐらいに、噴き出ている。飛鳥は、ハンカチを握り締めながら、左目を覆う赤坂を見つめる。
「赤坂さんの左目のこと、兄から聞いてます」
「そ、そうなんだ」
 赤坂自身、桜井にその話話をしたかどうか覚えていなかった。しかし、つい先日会った時に、目のことに触れなかったということは、知っていたということか。
「妹さんを奪った火事で火傷をしたって。今でもその古傷が痛むんですか?」
 もはや、痛みで開けていられなくなったのか、赤坂は目を強く閉じた。
       ※
       ※

 古い木造の家屋が火に包まれたらひとたまりもないことぐらいは、十八歳の少年でもわかっていた。
 赤坂雅也は、呆然と立ち尽くしかなかった。両親が他界し、残された妹とこれからどうやって生きていこうかと考えて矢先、自暴自棄になり吸っていたタバコが原因で、古ぼけた家は轟音と火の粉を撒き散らし燃え上がった。
 焦げた匂いに、飛び出した玄関を振り返る。映画でも見ているのか。赤い炎がこれから先も生きていかなければならない居場所を包み込み始めている。
 メラメラと、火の粉が降りかかる。異変に気づき飛び出てきた近所に人に体を引かれる。されるがままに後ろに下がるが、頭が動かない。何かを忘れていないか。モヤモヤしたものが頭によぎる。
 記憶を巻き戻していく。モノクロの映像が、脳裏に鮮明に蘇っていく。それは残酷な現実だ。
 妹の明日香が風邪で寝込んでいる。思い出した瞬間、血の気が引いた。
「明日香がっ、明日香がまだいるんです!」
 ダメだと止める人の手を遮り、赤坂の足は家へと向かう。
 助けたい。助けなければいけない。明日香と共に生きてくのだ…………明日香が死ねば楽になれるんじゃないか?

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