自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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「先輩、教えてください」
 登庁して、自分のデスクに腰を下ろした宮本に佐藤は単刀直入にそう言った。
「は?」
「やっぱり俺、気になるんです。何で先輩はあの映画にこだわるんですか? 明日も見に行きますよね?」
 宮本は苦笑いを浮かべた。
「わかった。話そう。ただ、ここじゃない方がいいな。屋上に行こう」

 ひんやりとした冷気が体にまとわりつく。外に出た瞬間、鳥肌が体を覆った。
「ほれ」
 そういうと、自分のタバコを交配に一本渡す。銘柄が一緒なのは知っていた。
「あ、ありがとうございます」
 まずは一服、ということなのだろう。うまそうに吸う宮本に佐藤は何もいえなかった。
「…お前も知ってるだろう」
 口を開いたのは宮本の方だった。まだ長いタバコを灰皿に押し付ける。佐藤も慌ててそれを揉み消した。
「え?」
「俺の、嫁さんが行方不明になったことだよ」
 ああ、と頷いた。宮本は半年ほど前に結婚した。まさに新婚ほやほやで、愛妻弁当を持ってきては上司からからかわれたりと幸せそうだったことを思い出した。しかし、つい一ヶ月ほど前、その奥さんが失踪した。
 刑事の家族が行方不明になったのだから、同じ部署で働く者なら知らないものはいないだろう。
「何の手がかりにもならないと思ったが、ネットを見たんだ」
 佐藤は頷きながら聞いている。
「失せ物占いとか、藁にもすがる思いで検索したよ。何の効果もなかったが…」
 ただ、と宮本は目を閉じた。
「本物の死体を使っているという噂のある映画が上映されていることを知ったんだ」
 上映されている映画館も自宅からそう遠くはなかった。行ってみる価値はあるかもしれない。
「まさか…」
 佐藤の言葉に静かに頷いた。
「勝ちたくない賭けだったよ。それに勝ってしまえば、俺は家族を失ったことを認めなくちゃいけないんだからな」
 その気持ちとは裏腹に、首を吊った状態の妻がいた。
「そうだったんですか…奥さんのご遺体はまだ見つかっていませんよね?」
「ああ」
「だから、実際には事件にはできない…でも、先輩の中では事件なんですよね」
 視線を空に向けながら呟く後輩に、ああ、と一言呟いた。
 宮本は新しくタバコに火をつけた。
「毎日観に行っているが、誰が何の目的であんなものを作っているのか、そもそもなぜあんなにたくさんの死体を毎日撮れるのか…嫁の消息も含めて何の手がかりも見つかっていない」
 ただ、一つだけ希望を見つけた。あの青年が何者なのか、映画にどのような形で関わっているか、それさえわかれば、何かわかるかもしれない。
 宮本は、スーツの内ポケットからUSBを取り出した。
「それは?」
「映画泥棒してきた」
 冗談っぽく笑みを浮かべる。
「普段なら犯罪ですけど、今回だけは見逃しますよ」
「かたじけない」
「それ、どうするんですか?」
 宮本は小さく頷く。
「マスコミに同じもの送りつけたんだ」
 このような下衆の極みだと言えるネタを、好物にし群がり、面白おかしく報道したがるのがマスコミだ。
 裏どりをするとかしないとかは、今回は正直どうでも良かった。自分が蒔いたスクープという名の種をいつものように好き勝手に報道してくれたらそれで良い。
 もし、これがテレビで放送されたらあの青年は、絶対になんらかの反応を示すだろう。時期的にはもう届いている頃だ。いつ放送されるか、むしろ放送されるかどうかもわからないが、種は蒔いておいて損はない。
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