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映画が終わった。その瞬間に、隣の男が話しかけてくる雰囲気を感じて、逃げるようにして飛び出した。
やはり外の眩しさに目が痛んだ。
「昨日から、やっぱりおかしい」
左目を押さえながら、携帯を取り出し、時間を確認した。
画面を見ると、新着メールを知らせる表示があった。
メールを開く。登録していないアドレスからだった。不審に感じながらも、内容を確認する。
「え…」
まさに今、死体としてこの目ではっきりと見た、皆川恭平の死を知らせるものだった。最後にこのメールの差出人の名前として『香川美波』と書かれているが、その名前に見覚えはなかった。
自分のアドレスを知り、皆川とも関係しているとなると、高校生活の中に自分とも何らかの接点があった人物と考えるのが妥当だろう。
「卒業アルバムないからなあ」
思い出したくない過去を断ち切るように、アルバムや卒業証書などは全て処分していた。
再びメールが届く。差出人は桜井からだった。皆川のことを聞いたかと問う簡素なものだった。
赤坂は、聞いたと記した後に『香川美波』について何か知っているかと書き加えて返事を送った。
※
やりすぎたな、と宮本は後悔した。あんな映画を見に来ている人間にいきなり話しかけられたりしたら、普通警戒するに決まっている。何故、あんなふうに怪しく近づいてしまったのか。
いや、その理由は明白だった。隣に座る男は、まともだったからだ。まともすぎて、あの空間では彼が異質に感じられたのだ。まるで、それが偽りなのではないかとさえ感じられてしまい、それを確かめるためにあえて怪しい人間のように話しかけたのだ。
しかし、やりすぎたな、とは思う。ただでさえ異常な場所で、少し気の違えているように思える人間に因縁をつけられたら、誰もが一線を引きたがるだろう。
それを証拠に、男は、もはや自分とは関わりたくないと言った雰囲気をかもしながは、スクリーンに向き直っていた。
駄目押しだが、宮本は、男に、この映画の死体は毎日違うと、再度強調しながら言った。
男のこめかみが動いたのは確認できた。しかし、画面からこちらに向き直ることはなかった。
『え』
男の声が小さく揺れた。宮本はそれを聞き逃さなかった。
『皆川…』
その死体の名前なのだろうか。確かにこの青年は、そう言った。
宮本も、この遺体とは面識があった。公園で首吊り自殺をしている、という通報があったときに駆けつけた。この男が木に首を括り死んでいたのだ。
この青年は、何者なのだろうか。昨日の男の死体といい、今回の男といい、彼はいったいどれだけの死体と面識があるのか。
青年が来てから、昨日まで毎日のように流れていた男の死体が今日はなかった。そして、新たに知っている人間の死体。こうも続けざまに現れるものか。
自分でさえ、一度きりだったというのに。
そう思った瞬間、宮本は、唇を噛み締めた。
「そういや、写真みたいなもの持ってたよな」
小さく息を吐く。食いしばっていた歯の力を抜いた。
その青年が、持っていた写真のようなものと、画面に映る男を見比べていたことを思い出す。きっと、写真とスクリーンには同一人物が映っていたのだろう。
何を知っているかは分からないが、話を聞く価値はあるだろう。宮本は、明日も来よう、と呟いた。
「明日は、映画館の前で待つか」
そこで話をして、映画は見ないでおこう。渋々だが自分を見送ってくれた後輩を思い出す。これ以上、心配はかけられない、と苦笑いを浮かべながら、タバコを一本取り出した。
やはり外の眩しさに目が痛んだ。
「昨日から、やっぱりおかしい」
左目を押さえながら、携帯を取り出し、時間を確認した。
画面を見ると、新着メールを知らせる表示があった。
メールを開く。登録していないアドレスからだった。不審に感じながらも、内容を確認する。
「え…」
まさに今、死体としてこの目ではっきりと見た、皆川恭平の死を知らせるものだった。最後にこのメールの差出人の名前として『香川美波』と書かれているが、その名前に見覚えはなかった。
自分のアドレスを知り、皆川とも関係しているとなると、高校生活の中に自分とも何らかの接点があった人物と考えるのが妥当だろう。
「卒業アルバムないからなあ」
思い出したくない過去を断ち切るように、アルバムや卒業証書などは全て処分していた。
再びメールが届く。差出人は桜井からだった。皆川のことを聞いたかと問う簡素なものだった。
赤坂は、聞いたと記した後に『香川美波』について何か知っているかと書き加えて返事を送った。
※
やりすぎたな、と宮本は後悔した。あんな映画を見に来ている人間にいきなり話しかけられたりしたら、普通警戒するに決まっている。何故、あんなふうに怪しく近づいてしまったのか。
いや、その理由は明白だった。隣に座る男は、まともだったからだ。まともすぎて、あの空間では彼が異質に感じられたのだ。まるで、それが偽りなのではないかとさえ感じられてしまい、それを確かめるためにあえて怪しい人間のように話しかけたのだ。
しかし、やりすぎたな、とは思う。ただでさえ異常な場所で、少し気の違えているように思える人間に因縁をつけられたら、誰もが一線を引きたがるだろう。
それを証拠に、男は、もはや自分とは関わりたくないと言った雰囲気をかもしながは、スクリーンに向き直っていた。
駄目押しだが、宮本は、男に、この映画の死体は毎日違うと、再度強調しながら言った。
男のこめかみが動いたのは確認できた。しかし、画面からこちらに向き直ることはなかった。
『え』
男の声が小さく揺れた。宮本はそれを聞き逃さなかった。
『皆川…』
その死体の名前なのだろうか。確かにこの青年は、そう言った。
宮本も、この遺体とは面識があった。公園で首吊り自殺をしている、という通報があったときに駆けつけた。この男が木に首を括り死んでいたのだ。
この青年は、何者なのだろうか。昨日の男の死体といい、今回の男といい、彼はいったいどれだけの死体と面識があるのか。
青年が来てから、昨日まで毎日のように流れていた男の死体が今日はなかった。そして、新たに知っている人間の死体。こうも続けざまに現れるものか。
自分でさえ、一度きりだったというのに。
そう思った瞬間、宮本は、唇を噛み締めた。
「そういや、写真みたいなもの持ってたよな」
小さく息を吐く。食いしばっていた歯の力を抜いた。
その青年が、持っていた写真のようなものと、画面に映る男を見比べていたことを思い出す。きっと、写真とスクリーンには同一人物が映っていたのだろう。
何を知っているかは分からないが、話を聞く価値はあるだろう。宮本は、明日も来よう、と呟いた。
「明日は、映画館の前で待つか」
そこで話をして、映画は見ないでおこう。渋々だが自分を見送ってくれた後輩を思い出す。これ以上、心配はかけられない、と苦笑いを浮かべながら、タバコを一本取り出した。
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