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しおりを挟む振り返った先にある男の顔に見覚えがあった。
「あっ、」
不気味な雰囲気を醸す男にじっと見られて何の言葉も出てこない。
「確か、君、昨日も俺の隣にいたよね?」
そうだ。昨日も自分の隣で座っていた男だ。
男も自分のことを知っている。赤坂はグッと拳を握る。
男はなおをもニヤニヤと話を続ける。赤坂は冷や汗を感じながら頷いた。
「こういう系統の映画好きなの?」
「いや、別に…そういうわけではないです」
「じゃあ、何で毎日見にきてるの?」
男は執拗に質問を続ける。まるで尋問のようだ。
「それは…」
「俺は、嫌いだ」
男は低い声で呟いた。
「え?」
赤坂は、吐き捨てるように言い放った言葉に、思わず男を見る、なぜこの映画を毎日見にきているのか。それはこの男にも言えることだった。赤坂は男の質問をおうむ返しのように反芻する。
「あなたも毎日来てるんですよね? 嫌いなのに、何故ですか?」
男は、口を一文字に結んでいる。答えてはくれなさそうだ。赤坂も、その姿を見ると、何も言えなくなった。
「まあ、嫌いなのは嘘だけどな」
一瞬の間があったが、あっけらかんとして表情を浮かべながらそう言った。
「嫌いなら毎日なんて来ないよ、こんな悪趣味な映画」
「そ、そうですね」
赤坂はこれ以上、付き合うのはやめようと、画面に向き直る。
「この映画、毎日違う死体使ってんだよ」
呟くと、男もまた映画に意識を戻す。
毎日違う死体を使っている、その言葉がぐるぐると巡る。まさか、都合良く死体が毎日なんて見つかるはずがない。やはり、作り物なのか。そう考える方がしっくりとくる。しかし、坂井啓太のことはどう説明するのか。混乱している赤坂をよそに、画面は切り替わっていく。
「えっ」
苦渋の表情で画面からこちらを睨みつける顔に見覚えがあった。皆川恭平という高校時代の友人だ。先ほど出会った桜井も彼のことを知っている。
「皆川…」
赤坂の声が聞こえたのか、男は眉を上げた。じっと、赤坂を見るが、その視線に赤坂は気づかなかった。
知人の見知った顔を見つけてしまっては、本物なのかもしれないという疑いはほんの少し確信に変わる。
たまたま作り物が似ていたとか、本人や、本人に似ている人物による演技だということも考えられるからだ。
しかし、それから何体かの死体を見たが、頭に入ってこなかった。皆川の死体と重なって見えてしまう。
もしも、本物だとして、それらはどのようにして見つけられたり、手に入れられるのだろうか。
「まさか…」
最悪な方法が頭をよぎる。
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