自殺のメソッド〜首吊シネマ〜

咲良ゆず季

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 映画が始まると同時に赤坂はボールペンを取り出していた。何気なくペン先をスクリーンに向けた。
 本来ならインクの出るはずのコロコロと回る球がない。その代わり、そこには極々小さなカメラが仕込まれていた。
 スイッチを押すと、それをゆっくりと動かす。普通の映画館では怪しく目立つような行動だが、この場所では、映画泥棒の赤坂が一番まともな人間にさえ思ってしまう。
 中身をすぐには確認できないが、周りに障害となるものは無く、映像は撮れているだろう。坂井の息子である啓太以外にも何体かの死体を撮っておく。撮り終えるとスイッチを切り、ポケットにしまう。
「それにしても、いつまで見ていたらいいんだ」
 坂井の息子の遺体があることを確認し、本物を使用している可能性が極めて高いことがわかった。とりあえずの目的は果たした。すぐにでもこの場を離れたかったが、その行動は怪しく目立ち、目的がバレてしまう可能性もある。
 途中で離脱する人が続出してもおかしくない内容だが、誰一人として抜け出す者はいなかった。
 予定ではあと三十分はある。途中で帰ると目立つというのもあるが、他に見知った顔があるかもしれないため、見続けなければならない。速水からも途中で帰ったり、寝たりしないでくれと釘を刺されている。
「せめて寝たいけど、それもダメなのはキツイな。目と頭が疲れてきた」
 赤坂は目頭を押さえ、あくびを噛み殺した。
 死体がただ映し出されるだけであり、衝撃的なのは初めだけだった。だんだん慣れてくると、元来そういう趣味のない赤坂からすると退屈この上なかった。
 ペットボトルに入ったブラックコーヒーを飲み干す。苦味で少しでも、目を覚まし、重たくなった脳を覚醒させなければ。
 口元に少しこぼれたそれを拭うと再びスクリーンに視線を戻す。

 何故、速水は見にこないのか。速水も来るべきだ。いや、速水が見に来るべきだったなどと思いが巡る。速水がこういったものを人一倍苦手としていることを知っている上で感じているのだから、赤坂も限界なのだろう。
 しかし、退屈な映画を前に、寝ることさえ許されないのは鬼畜の所業だと感じた。
 息を吐く。ブラックコーヒーの香りが少しだけ、冷静にさせてくれた気がした。
 今更何をいっても始まらない。仕方なく、肘掛けに肘を乗せ、楽な体制に整えた。
 流れる映像を見続けることだけに徹底した。
(慣れって怖いな。さっきまで気味悪かったのに、何も感じない)
 ぼーっと白く光るスクリーンを見ながら、映し出される死体を瞳に映していく。
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