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「本当に、生身の人間の死体を使用しているのかを、確認してきて欲しいんだ」
何をすればいいかを確認はしたが、赤坂はこのような返答がくることは想像できていた。しかし、何をどうやって確認しろというのか。
映画館の店主に尋ねたところで、本物の死体が出る映画を扱っているなど認めるはずもない。サイトの煽り文句に言及したところで、客寄せだと言われるのが目に見えている。
さも当然のように言い放つ速水の姿に憤りを感じながらも、冷静に尋ねた。
「確認とは?」
「映画を見てきてくれるかな」
妥当な回答ではあった。いくら不確かな情報であっても怪しい噂のある不気味な映画をわざわざ見に行かなければならないのか。
真正面から直撃しても結果は見えているから、自分の目で確かめろというのだろうか。
「見て何になるんですか? それに、見たところで本物かどうかなんて、俺にはわかりませんよ」
素人目に死体の本物と偽物の区別などできるはずがない。たとえ、本物だったとして、自分たちに何ができるというのか。
気味の悪い映画を見たくないというのも本音だ。自分よりも、速水の方が死体や血などのグロテスクなものが人一倍弱いことは知っている。だからといって、赤坂が得意なわけでもない。
戸惑いとイライラの募った複雑な面持ちで、速水を睨みつける。
「ご、ごめん」
自分よりも戸惑い、目には涙を浮かべる速水の姿が視界に飛び込んでくる。いつ泣き出してもおかしくない。そのような姿を見てしまっては怒っている自分が馬鹿馬鹿しいとさえ感じてしまい、小さくため息をついた。
速水は赤坂の深いため息に肩を震わせながら、曖昧な笑顔を浮かべた。
「いや、ほら。坂井さんがね」
口籠もるように発した名前に、眉を上げる。
「坂井さんがどうかされたんですか?」
「う、うん。あの人がね…」
速水の話によると、坂井という人物が訪ねてきたかと思えば開口一番に『息子が、映画で使われている』と叫びだしたのだという。よもや証拠はないが、振り乱された髪や必死な形相から、嘘はついていないと確信したという。
「嘘をついているついてないの前に、勘違いということもありますからね」
速水の話は俄には信じ難いが、赤坂も坂井がこのようなことで嘘をつくとは思えなかった。彼女の勘違いという線もある。それに、赤坂自身も、仕事で坂井と関わったことがある。
最近、彼女の一人息子が亡くなったことも知っている。数年前に旦那も亡くなっていたため彼女にとってはたった一人の肉親だった。
そのせいで気が動転しておかしなことを言っているのではないかとも思ったが、温厚な彼女が取り乱す姿などどうしても想像することができない。
「あの坂井さんがそんなふうになるなんて」
「そうだよね。いつも優しくて穏やかな人だから、僕もびっくりしたよ」
赤坂は顎をさする。パソコンに視線を向ける。本物の死体と煽る言葉が強調されている。
「坂井さんの息子さんの死体が使われていた、ということなんですね?」
坂井の話を聞いた瞬間、先程までの嫌悪感を丸出しにした雰囲気とは打って変わり、真剣な表情を浮かべた。
最愛の息子に先立たれた悲しみに追い討ちをかけるように、その死体が娯楽の道具に使われているとしたら、悲しみや怒りの感情は想像を絶するものに違いない。
坂井の柔らかい笑顔を思い出しながら、赤坂は視線を上げる。そのさきにある白い壁には『あなたの町の便利屋さん』と書かれたポスターが貼られている。
何をすればいいかを確認はしたが、赤坂はこのような返答がくることは想像できていた。しかし、何をどうやって確認しろというのか。
映画館の店主に尋ねたところで、本物の死体が出る映画を扱っているなど認めるはずもない。サイトの煽り文句に言及したところで、客寄せだと言われるのが目に見えている。
さも当然のように言い放つ速水の姿に憤りを感じながらも、冷静に尋ねた。
「確認とは?」
「映画を見てきてくれるかな」
妥当な回答ではあった。いくら不確かな情報であっても怪しい噂のある不気味な映画をわざわざ見に行かなければならないのか。
真正面から直撃しても結果は見えているから、自分の目で確かめろというのだろうか。
「見て何になるんですか? それに、見たところで本物かどうかなんて、俺にはわかりませんよ」
素人目に死体の本物と偽物の区別などできるはずがない。たとえ、本物だったとして、自分たちに何ができるというのか。
気味の悪い映画を見たくないというのも本音だ。自分よりも、速水の方が死体や血などのグロテスクなものが人一倍弱いことは知っている。だからといって、赤坂が得意なわけでもない。
戸惑いとイライラの募った複雑な面持ちで、速水を睨みつける。
「ご、ごめん」
自分よりも戸惑い、目には涙を浮かべる速水の姿が視界に飛び込んでくる。いつ泣き出してもおかしくない。そのような姿を見てしまっては怒っている自分が馬鹿馬鹿しいとさえ感じてしまい、小さくため息をついた。
速水は赤坂の深いため息に肩を震わせながら、曖昧な笑顔を浮かべた。
「いや、ほら。坂井さんがね」
口籠もるように発した名前に、眉を上げる。
「坂井さんがどうかされたんですか?」
「う、うん。あの人がね…」
速水の話によると、坂井という人物が訪ねてきたかと思えば開口一番に『息子が、映画で使われている』と叫びだしたのだという。よもや証拠はないが、振り乱された髪や必死な形相から、嘘はついていないと確信したという。
「嘘をついているついてないの前に、勘違いということもありますからね」
速水の話は俄には信じ難いが、赤坂も坂井がこのようなことで嘘をつくとは思えなかった。彼女の勘違いという線もある。それに、赤坂自身も、仕事で坂井と関わったことがある。
最近、彼女の一人息子が亡くなったことも知っている。数年前に旦那も亡くなっていたため彼女にとってはたった一人の肉親だった。
そのせいで気が動転しておかしなことを言っているのではないかとも思ったが、温厚な彼女が取り乱す姿などどうしても想像することができない。
「あの坂井さんがそんなふうになるなんて」
「そうだよね。いつも優しくて穏やかな人だから、僕もびっくりしたよ」
赤坂は顎をさする。パソコンに視線を向ける。本物の死体と煽る言葉が強調されている。
「坂井さんの息子さんの死体が使われていた、ということなんですね?」
坂井の話を聞いた瞬間、先程までの嫌悪感を丸出しにした雰囲気とは打って変わり、真剣な表情を浮かべた。
最愛の息子に先立たれた悲しみに追い討ちをかけるように、その死体が娯楽の道具に使われているとしたら、悲しみや怒りの感情は想像を絶するものに違いない。
坂井の柔らかい笑顔を思い出しながら、赤坂は視線を上げる。そのさきにある白い壁には『あなたの町の便利屋さん』と書かれたポスターが貼られている。
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