見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!

すな子

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 さて。
 また今回も慈愛溢れる天使か妖精と思われることに拍車をかけるような振る舞いをしてしまったわたくしですけれど、その内実は単に自分の立ち位置について悩んでいただけで、魔物討伐についてはひとつも心配していない薄情さでございますから、討伐が無事に終わった報告が来るまでをどう過ごそうか悩んでしまいますわね。

(教会でお祈りとか聖女様でもないですし)

 心を痛めているふうに一日を過ごすのも気鬱です。

(ああっ、普通にしていればよろしいのだわ)

 返って気丈に振る舞っていると思われますから、我ながら得な人物像を作り上げたものです。

 それに、お父さまが気を遣ってベアトリーチェ様とのお茶会をすすめてくださいましたから、せっかくですしひさしぶりにお姉さまと二人だけでゆっくり過ごすことにいたしましょう!

 サジッタリオ領の魔物の出現については、昨日の今日で関係者以外には伝わっておりませんから、ベアトリーチェお姉さまのお耳にもまだ入っておりません。
 無駄に心配をかけるつもりもありませんから、わたくしはただお茶会を楽しむだけですわ。

 再来年の話とはいえ、結婚準備にお忙しいお姉さまのお時間をとるのは申し訳ないと思ったのですが、どうもその結婚準備に悩みの尽きないお姉さまの、気晴らしも兼ねているようです。

(マリッジブルー?それともまさかの乙女ゲームはお兄さまルートに突入?!)

 そんな気配これっぽっちもありませんでしたけれど、お兄さまとの結婚に何か思うところが出てきてしまっているのかと心配しておりましたら、

「ドレスのお召し替えが二十着?」

 何を仰っているのかはじめは分かりかねました。

「……ええ。アンジェロ様とお義母様とで、結婚式でわたくしに着せたいドレスの折り合いがつかないと仰って……」

 お二人は一体何をなさっているのでしょう……。
 今時王族でも多くて八回、そこまでやるとなんて贅を凝らした式なのかとさすが王家と皮肉混じりの賞賛を浴びるほどなのですけれど、その倍以上です。
 そもそも一人十着の案をお持ちですのでそこからすでに超えてしまっておりますのよ。
 減らすことを考えるのではなくて全部着せてしまえと仰るのはどちらでしょう。
 たぶんお二人とも、ですわね。
 もういっそすべて作って着てもらいましょうと言い放ったお兄さまに、花が綻ぶような笑顔でそれがよろしいわ!とお母さまが意気投合なさったところが目に浮かぶようです……。

(お母さま、毎日はしゃいでとっても楽しそうですものね……)

 お母さまが楽しそうならお父さまはなんでも全肯定いたしますし、さらに増長させてもまだ足りないと思っていらっしゃる節がありますので、我が家族ながら全員ちょっと頭の箍の外れているところがあるのは認めざるをえません。

 殿下の第一側近として星の災厄の対応にお忙しいはずのお兄さまも、いつお休みになられているのかお姉さまが心配なさっても、「リチェと過ごす時間が私の安らぎの時だよ」と言って離れたがらないそうですので、爆発してしまえばいいのではないでしょうか、お兄さまだけ。

(とりあえずお兄さまがクソヤローになる未来だけは完全に阻止できましたわね)

 悩みなのか惚気なのか、お姉さまのお悩みもそれほど深刻なものでなくて安心いたしました。

(お幸せそうで、うらやましくて目が眩みそうなくらい)

 星の災厄を迎えようという国の一大事の最中さなか、何をのんきに結婚準備などと思わないでくださいませ。
 ベアトリーチェお姉さまもアクアーリオ侯爵ご夫妻も躊躇されていたところを、お兄さまやお父さまが断固として譲らず、それに殿下たちも準備を進めてほしいと後押ししてくださったのです。

(未来の希望にされているのではないかしら)

 星の災厄を巫女様と阻止した先の未来、そのための希望なのだと思います。

 お兄さまの場合、星の災厄のことでベアトリーチェお姉さまを不安にさせたくないのが半分、ただただお姉さまと早く結婚したいという願望が半分ですし、お父さまに至っては単純にお母さまが楽しみにしていらっしゃるからですけれど、まあ、明るい話題は必要ですわよね!

 わたくしもお二人のご結婚については惜しみなく全面協力の姿勢ですから、早くゲームがハッピーエンドを迎えて、わたくしも破滅フラグを回避したいです。心から。

 そうすればやっと自分自身の青春を送れそうな気がいたしますし、お兄さまとお姉さまの結婚式だって必ず見届けたいですし、破滅しているヒマなどないのです。

(今の愛され悪役令嬢ぶりですと、余程のシナリオの強制力でもないかぎり、順調に破滅回避が叶いそうですし)

 油断大敵とは思っておりますけれど、不穏な気配は恋愛イベントが進まず乙女ゲームとしての存在意義がなくなりそう、というくらいで、今のところ本当に愛され悪役令嬢ルートを邁進してしまっております。

(相思相愛の方との結婚だって、叶えられるのではないかしら!)

 お姉さまの惚気話に当てられたのか、わたくしもいよいよ新しい恋を目指してもいいような気がして参りました。

 乙女ゲームのメインシナリオの攻略はヒロインと攻略キャラクターのお仕事ですものね。
 わたくしは破滅に繋がりそうな気配にだけ注意を払い、並行して未来の旦那さま探しをする。
 それが良いオトシドコロなのでは?

 正直乙女ゲームのシナリオにどう関わっていくのか悩むのにも飽きてきておりますし、攻略キャラクターの皆さまとはまったく別のところで、セーラ様と関わらない方を選べば丸く収まるのでは、などというのは甘い考えでしょうか。

(それでも悩んで憂鬱に過ごすのももったいないですもの、星集めに各地へ飛んできっとお忙しい皆さまのいない間に、夜会など精力的に出てしまおうかしら)

 レオナルド様ほどの、とは言いませんが、それくらいステキなわたくしだけの星を探してみるものも悪くないような気がしてきました。

(うふふ、わたくしだけの星なんて!)

 遠く離れサジッタリオの空の下、きっとわたくしへ心配をかけないようにと奮闘されている皆さまのことはさておいて、わたくし俄然やる気に満ちてきましたわ!

(レオナルド様のことがあって、それからセーラ様が現れてからも、わたくしずっと受け身になってしまっておりましたものね。
 そろそろ転生悪役令嬢の本気というものを出す頃ですわ)

 知識がある分、アドバンテージもあるのですから、おそれていては何もはじまりませんわ!

 ベアトリーチェ様とのお茶会ですっかり元気を取り戻したわたくしは、魔物討伐のために夜中起きていらっしゃるであろう皆さまのことを思って眠れぬ夜を過ごす、こともなく、グッスリと心地の良い睡眠をとり、はじめの星を手に入れるその日を迎えました。
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