見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!

すな子

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 恋のポエム日記に隠された重要なポイントに、殿下たちもそろって顔を上げました。

「巫女、星について他に何か記されていないだろうか?」
「ほかに?」
「どんなものだとか、どこで見つけたかとか、なんでもいいんだ」
「場所かー。何かの名前はたくさん出てくるんだけど、ヒトなのか地名なのかなんとなくしかわからないんだよね。
 あ、ひとりおっさんって書かれてるけど」

 ココ、と巫女様が示したところには、

『あのおっさんマジでうるさい』

 とポエムとは真逆の、素のトーンと思われる一文が。
 殿下たちには読めなくて何よりです。

「星の声が聞こえるとか星が導くんだとか言ってて、マジでヤバいやつだって書いてある」

(おっさん様!たぶん重要人物ですのに!!)

 巫女様の言葉に、ふと考え込んだような殿下が、何か思い出したように身を乗り出しました。

「待って、聞いたことがある。
 ステラフィッサ王国の建国の際、尽力してくれた星の民というものたちがいたと」

 殿下曰く、星の民とは、星の声を聞いて行う占星術などを生業としていた一族で、とくに力が強いもの、族長などになるとアステラ神様と言葉を交わせるほどだった、とか。

「この千年で、姿を消したと言われているけれど……」

 前の巫女様がおっさんと呼んで邪険にしている方は、おそらくわたくしたちにとっては是非とも導いていただきたい存在に違いありません。

「殿下、それは、のか、単純に姿のか、そのどちらでしょうか」

 お兄さまが二本指を立て、可能性を問いました。

「そのどちらとも、今ははっきりはわからないな」
「左様ですか。
 では、巫女様の助けになるべく我々がすべきことは、まずは今ある日記からできるだけ情報を得ること、前の巫女様の他の日記を見つけること、そして星の民の消息を調べること、に絞られますね」
「それから、その十二の星を探す、という具体的な行動に移れる、ということか」
「はい。闇雲に探しても、時間の浪費にしかならないでしょうから」

 力強く頷いたお兄さまに、なんて頼りになる攻略対象様でしょうかと思わず惚れ惚れしてしまいます。
 一気に、物語が動き出したような感じがいたします。

(それでしたら、わたくしができることは)

「ティア、すまないけれど、巫女様が地名かお名前かわからないと仰るところを、読みあげていただいて書き出してくれるかい。
 私たちなら判別はすぐにつくし、人名も、調べれば何か手がかりにはなるかもしれない」
「私も手伝います」

 ファウストが名乗りをあげてくれたので、分担ができました。

 殿下とお兄さまが、日記のありかと星の民の消息を。
 巫女様とわたしとファウストで、今ある日記の解読作業を。

「わぁ。ただのポエム日記だと思ってたのに、見る人が見るといろんなことがわかるんだねぇ」

 巫女様は感心したように目をパチクリさせていますが、わたくしがその日記にすべて目を通したら、もう少し情報が引き出せるような気がいたします。

(読めないことになっているのが、惜しいですわね)

 歯がゆいですが、こればかりはどうにも。

「探しものについては、シルヴィオとフェリックス、ラガロにも動いてもらおう」
「それがよろしいかと」

(……?)

 さも当たり前のようにお二人は納得しておりますが、そこでようやくわたくしは違和感を覚えました。

(国をあげて災厄に対処しなければならないのに、まずは国王陛下や宰相様に指示を仰いだりいたしませんの?)

 乙女ゲームのシナリオで言えば、攻略対象に手伝ってもらい十二の星の秘密を探る、というのもわかる気はするのですけれど。
 
(ここでそれを言えば、シナリオが変わってしまうのでしょうか?
 シナリオ改変をして破滅回避につながればいいのですけれど、思いもよらない方向から破滅フラグがやってくるとか、もしくはうまく攻略が進められないことで、災厄のほうが回避できなくなってしまうとも限りませんから、どちらが正解か、判断がつきかねますわ)

「報告は、どのように?」

 悩んでいると、またしてもファウストが声を上げてくれました。
 わたくしの悩んでいることがすべて筒抜けのようなタイミングのよさですけれど、わたくしと思考回路が近い、ということかもしれません。
 攻略対象寄りではないような気もいたしますが、顔に表情が出にくいだけで、頭の回転はこの中の誰よりも早いのがファウストですから、ほかの誰よりも気づくことが多いのですわね。

「もちろん、国王陛下には進展があったことを直接報告するけれど。
 ……ああ、そうか、ファウストは知らなかったか。
 今回の災厄について、陛下から裁量権を賜り、私が指揮を取れるようにお願いしたんだ」

 驚いたことに、殿下は半年前の「神託」から、陛下に掛け合って災厄に関する責任者となり、その任命もすでに受けていたそう。
 わたくしも存じ上げませんでしたわ。

「すでに立太子されているとは言え、国の上に立つものとして実績が欲しかったのもあるけど」

 お兄さま含め側近候補の皆さまを動かし、その動きが国の動きとして連動されるように組織編成も行われているそうで、わたくしの知らないところで殿下は頑張っていらっしゃったようです。

 説明をしてくださっているエンディミオン殿下の眼差しが、わたくしに何か期待するように熱心に注がれます。

(あら?いつものキラキラが……)

 巫女様がいらっしゃるので油断しておりましたが、殿下のファイア・オパールの瞳が訴えかけるように煌いて、雄弁に想いを伝えてきます。

「?」

 わたくしはそれには気づかない設定でおりますけれど、果たして現役女子高生の巫女様がその意味に気がつかないものでしょうか。

(まさか、殿下、巫女様がいらっしゃるのに、)

「ルクレツィア、貴女にいいところを見せたい一心だと言ったら、軽蔑するだろうか?」

 切なげなお顔で、手も握られそうな距離で覗き込まれてしまいましたわ。

(アウト!)

 横でご覧になっていた巫女様が、恋愛映画のワンシーンでも見ているような反応で、ときめきに瞳を輝かせておりました。














 
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