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どのように話を持っていくか考えていると、意外にもファウストが巫女様へ先に問いかけました。
「巫女様は、これからどのようにお務めを果たされるのでしょうか」
(まぁ、なんて直球を)
会話の文脈だとか、巫女様の気分を害さないようにだとか、そういう配慮の一切ない切り口で、わたくしのほうが驚いてしまいました。
「ファウスト、いきなりそんな話をされては、巫女様が驚いてしまうよ」
「…………失礼しました」
お兄さまも苦笑しながらファウストを嗜めますが、ファウストの真っ直ぐな目は、巫女様に問いかけたまま、答えを求めてじっと注がれております。
「いいですいいです!
私もよくわからないことが多いから、誰かに聞いてほしかったし」
巫女様は、どのように段取りをつけていこうかと悩んでいたわたくし(おそらく殿下とお兄さまもですが)の思いとはウラハラに、あっけらかんと答えてくださいました。
「えーと、まずね、マテオさんからは、好きに過ごしていいって言われたんだけど、私って、巫女っていうのなんでしょ?
だから何にもしないわけにはいかないと思って、そしたらね、マテオさんがこんなのを預けてくれて」
そう言って巫女様は、何かの冊子を取り出しました。
(……あれは、メモ帳?)
前世ではよく目にしたことのある、リングタイプの小さなノートですが、こちらの世界にはないものです。
製紙技術などの問題で、まだまだこちらの文明では作り出せていないもののはず。
(それを、ヴィジネー大司教様が持っていらした?)
どういうことでしょう。
「マテオさんは、星の巫女の聖典だって言ってたんだけど……」
「聖典?そんなものを持ち出して大丈夫なのかい?」
「大丈夫だと思う。……ていうか、これね、前の星の巫女の日記だと思う。
誰も読めないっていうからどんな難しいことが書いてあるのかと思ったんだけど、これ私の故郷の文字だよ」
そう言って巫女様が広げた「聖典」には、確かに「ニホン語」が。
(……ん?そういえば、巫女様と私たちって何語で話しているのでしょう?)
妙なところに引っかかってしまいました。
問題なく意思の疎通はできておりますが、わたくしは転生してからずっとステラフィッサの公用語で話しておりますし、「ニホン語」を発音することがもうできません。
読み書きはまだできますから、「聖典」の内容は理解できますけれど。
(えーと……?あら、まあ)
「これは、読めないね」
「何と書いてあるんだい?」
殿下とお兄さまはまったくお手上げの状態ですけれど、わたくし、しっかり読めてしまいました。
その内容というのが、
「全部読んでみたんだけど、本当にただの日記。
この、バル様っていう人に、だいたい恋しちゃってるようなポエムな感じ」
(そうですわね、これは、確かにポエムですわ……)
書いているその時はよくても、あとで読み返すと本人でも恥ずかしくていたたまれなくなる、あの恋する乙女のポエム日記です。
(それを、一千年かけて聖典として保存され、かつ後世の巫女様に読まれてしまうなんて、前の巫女様もお気の毒に……)
わたくしだったら軽く二回は死ねます。
(えぇと、問題はそこではありませんわ!
前の巫女様といえば、)
「つまり、前の巫女、ステラフィッサ王国の初代王妃陛下も、巫女様の世界からいらしたということですか」
「そういうことになるね」
ファウストも同じ結論を出し、エンディミオン殿下も同意しました。
殿下も異世界の血を引いている、という事実に。
「バル様、バルダッサーレ一世のこと、と思っていいのかな」
「わからないけど、ここにね、こっちの国の言葉かな、一生懸命綴りを練習しているのがそのバルダッサーレ?さんの名前かな」
そこには、ステラフィッサの古い書体の文字で「バルダッサーレ」と何度も書く練習をした健気な跡が。
(~~っ、こんなものまでヒトサマに見られてしまうなんて、本当に、本当に前の巫女様がお気の毒ですわっ)
共感性羞恥心というのでしたかしら。
わたくしまで恥ずかしくなってしまいます。
「この、書いてある冊子も、巫女様の国のものでしょうか」
恥ずかしくなっているのはわたくしだけで、殿下やお兄さま、ファウストは淡々と重要な事実だけを拾っていきます。
「そうだと思う。ここに、メイドインジャパンって書いてある」
「メイ……?」
「ニホン製ってことだよ」
「千年も前から、これほどの技術が……?」
物作りをしているファウストならではの視点ですわね。
けれど。
(千年も前に、ニホンでもこのようなノートはありませんでしたわ。
つまり、千年前にいらした巫女様も、わたくしの前世や巫女様のいた時代と、大差のない頃の方、ということですわね)
「こっちの世界では千年も前のヒトだけど、ニホンでは、私と変わらないくらいの子だったんじゃないかな」
巫女様も、同じことに気がついたようです。
時間軸がどうなっているのか、世界を越える時、時間も超えているのかなんなのか、異世界召喚にありがちといえばそうですけれど、巫女様にしてみれば、同年代の少女と思われる前の巫女が、すでにこの世界では千年も前に亡くなっているということになります。
(そうして、あちらには帰らなかった)
その事実に巫女様が気がついたかどうかはわかりません。
前の巫女様も、帰れなかったのか、帰らなかったのか、それもまだ何もわからないのです。
「この日記ね、たぶんだけど、一部なんだと思う。
もう何冊かあるんじゃないかな」
「どうして?」
「ここへ来た頃のことが何にも書いてなくて、途中からなの。
何か、星みたいのを探してるって書いてあるんだけど……」
「星?」
「災厄を止めるためにね、十二の星を探さないといけないらしくて、その五つめくらいを見つけたところからなの」
(!)
巫女様っ、それがおそらくこの聖典ではいちばん重要なところですわ!
「巫女様は、これからどのようにお務めを果たされるのでしょうか」
(まぁ、なんて直球を)
会話の文脈だとか、巫女様の気分を害さないようにだとか、そういう配慮の一切ない切り口で、わたくしのほうが驚いてしまいました。
「ファウスト、いきなりそんな話をされては、巫女様が驚いてしまうよ」
「…………失礼しました」
お兄さまも苦笑しながらファウストを嗜めますが、ファウストの真っ直ぐな目は、巫女様に問いかけたまま、答えを求めてじっと注がれております。
「いいですいいです!
私もよくわからないことが多いから、誰かに聞いてほしかったし」
巫女様は、どのように段取りをつけていこうかと悩んでいたわたくし(おそらく殿下とお兄さまもですが)の思いとはウラハラに、あっけらかんと答えてくださいました。
「えーと、まずね、マテオさんからは、好きに過ごしていいって言われたんだけど、私って、巫女っていうのなんでしょ?
だから何にもしないわけにはいかないと思って、そしたらね、マテオさんがこんなのを預けてくれて」
そう言って巫女様は、何かの冊子を取り出しました。
(……あれは、メモ帳?)
前世ではよく目にしたことのある、リングタイプの小さなノートですが、こちらの世界にはないものです。
製紙技術などの問題で、まだまだこちらの文明では作り出せていないもののはず。
(それを、ヴィジネー大司教様が持っていらした?)
どういうことでしょう。
「マテオさんは、星の巫女の聖典だって言ってたんだけど……」
「聖典?そんなものを持ち出して大丈夫なのかい?」
「大丈夫だと思う。……ていうか、これね、前の星の巫女の日記だと思う。
誰も読めないっていうからどんな難しいことが書いてあるのかと思ったんだけど、これ私の故郷の文字だよ」
そう言って巫女様が広げた「聖典」には、確かに「ニホン語」が。
(……ん?そういえば、巫女様と私たちって何語で話しているのでしょう?)
妙なところに引っかかってしまいました。
問題なく意思の疎通はできておりますが、わたくしは転生してからずっとステラフィッサの公用語で話しておりますし、「ニホン語」を発音することがもうできません。
読み書きはまだできますから、「聖典」の内容は理解できますけれど。
(えーと……?あら、まあ)
「これは、読めないね」
「何と書いてあるんだい?」
殿下とお兄さまはまったくお手上げの状態ですけれど、わたくし、しっかり読めてしまいました。
その内容というのが、
「全部読んでみたんだけど、本当にただの日記。
この、バル様っていう人に、だいたい恋しちゃってるようなポエムな感じ」
(そうですわね、これは、確かにポエムですわ……)
書いているその時はよくても、あとで読み返すと本人でも恥ずかしくていたたまれなくなる、あの恋する乙女のポエム日記です。
(それを、一千年かけて聖典として保存され、かつ後世の巫女様に読まれてしまうなんて、前の巫女様もお気の毒に……)
わたくしだったら軽く二回は死ねます。
(えぇと、問題はそこではありませんわ!
前の巫女様といえば、)
「つまり、前の巫女、ステラフィッサ王国の初代王妃陛下も、巫女様の世界からいらしたということですか」
「そういうことになるね」
ファウストも同じ結論を出し、エンディミオン殿下も同意しました。
殿下も異世界の血を引いている、という事実に。
「バル様、バルダッサーレ一世のこと、と思っていいのかな」
「わからないけど、ここにね、こっちの国の言葉かな、一生懸命綴りを練習しているのがそのバルダッサーレ?さんの名前かな」
そこには、ステラフィッサの古い書体の文字で「バルダッサーレ」と何度も書く練習をした健気な跡が。
(~~っ、こんなものまでヒトサマに見られてしまうなんて、本当に、本当に前の巫女様がお気の毒ですわっ)
共感性羞恥心というのでしたかしら。
わたくしまで恥ずかしくなってしまいます。
「この、書いてある冊子も、巫女様の国のものでしょうか」
恥ずかしくなっているのはわたくしだけで、殿下やお兄さま、ファウストは淡々と重要な事実だけを拾っていきます。
「そうだと思う。ここに、メイドインジャパンって書いてある」
「メイ……?」
「ニホン製ってことだよ」
「千年も前から、これほどの技術が……?」
物作りをしているファウストならではの視点ですわね。
けれど。
(千年も前に、ニホンでもこのようなノートはありませんでしたわ。
つまり、千年前にいらした巫女様も、わたくしの前世や巫女様のいた時代と、大差のない頃の方、ということですわね)
「こっちの世界では千年も前のヒトだけど、ニホンでは、私と変わらないくらいの子だったんじゃないかな」
巫女様も、同じことに気がついたようです。
時間軸がどうなっているのか、世界を越える時、時間も超えているのかなんなのか、異世界召喚にありがちといえばそうですけれど、巫女様にしてみれば、同年代の少女と思われる前の巫女が、すでにこの世界では千年も前に亡くなっているということになります。
(そうして、あちらには帰らなかった)
その事実に巫女様が気がついたかどうかはわかりません。
前の巫女様も、帰れなかったのか、帰らなかったのか、それもまだ何もわからないのです。
「この日記ね、たぶんだけど、一部なんだと思う。
もう何冊かあるんじゃないかな」
「どうして?」
「ここへ来た頃のことが何にも書いてなくて、途中からなの。
何か、星みたいのを探してるって書いてあるんだけど……」
「星?」
「災厄を止めるためにね、十二の星を探さないといけないらしくて、その五つめくらいを見つけたところからなの」
(!)
巫女様っ、それがおそらくこの聖典ではいちばん重要なところですわ!
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